甘い言葉の罠:偽りの約束
麗奈は、会社のエントランスで裕也と再会した。高校時代の同級生だった彼とは、卒業以来ほとんど連絡を取っていなかったが、偶然にも同じビルで働いていることが分かった。裕也は以前と変わらず、爽やかな笑顔を浮かべていた。
「久しぶりだね、麗奈。今度、食事でもどう?」裕也の言葉に、麗奈は心が弾んだ。彼は昔からクラスの人気者で、麗奈も密かに彼に憧れていた。再会の機会に胸を躍らせ、彼の誘いを快諾した。
食事の席で、裕也は昔話に花を咲かせながらも、現在の自分の仕事や生活についても話してくれた。彼は広告代理店で働いており、忙しい日々を送っているという。
「今回は本気だから。」
裕也のその言葉に、麗奈は驚いた。彼が真剣な表情で彼女に向き合っていることに心を動かされたのだ。高校時代の憧れの存在が、今は彼女に対して本気だと告げている。麗奈は彼の言葉を信じたい気持ちでいっぱいだった。
彼らは大学時代にも短期間の付き合いがあった。最初の1年は楽しく、充実した時間を過ごしたが、次第にすれ違いが多くなり、それが原因で別れてしまった。その時の痛みを知っている麗奈は、再び裕也と付き合うことに不安を感じながらも、彼の言葉を信じることにした。
それから、彼らはデートを重ねるようになった。映画を見たり、美術館を巡ったり、週末にはドライブに出かけたりと、楽しい時間を過ごした。彼の優しさや笑顔に触れるたび、麗奈は彼との未来を夢見るようになっていった。
しかし、次第に彼の態度に違和感を感じ始めた。約束していたデートを突然キャンセルされたり、連絡が途絶えることが増えていったのだ。
「仕事が忙しくてごめん。」裕也はいつもそう言い訳をしたが、麗奈の心には不安が募るばかりだった。
ある日、麗奈は裕也と約束していたディナーの予約をキャンセルされた後、偶然にも彼が他の女性と一緒にいるところを目撃してしまった。彼らは親しげに話し、笑い合っていた。その光景に、麗奈の心は張り裂けそうになった。
「今回は本気だから。」その言葉が頭の中で何度も繰り返された。彼の「本気」がただの口先だけだったことを、麗奈は痛感したのだ。
涙を堪えながら、麗奈は裕也に電話をかけた。約束のディナーをキャンセルされたことについて話をするためだ。
「麗奈、どうしたの?」裕也の声が電話越しに響いた。
「裕也、会って話がしたいの。今から時間ある?」麗奈の声には決意が込められていた。
彼らはいつものカフェで会うことになった。カフェに到着した麗奈は、彼の姿を見つけると深呼吸をして席に着いた。
「麗奈、今日は本当にごめん。仕事が立て込んでいて…」裕也はいつものように弁解し始めたが、麗奈は彼の言葉を遮った。
「裕也、もういいの。今日、偶然あなたが他の女性といるところを見かけたの。」麗奈の声は震えていたが、彼女の決意は揺らがなかった。
裕也の顔が青ざめた。「麗奈、それは…誤解なんだ。本当に仕事の同僚で…」
「もう言い訳は聞きたくない。」麗奈は強く言った。「私は、あなたの言葉に何度も裏切られてきた。今回は本気だと言ったのに、実際には何も変わっていない。」
裕也は何も言い返せず、黙り込んだ。
「私、もう疲れたの。」麗奈は涙をこぼしながら続けた。「あなたの甘い言葉に振り回されるのはもう嫌。自分の幸せを自分で見つけるために、あなたと別れることを決めたの。」
裕也は目を伏せた。「麗奈、申し訳ない。本当に…」
麗奈は立ち上がり、裕也の前に置かれたコーヒーカップに目をやった。「さよなら、裕也。」そして彼女はカフェを後にした。
外の冷たい風が麗奈の頬を撫でたが、その一方で心の中には新たな決意と自由が広がっていた。彼女は自分の足で未来を切り開くことを誓い、一歩一歩前に進み始めたのだった。
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