太腿の昇り龍
約6年?かそこら前、まだ京都の大学生だった時、それはそれは金がなかった。今もないけど。
実家から通える距離の大学なのに、女の子を連れ込むためだけに自費で一人暮らししてたとか、1日に2箱ラッキーストライクを吸っていたとか、色々な理由はあるけど、大体ギャンブルでタコ負けしてたことが理由。
当時、交響詩編エウレカセブン2という台がリリースされたばかりで、気が狂ったようにこの台を打ってた。
上乗せ特化ゾーンのエアリアルラッシュ、『ティ-wティロリロリロリ-wwww』っていう突入音がとにかく最高だった。
この音を聞くためだけに働き、働き、働き、眠り、起き、働き、シコり、そしてまたこの台の前に座る生活が3ヶ月も続いた頃、とうとう貯金残高が10万円を切った。
当時住んでいた1kの家賃は3万5千円だったから、次のバイトの給料日まで、あとは毎日の2箱のタバコ代と食費と携帯代を差し引いて、家賃がギリギリ払えるか払えないかの水分嶺まで追い込まれてしまった。
これはもう、やるしかないと思った。
1/65536とかいうバカみたいな確率のくせに恩恵が薄いセブンスウェルも、エアリアルラッシュが連チャンするthe ENDモードも、今日だけは引けると思った。
大学の先輩からもらった変速機すらついてないズタボロのママチャリに跨って、下手したら実家より長い時間を過ごしたかもしれない千本今出川のKINGへと急ぐ。
熱くなって家賃まで使わないように、財布の中には6万円だけ入れておくことにした。
(ちなみにチャリンコをくれたその先輩は大学を辞めて、佐賀の実家に帰って海苔漁師になったらしい。海苔漁師という職業が存在することをその時初めて知った。佐賀の人口の7割は海苔漁師だ、とその先輩は言っていたけど、大人になった今ならあれは嘘だったとわかる。流石に6割ですよね。)
そして座ったエウレカセブン。朝イチ台だった。
1枚、2枚とサンドが万札を吸い込んでいく。
4枚目の万札が吸い込まれた時には完全に熱くなってしまっていた。
結局、その日は5万円負けた。
セブンスウェルどころか、ATにすら入らなかった。アネモネはずっと寝てた。
目の前が真っ暗になった。
そのホールの目の前にあったローソンの前に座り込んで、現実逃避のためにストロングゼロの500ml缶を3本、10分くらいで飲み干したような気がする。
焦燥感と絶望感と酩酊でおかしくなってしまい、気づいたら大家に払うはずのお金をATMで全て引き下ろし、海苔漁師のチャリンコをその場に乗り捨ててタクシーに乗っていた。
目的地は木屋町にあった箱ヘル、プルプル倶楽部。今は系列店と併合したらしい。
当時まだ風俗に行ったことはなかったけど、バイト先の居酒屋の社員のおじさんが、『プルプルは本番がタダでできる、俺はもう毎回本番してる』と豪語していたのをアルコールで萎縮した脳が思い出したのだ。
※本番=挿入を伴うこと。ヘルスは本番NG
ちなみにその社員のおじさんは今糖尿病で死にかけていると最近風の噂で聞いた。不摂生、ダメ、ゼッタイ。
千鳥足で入店し、はじめてのパネルをボーッと眺めているとボーイが一言。
『いま、フリーでもめちゃくちゃ可愛い子つけれますよ!』
そもそも指名の概念すらわかっていなかった当時の俺は、その言葉に促されるように、ボーイに3万円を渡していた。
したり顔のボーイに狭い個室へと案内され、扉を開けるとそこには。
ダレノガレ明美似のギャルが気だるそうに立っていた。
確かに可愛い。お金さえ払えばこんな子とあんなことやこんなことができるのかと感動した。
以降、この女のことは明美と呼ぶこととする。
こういう時に何を話していいかわからなくて、
『6月なのに8月みたいな天気だね』みたいなわけのわからないことを言った気がする。キュウベェもびっくりの次回モードA濃厚。わけがわからないよ。
『意味わかんない』と真顔で一蹴され、服を脱ぐように指示された。
風俗の作法が全くわからない俺は、いきなり全裸になることに物凄く抵抗があった。
モジモジしていると痺れを切らした明美の方から服を脱ぎ始めた。
すると、明美の右太腿に、
それはそれは立派な登り龍の刺青が入っていた。
30cm定規よりデカかった。ということは、30cmよりデカかったということだ。小泉進次郎?
当時、ケツ真っ青の超ウルトラ究極アルティメットシャバガキだった俺は、
刺青=ヤクザ
だと認識していて、それを見て完全に萎縮してしまった。
シャワーを浴びてから、乳首舐めたりなんやかんやしてくれるけど、刺青にビビって完全に萎縮している上にアルコールに侵されている俺の愚息は、ピッコロにワンパンされたヤムチャみたいに倒れ込んだままだった。
明美もぴくりとも反応しないチンポコに痺れを切らし、どんどん雑なプレイになっていく。
気まずさに耐えきれなくなるのが先か、チンポコが擦り切れて千切れるかが先かのチキンレースの決着を見る前に、無情にも時間切れを告げるタイマーの音が鳴った。
明美の唾液まみれの体を安っぽいウェットティッシュで拭きながら、この世の終わりみたいな気持ちで服を着ていると、明美が一言。
『その年で勃たないってこれから先心配だね、ウケる』
えぐれた傷口に粒が荒い岩塩をすりこまれた俺は、半泣きで家路についた。
3時間ばかり寝て、酔いも覚めた俺はトチ狂ってそのままデリヘル呼んだ。ボーイには、『絶対に刺青入ってない子にしてください』とだけ告げた。本番はできなかった。
デリヘル嬢に3万渡したから貯金はぜんぶなくなった。
家賃の無心をして、母ちゃんにしこたま怒られたけど、今になってはいい思い出な気がする。
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