見出し画像

星月渉「ヴンダーカンマー」読書感想文

この物語は、読者の平和ボケした脳みそに、日常の中の非日常が、これでもかこれでもかと、あらゆる角度から「ガーン」という衝撃を、ぶち込まれて行きます。安心して下さい!予定調和ゼロです!

読み出しは、ちょっとダークな青春群像劇なのかと思いきや、いきなり異空間に投げ出される感覚の繰り返しです。これでもかこれでもかと、人間の多面性がリアルに表現されています。

読者は、終わりのないジェットコースターに乗っているのか、先の見えないお化け屋敷にいるのか、予想不可能な展開の数々です。

読み初めの印象は、昭和の古過ぎる因習に押し潰されそうになりながらも、もがき続ける若者達とその家族。どんな状況を生きて行くにせよ、腐らずに誠実である事の大切さを説くなどという、そんな生易しい話ではありません。

この小説の舞台は、閑静で伝統を重んじる、片田舎と共生するかのように、その町一番の財閥が、開発に力を入れた地方都市を巻き込んだ、サスペンスストーリーです。

未解決事件で苦しむ男子高校生の、孤独な生き様から物語は始まりますが、読み進めて行くうちに、高校生らしく無邪気そうな、若者達で発足した同好会の話や、一見すると家族愛や友情を感じさせる、ほのぼのとしたやり取りのはずが、ある時を境に、一転してどす黒くやり切れない世界に切り替わります。

日常の明るさと、唐突に訪れる非日常のダークさに、「何故?」の文字が、読者の頭の中を駆け巡ります。単なる学生同士のじゃれ合いかと思えば、「どうしてそうなった?」的な展開や、一見よくある日常を描いたホームドラマや、学園ドラマなのかと読み進めると、突然落とし穴に落とされるような、無限に続くどんでん返しの数々・・・。

そうやって、日常と非日常のホラーを繰り返しながら、気が付けば猟奇的な世界に迷い込んでいます。そんなキャラクター達の闇落ちが病みつきになる、スリル満点のストーリー展開は、是非ともご一読願えればと思います。

過去の文豪たちが伝統的な手法を用いて、重々しく難解な文体で表現してきた、クオリティーが高く骨太なサイコホラーを、革命的なライトノベル感覚で、読者をグイグイと惹き込んでいく、至高のミステリー作品です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?