【ジャック・オー・ランタン】の物語
その昔、あるところに、ジャックという名の口は巧いが嘘つきで卑怯な鍛冶屋の男がいた。
素行の悪い男だったが、とうとう死ぬ時がきて、死者の門にたどり着いた。
しかしジャックは、そこで彼を待っていた聖ペテロ、【魂の天国行きと地獄行き】を定める聖なる使徒を口巧く騙くらかし、とうとう、そのまま生き返ってしまった。
生き返った後も、ジャックはこれまでの人生を反省もせず、相変わらず頭の回転は良いが嘘つきで、卑怯で、素行の悪い男のままだった。
ある夜、いつものように飲んだくれていたジャックは、行きつけのパブで悪魔に出会った。
ジャックの魂とひきかえに、という契約で彼の望みを叶えてやった悪魔を、ジャックは得意の巧みな嘘とずる賢さでたぶらかし、まんまと契約を反故にしてしまった。しかも、一度とならず二度までも・・・。
そして二度目は、契約を反故にしただけでは飽き足らず、たとえ再び死んでも地獄には落ちないという契約まで、悪魔に取りつけさせてしまった。
そんなジャックにも、とうとう運命の日が来る。
再び死んで死者の門を訪れたジャックを、前回騙されたことを恨んでいた聖ペテロはにべもなく冷たく突き放し、
「お前はもはや、天国へ昇ることも、地獄へ落ちることもまかりならぬ」
と、天国へもゆけず地獄へもゆけぬまま、暗い煉獄の闇の中を、未来永劫、孤独にさまよう運命を言い渡した。
ゆくべき先を失い、地獄の門を叩いても、死んでも地獄には落ちないという契約がある以上、悪魔は首を縦には振らなかった。
しかし、自らの嘘と機転にうぬぼれ、取り返しのつかぬ墓穴を掘ったジャックがすごすごと闇の中へと消えてゆこうとするのを見て哀れんだ悪魔は、地獄の劫火から轟々と燃えさかる石炭をひとかけら取り、それをジャックのゆく先を照らす光とするよう、手渡してやった。
その明かりは、いまでも時々、現世に種火のような弱々しい光を投げかける。
天国にも地獄にもゆけず、永遠にあの世とこの世の狭間を漂う魂たちに寄り添う道しるべとして、バンシー(嘆きの精霊)のような悲しい色を尾にひきながら。
それからというもの、こんな真っ暗な夜の闇の中に不思議とおぼろげに輝く光が見えるとき、人々は哀れなジャックの物語を思い出し、【ランタン持ちのジャック(ジャック・オー・ランタン)】と呼びならわすようになった。
おわり。