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Splatoon はイカに革新的だったのか?

――しかし革命の後では気高い革命の心だって、官僚主義と大衆に飲み込まれていくからインテリはそれを嫌って、世間からも政治からも身を引いて世捨て人になる。

2022年6月25日、スプラトゥーン2、最終回のツキイチリーグマッチが開催された。
2020年10月でフェスイベントが終了、2021年9月にて事実上最終のアップデートが配信、そして今回のツキイチリーグマッチ終了。おそらく今回をもって任天堂から提供されるスプラトゥーン2のコンテンツは打ち止めとなるだろう。ここでいったんスプラトゥーン2は終了となる……ということでこれまでの歩みを振り返りつつ、スプラトゥーン3への期待を書いてみたいと思う。

初代『スプラトゥーン』は2015年にWiiUで発売されたTPSゲームだ。筆者はスプラトゥーン2から始めたプレイヤーのため、初代はほぼプレイしたことがないが、それでも当時「なんかやばいゲームがWiiUにきた」くらいの噂は聞こえてきていた。それまで対戦をメインとしたTPS・FPSゲームというと『Battlefield』や『Call of Duty』などミリタリー色が強いもの、『タイタンフォール』や『Halo』などSF感の強いものが大多数で、いずれにせよ暴力性の強いものがほとんどであったように記憶している。そんな中登場したスプラトゥーンは、ビビッドなカラーを使用し、キャラクターの等身が低く、既存の同ジャンルゲームからすると革新的なビジュアルであったといえるだろう。ブキ自体も筆やバケツといったインク(絵の具)や文房具由来のもの、形そのものは銃器を元にしているが、どちらかといえば水鉄砲やおもちゃ銃といった様相のものが多く、暴力色を薄くすることに努められている。

N-ZAP85。通称黒ZAP。元ネタはNES周辺機器であったZapper。形は銃だが、その実おもちゃ。

一方でゲーム性は既存のものと比較するとどうか。誰の目にも明らかな特徴は、やはりステージがインクによって塗られる点だ。インクの効果を端的に述べればバフ/デバフである。自分のチームのインクで塗られている場所ではできる行動が増え、反対に敵チームインクで塗られている場所ではまともに歩けすらしない。また他のFPSやTPSと比較してマップが狭い(=接敵機会が多い)こと、それに伴ってにひと試合の時間も3分、または5分と短いことも地味ながら確かな特徴として挙げられるだろう。
ひとつ誤解だと指摘しておきたいことがある。スプラトゥーンについて、直接的に敵を倒す(キルする)ことなく、インクを塗ることで活躍することができるから平和的、あるいは革新的なゲームと言われるのをよく耳にする。この点に関して筆者は、それは間違いだと断言する。ゲームに勝利するためには、結局のところキルを取らないと難しい。決められた陣地を塗り合う「ガチエリア」ではもちろん、比較してカジュアルマッチの扱いとなる「ナワバリバトル」においても、それは変わらない。ナワバリバトルでは塗り面積の多かったチームが勝利するが、面積をかせぐためには深く敵陣側に侵入する必要があり、自然敵と対面することになる。もちろん敵側も自分を狙ってくるため、どう考えてもキルすることなしにゲーム勝利することは難しいからだ。

では、システム面はどうだろう。ひとつ特徴的なのはコミュニケーションが非常に限られている点だ。十字キーの上下を押下することで味方にナイス、カモンといった呼びかけをすることができる。それ以外に敵はおろか味方ともコミュニケーションをとる手段は基本的にない。TPS・FPSではゲーム内ボイスチャットが利用可能なものも多いため、コミュニケーション手段が意図して削られていると考えるのが自然だ。任天堂は明確にゲーム内でのコミュニケーションを否定している。そしてそれはスプラトゥーン3でも継続することが明らかになっている(筆者はこの限られた手段さえも削られるのではないかと考えていた)。

左下の十字キー上下それぞれにカモン・ナイスの文字が見える
Nintendo 公式チャンネル 「スプラトゥーン3 ナワバリバトル プレイ映像」スクリーンショット

スプラトゥーン3に期待すること

さて振り返りはここまでだ。先述の通り『スプラトゥーン2』におけるコンテンツの提供はほぼ終了した。そして2022年9月にシリーズ最新作『スプラトゥーン3』の発売がすでに決まっている。ここからは『3』に期待することを書いていこう……正直に言うと『2』までのゲームそのものに筆者はかなり満足している。スプラトゥーンというゲームはかなり完成されている。不満といえば、味方チームと敵チームの編成がアンバランスになる、いわゆる編成事故くらいだ。筆者はスプラトゥーンに不満はない……ゲーム内には。これはスプラトゥーンだけに限った話ではないが、ユーザーコミュニティの努力によって実現している部分、つまりゲームの範囲外となっているものが多くあり、それらをゲーム内に実装したり、あるいはイベントとして促進するなどの取り組みを次作では期待したい、と考えている。

期待したいことのひとつは、大会の充実である。『2』時代、公式に開かれた大会は「スプラトゥーン甲子園(2018~2020)」と「NPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2」だけである。しかも採用ルールは双方ともにナワバリバトル。スプラトゥーンにはナワバリバトルを含めて5つのルールが用意されているが4つのルールが公式イベントの場では扱われていない。あまりにも大会が貧弱ではないだろうか。これは現在コミュニティベースで開催される大会によって補完されている。

