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トークイベント成相肇×渡名喜庸哲「哲学と美術をつなぐ書物たち」に行ってきました。

一昨日の11月22日(木)に高円寺「本の長屋」で行われたトークイベント成相肇×渡名喜庸哲「哲学と美術をつなぐ書物たち」に行ってきました。

お二人の学問の背景にあるもの(二人は一橋大学の同期生で、当時、国立にあったコクテイル書房で出会ったことなども含めて)がよく分かって、すごく面白かった。
司会の狩野俊さん(コクテイル書房店主・「本の長屋」代表)もなかなか良い味を出していて、旧知のお二人もリラックスして話されているように思えました。

学生としてコクテイルというひとつの古書店にたむろしていた若者2人が、20年の時を経て偶然にも同時期に単著を出版し、そして店主の狩野さんと共に語り合うという、実に素敵なイベントだった。今も昔もコクテイルは色々な人びとが出会う「ハブ」みたいな場所。こういう所が今は高円寺にあることの幸運。

それに刺激されたので、このお二人の書かれた近著2冊を読んだ感想を、あくまでも学問には素人の編集者(まあ、編集者というものは何でも半可通の常時初学者だと思うが)としての視点から書いてみたいと思います。
トンチンカンなことも書いているかもしれないが、どうか笑って許してください。

以下、文体を変えます。

最初に、成相肇さん著『芸術のわるさ』(かたばみ書房)について。
この本は簡単に言うと現代美術評論がテーマなのだが(ただ、そう簡単に割り切って言えるほど、良い意味で「行儀のよい本」ではないのだが)、まず第一に、ひじょうに手を掛けて作られている本だということ。
表紙カバーはもちろん、本文の組み方や書体の選び方、写真などのレイアウト含めて「これはプロの仕事だ」と一目見て分かる仕事であるということ。しかも相当考えて作られている。
そして、全体の構成。たくさんの色々なテーマに関わる文章をセレクトして分類し、さらに改稿して、大きく4つに部立て構成にしている(実はこの部立てというものが本を編集するにあたってかなり大事なのだが、結構難しい)。さらにその中に配置されていない冒頭の「不幸なる芸術」「ファウルブックは存在しない」が序章的な意味をもって「この本は何者なのか」を強く主張している。
さらに面白いのは、殆どの章がここでは何を論ずるのかが最初はよく分からないものが多いのだが、読み始めてみるとどんどん引き込まれて、書名にあるような「わるさ」の沼に引きずり込まれる面白さに惑溺してしまうところ。加えて、「あとがき」が二つあるのも変で面白い。
著者である成相さんの個性とそれを受け止めつつ、さらにそれを増幅させて解き放った編集者・小尾章子さんの実力をまざまざと見せつけられた。

そして渡名喜庸哲さん著『現代フランス哲学』(ちくま新書)は、新書という、いわばある一定のフォーマットに従いながらも、内容面では単なる入門書ではいられなかった著者の思いが湧き出ている一冊になっていると思う。
私は哲学については素人だが、それでも入門書は好きで読むほうである。でも、世間によくある哲学入門書のような行儀のよい本ではない。哲学についての内輪の基礎知識や教養を初学者に与えますよという姿勢ではなく、読者にそれらの哲学が生じ展開してきた場であるフランスとその現代史という背景を伝え、それを常に意識させつつ20世紀後半から現在のフランス哲学・思想について解説していくというのが、歴史学を学んできた私にはとても面白かった。
「ジェンダー/フェミニズム思想」はもとより、「〈宗教的なもの〉の再興」「技術哲学」「労働思想」といった章タイトルからわかるように、現代人にとってアクチュアルな問題に哲学がいかに大いに関係しているかを繰り返し語り、「哲学って何の役に立つの?」という疑問に正面から向き合っている本だと感じた。そういう意味で、真に現代を生きるために哲学を使いたいと思うなら、まずはこの本だろうと思う。
さらに面白いのは各所にたくさん挿入される「コラム」である。これらをよくある本文補足的な、もしくは単にこの本を読みやすそうだと感じさせるためだけのものだと思っていたら、良い意味で裏切られる。もちろん、補足などではあるのだが、「フランスで哲学者になるには」とか、「文庫クセジュ」「フランスのデモ」など実に個性的なテーマのコラムが並んでいるのだ。きっと、コラムのテーマ自体をすごく頭をひねって考えたのであろうと思われる。「次はどんなコラムがくるだろう」と楽しみでさえある。
実は、読ませるコラムを置くというのはとても難しい創造的作業。こういう構成・テーマ選びも著者自身が考えたのか、編集者である加藤峻さんと相談して決めていったのか質問すればよかったとあとで反省した。

このように、2冊ともかなり個性的な本であり、かつどちらも知的興奮に満ちた本であることは間違いない。
ぜひ手に取っていただきたいと思う。