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経済の悪化は、人の命に関わるという話。

日本で最初の新型コロナウイルス感染者が確認されてから、約2ヶ月半が過ぎた。

「経済よりも命の安全を優先しなければいけない」という話は当然である。一方で、「コロナで直接死ぬことも怖いが、経済で人が死ぬことも怖い」という意見にも共感する。経済が悪化すると、自殺率は上がるからだ。

つまり、「命か経済か」ではなく、「命も経済も」守らなければいけない。

*僕自身は、この6年ほど新宿区の自殺対策の委員を務めると同時に、全国10の自治体の生活困窮世帯の支援を行っている。また、中小企業の経営者なので、自社の雇用を守るために全力を尽くしたいと思っている。

経済が悪化すると、自殺者は増える


厚労省が公開している「平成28年版自殺対策白書」では、景気の動向が「経済・生活問題」を理由とする自殺者の増減と関係があることが報告されている。

警察庁の自殺者の統計データによると、リーマンショック後(2009年)の自殺者数は年間で約3万人。職業別の割合をみると、半数以上が無職者(56%)であり、次いで被雇用者(28%)、自営業者(10%)であった。つまり、自殺する方の多くが無職者だ。

そして、リーマンショック後の10年間で自殺者は3万人から2万人まで減った。1万人の自殺者の減少のうち、7千人は無職者の方の減少だった。

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このことから、「経済・生活問題」で苦しむ無職者による自殺が年々減っていることが推測できる。雇用や収入が安定することで、自殺が減ったのだ。つまり、経済が悪化すると自殺は増え、経済が安定すると自殺は減る。

自営業者は、自殺に至るまでの年数が短い

一方、NPO法人ライフリンクが発行する「自殺実態白書2013」では、自営業者は他の職業の人に比べて「自殺に至るまでの期間が短い」と報告されている。

人が自殺をする時には複数の因子が存在する。

前述の自殺実態白書によれば、最初の自殺要因の発現から自殺で亡くなるまでの日数は、全体平均が7.5年(※中央値は5.0年)である。一方、自営業者の平均は4.0年(※中央値が2.0年)と短い。自営業者は最初の因子を抱えてから自殺に至るまでが早いということだ。

つまり、自営業者への支援策は喫緊の課題である。策を打ち出すまでの時間がかかればかかるほど、自営業者の自殺者が増える危険性があると考えられる。

下記のグラフは自殺に至るまでの年数を職業別に表したものである。平均値、中央値どちらにおいても自営業者が最も短い。

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下記に該当者の多い上位10個の要因を挙げる。これらを見る限りでも、経済面に関する要因が多いことが伺える。

【危機要因の中の10大要因(順不同)】
①事業不振
②職場環境の変化
③過労
④身体疾患
⑤職場の人間関係の悪化
⑥失業・就職失敗
⑦負債(多重債務等)
⑧家族間の不和(夫婦)
⑨生活苦
⑩うつ病

この中でも最も該当者が多かった因子は「うつ病」であり、「自殺の一歩手前の要因であると同時に、他の様々な要因によって引き起こされた結果でもある」とも、白書の中では述べられている。

生活が困窮するとうつ病リスクは高くなるのか?

では、うつ病自体も、経済状態との間に関係はあるのだろうか。

例えば、東京都江東区が平成31年に発表した「子育て世帯生活実態調査」では、「(小・中学生の)子育て世帯において、生活が困窮している世帯の保護者の方がうつ病や精神疾患になる可能性が高い」というデータが報告されている。

精神疾患リスクを判定する質問において、「うつ病や不安障害の可能性が高い」とされるスコアが出た方は、小学生の困窮層の保護者の23.5%が該当し、一般層に比べて14.8%高い。中学生の困窮層の保護者は30.7%が該当し、一般層に比べて20.8%高い。

小中学生どちらにおいても、困窮層の方が、保護者がうつ病や精神疾患になる可能性が高いことが報告書に記載されている。

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私は経営する会社では東京・大阪の10の自治体の生活困窮世帯の子どもたちの支援を委託事業として行っているが、私自身の経験から考えても「生活困窮とうつ病」には一定の関係がある。このまま景気が悪化し続ければ、生活が困窮し、うつ病リスクが高まる人の増加も危惧される。そのことで、自殺者が増える可能性は高い。

現状の施策で、本当に人の命を救えるのか

これまで書いたように、経済と自殺は関連している。経済が安定していれば、毎年1万人の自殺者が救えるかもしれない。コロナ対策とセットで経済的支援を行わなければ、コロナが収まったとしても、リーマンショック時の自殺者数に戻ってしまうかもしれない。

本日4月10日、小池東京都知事は「都は中小の事業者に対して一律50万円を協力金として給付する。ただ、2店舗以上を所有する業者は、100万円とする」という政策を打ち出した(2020年4月10日付け日本経済新聞電子版)。

しかし、一定規模の中小企業にとって、「一律50万円を協力金として給付する。ただ、2店舗以上を所有する業者は100万円」という施策は、ほぼ意味がない(ちなみに弊社の場合、月額の固定費(正社員50名の給与+13か所の家賃)だけで3000万円以上かかる)。

また、先日、日本政府は雇用調整助成金の特例措置を拡充した。雇用調整助成金とは、「一時的な雇用調整(休業、教育訓練または出向)を実施することで、従業員の雇用を維持した場合に助成される」助成金のことだ。つまりこの助成金があれば、「一時休業」しやすくなる。

この雇用調整助成金にも課題があるが長くなるので、別の文章で書きたいと思う。ただ、政府も今急いで雇用調整助成金に関する政策を変更しているところだということなので、とても期待したい(2020年4月10日付け朝日新聞電子版)。

中小企業の経営に補償が必要なのか?

「緊急事態を想定してこその経営だ」という主張もわかる。僕自身もこういう事態に備えて、社内に一定規模のキャッシュを貯めてきた。だからこそ、現状では「休業して助成金制度を使う」という決断は回避している。

しかし、この社会には「ギリギリで回っている中小企業」が数多くあるのも事実だ。そのような企業が一斉に倒産することで失業者は増え社会不安も増す。

このような日本の状況と比較して、ヨーロッパの補償制度は充実しているように見える(2020年4月1日付NHK)。イギリスは、雇用が維持されるよう、政府が働く人の賃金の80%を肩代わりする。フランスは、従業員に対し政府が原則として賃金の70%までを補償しする。スペインでは一時解雇となった人に対し、それまでの賃金の70%に当たる失業手当を政府が支払う。

つまり、企業が賃金を払えなくなった分は国が肩代わりする。こうすれば安心して、中小企業は休業できる。八方塞がりの状況であっても、従業員の生活を守ることができる(ちなみに、日本の7割が中小企業で働いている。大企業で働く人は3割しかない)。

そのことで原因発生から自殺までの期間が短い自営業者を救うことができる。また、そこで働く従業員も無職に陥らずに済む。

こういったシンプルで使いやすい補償制度がない限り、日本を支えてきた中小企業と、そこで働く人々が死んでしまうだろう。

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医療現場では、多くの人々が人命救助に励んでいる。だからこそ、経済で人を死なせないための経済対策が必要不可欠である。医療で一万人を救うことができても、経済で一万人が死んでしまう未来を迎えたくはない。私たちは、命も経済も、どちらも守らなければいけない。政府には自殺者を出さないための政策を打ち出して欲しいと切に願う。

(*サムネイルの写真は本文には関係ありません)

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