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父と映画のこと

父は映画と囲碁が好きでした。

物静かな父と何か話をした思い出はあまり浮かばないのですが、多趣味だった父は小さな私に囲碁をユーモアを交えながら熱心に教えてくれたり、柔道の真似事をして遊んでくれた記憶があります。

映画好きでもあった父は、母と毎週テレビのロードショーを見ていました。
私は母の布団に潜り込んで3人で映画を見るのがとても楽しみでした。
その当時はオカルトブームで「サスペリア」や「エクソシスト」を私は怖がりもせず興味津々で見ていた変わった子供でした。

他には、脳内出血をした人間の体の中に潜水艦ごとミクロサイズになって入り手術をする「ミクロの決死圏」を見て、ミクロサイズになった人が体の外に戻れなくなったらどうしょうと考えて怖くなったことを覚えています。


少し大きくなった私は映画よりも音楽に関心が向いて、「MTV」を毎週楽しみにするようになっていましたが、その後出会ったのは「ビッグ」という作品でした。
12歳の少年が心はそのままなのに30歳の大人になってしまうという作品を見て、人間味たっぷりのトム・ハンクスの大ファンになりました。
トム・ハンクスの作品は名作だらけですが、
「ハドソン川の奇跡」「クラウドアトラス」が特に好きです。


結婚して実家からは遠くへ住むようになった私は、幼い子供達を連れて年に数回実家に帰るようになりました。
相変わらず父とはうまく話せなくて、ギクシャクした感じでしたが、一度映画の話をしたことがあります。
父が面白い映画を見た、と私に言いました。内容を父に聞いてみると、私の頭に題名が浮かびました。
トム・クルーズの夢なのか現実なのか訳がわからなくなる不思議な映画「バニラ・スカイ」でした。
私も大好きな映画でした。


それから数年後、父はパーキンソン病になり寝たきりになりました。
実家に帰ったとき、居間の隣の部屋のベッドで寝ていた父が、思うようにならない身体のことを訴えたくて、「ゆー」と何度も私を呼びました。
私は呼ばれると父のところへ飛んでいき、ただそのもどかしさを聞いていました。


10年ほど前に父は亡くなりましたが、父の映画好きはたしかに私に受継がれています。




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