単に強さを競う大会もあれば、制限のあるイベント的大会も開催されている 。「イカナカマ」より

コミュニティ大会で頻繁に問題となっているのが「ウデマエ詐欺」である。スプラトゥーンのランクは「ウデマエ」と称され、下からC-~S+、S+を超えると一律ウデマエXとなりその後はXパワーと呼ばれる数値の上下によってウデマエが表現されるようになる。ウデマエを無制限にした、トップ層のための大会ももちろんあるが、数値に上限を定め、近い実力で競うことを意図した大会がいくつかある。ただし、その数値申告はあくまで自己申告となってしまうため、嘘の数値で申し込むことが可能だ。いわゆる格下刈りを目的とするプレイヤー/チームがしばしば発生し問題となっている。これが「ウデマエ詐欺」である。コミュニティ大会は悪く言えば勝手にやっているだけであり任天堂の埒外なのは重々承知だが、先に述べた通り公式大会が貧弱である以上、コミュニティ大会が起るのは自然なことであり、またコミュニティ大会がスプラトゥーンにおけるひとつのシーンを作っていることは事実だ。最も求めるのは任天堂公式による大会の充実だが、それが難しいのであれば、コミュニティベース大会への支援機能が充実すると非常に嬉しい。コミュニティ大会で採用される代表的のルールとともに要望する機能を記載する。

・ルール:総コスト制 機能:最高パワーの可視化
4人のXP総計に上限を設定してチームを作るルール。例えば、合計XP10000以内でチームを組む。平均化すればXP2500の4人だが、1人をより強いプレイヤーにし、XPの低いメンバーを塗り要員など接敵が少ないポジション回すといった戦略が考えられる。なお数値化されない帯域は一律とすることが多い(S+:1900、S:1800など)。最高パワーが可視化されることでウデマエ詐欺も起きない。

・ルール:ブキ制限 機能:ブキ制限
特定ブキを使用するプレイヤーがチームにひとりは必須というルール。そのブキ名を冠した大会名になることが多い(ダイナモ杯(ダイナモローラー必須大会)など)。逆に特定のブキは使用禁止といった大会もある。指定のブキを使用して居ない限り準備完了にならず、準備時間タイムアップとなったらランダムに割り振られるなどの機能がゲーム内にがあれば良いかもしれない。

なお冒頭に記載した「ツキイチリーグマッチ」はガチマッチ4ルールの中から毎月ひとつ選ばれ、月末に開催されるイベントだ。一定の時間内で最高パワー値を競う。上位に入ると公式Twitterにより表彰されるため、ガチルールで競う場が公式に用意されていると言えばいるのだが……やはりイベント性には乏しいと感じる。ツキイチリーグマッチはオンラインイベントであって大会ではない。配信もなく当然観客も存在しないため、やはり大会としての盛り上がりとは異なる、と考える。

ここまでいわば一般参加者、野球で例えれば草野球レベルの趣味の大会の話をしていたが、大会シーンが拡がればトップ層の大会、つまりは競技シーンの盛り上がりも期待できる。2022年6月現在、スプラトゥーンのプロと称したチーム/個人が在籍する団体はいくつかあるのだが……いずれも活動は小規模だ。しかもその活動はプロプレイヤーというより配信者としての活動である。既存のプロスポーツを元に考えるとeスポーツプロシーンに求めるものも同様に「高いレベルでの勝負を興行として見たい」というものだろう。公式にそれを期待できるのが、先述の通り年に1度のナワバリバトルのみ、となれば貧弱な興行と言わざるを得ない。またそれは同時にプロプレイヤーの目指す場所がないことも意味する。公式大会もなければ、企業・団体が開く大きな大会もない。いくつかの名の通ったコミュニティ大会は存在するが、それがスプラトゥーンのプレイヤー全体に広く知られたものであるわけでもない。結果、プロを称するプレイヤーも配信者としての側面が強くなっていく。プロ・競技シーンが興行として成立するように舞台を整えることを期待したいと考える。

賞金付きの大会ないの?

話が少し飛ぶが、日本で高額賞金の出るeスポーツ大会が開催されないのは法的な問題が絡んでくるからだと言われている。しかし近年、eスポーツ推進団体であるJeSUによって整備・明確化が進み賞金の出る大会の開催が可能である状況が整ってきている。なおスプラトゥーン、スマブラと任天堂タイトルもJeSU公認タイトルとして登録があり、この流れに乗るのはあり得ない話ではない。

またNintendo of America主催ではあるが、2022年7月にガチルールの大会が開かれる予定もある。任天堂として大会の開催に消極的であるということもなさそうだ。

なお、下記は同じくアメリカの、しかもスマブラの話だが、任天堂の公認を受けたスマブラの大会が開催されることがアナウンスされている。しかも賞金つきの大会だ。

かなり都合よく並べ立ててしまった気はするが、しかし少なくとも任天堂が競技シーンに対して及び腰であるようには見えない。スプラトゥーンでも大会あるいは競技シーン、ちょっと盛り上がりそうじゃない? と筆者は期待する。かなり願望込みではあるが、あり得ない話でもないとも思う。

これまでの任天堂はファンと距離をとってきたように思う。あくまでゲーム作りに終始する……といえば耳障りは良い。しかしPvPゲームは、ゲーム内だけでは完結し得ない。他者と対戦することが前提であるからだ。もし対戦環境を現状のオンラインだけでなく、リアルと地続きなかたちで実装できたならば、それは本当の意味でスプラトゥーンが革新的なゲームになる瞬間だろう。


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