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ときには離婚を考えてみる

結婚して1年以上が経ったので、離婚について考えようと思う。

こう書くと、すぐにも離婚するように読めてしまうけど、そういうわけじゃない。今の家族生活はかけがえのないものだし、これからも続けていきたいと思っている。

だからこそ、離婚という夫婦関係の終わりを想像して、現状を考えた方がいい気がした。死ぬことを想像するときほど、生きている実感を得られやすいのと同じ理屈で。

僕(あるいは相方)が、不倫や借金、DV、その他さまざまな問題を引き起こし、離婚したとする。同居生活も解消し、それぞれ別の場所に移り住むことが決まる。そうなったら、僕はもう元妻となった彼女に会いたくないと思うだろうか?

答えはノーだ。多分、離婚してから3日目の夜から電話をかけて、3時間以上はダラダラと話していると思う。別れたことについても話すだろうけど、最近観た映画やアニメの話、ネットの炎上騒動、ハマっている趣味について延々と話してしまうと思う。

途中でどちらかが泣き出しても、次の日にもまた次の日にも電話してしまう。なぜなら、それがふたりの元々の関係だからだ。

結婚するまで、僕たちは約8年間を遠距離恋愛で過ごし、毎晩FaceTimeの音声通話で会話して関係をつなぎとめてきた。こっちは東京で、向こうは秋田だったから、直接会える期間も短かった。その交流のほとんどは電話越しに交わされる会話だったといえるだろう。

「寂しかったか?」と聞かれれば、そんな日もあったし、会いたいと思う夜はいつも長かった。しかし、延々と続く通話そのものは、とても楽しかった。

夜になれば、話すべきことや話したいことが山積みで、2人で消化するように喋った。だいたい僕の方が多めにベラベラ話すのだけど、彼女は真剣に話を聞いてくれたし、返ってくる返答は予期できないものばかりで新鮮だっだ。

結婚を決めたときも、プロポーズは特にしていない。ただ、羽田空港の喫茶店で今後について話し合って決めた。どんな芝居じみた告白をするより、自然なものに思えたからだ。

婚姻届を提出して、部屋を決めて、引っ越して、おしまい。結婚式も披露宴も特に開かず結婚生活をはじめた。距離はグンと近くなって、遠距離の頃よりも楽しみは増えたけど、それでも会話は減らなかった。相変わらず、帰り道にはFaceTimeを立ち上げて、今日あったことを延々と喋り続けている。

ふつうの夫婦の在り方からは、少しズレていると思う。周りに自分たちの関係を話しても、変な顔をされることの方が多いからだ。

「遠距離がうまくいくはずない」、「それ付き合ってるといえるの?」と、詰められたこともある。結婚後はさすがに言われなくなったが、今でも変なカップルとして見ている知人たちは少なくないはずだ。

話が急に変わるけど、僕の好きな小説に色川武大の『離婚』という短編がある。フリーライターの誠一と妻のすみ子の関係を描いた物語で、すごく軽い気持ちで結婚したふたりが、お互いの生活能力の不足から仲に亀裂が入るようになり、結局6年目に離婚してしまう。

ただ、物語のおもしろいのはその後で、離婚後に誠一はすみ子の部屋を度々訪れ、風邪の看病をしてもらったり、セックスしたりする。すみ子も誠一の子どもを生みたいと言い出し、夫婦という枠組みからズレた不思議な関係へと発展していく。

「それじゃ、尽くし型の女房になるか」「馬鹿ねえ、なるわけないじゃないの。そんなになるんなら死んだほうがましだわ」「そうだろう。だから、愛、なんてそんないいかたはよせ。たとえそうであろうと、我々はそんなこと口にする権利はないんだ」(中略)「だからこれでいいんだよ。無理しないで、行けるところまで、今夜のような形を続けようぜ」

結局、ふたりは夫婦という枠組から外れることで、自分たちの適切な距離を発見するのが面白い。僕も、もし離婚して、FaceTimeでつなぐような遠距離恋愛に戻っても、それでお互いの暮らしや活動が向上するなら良いとさえ思う。

誠一とすみ子のように、お互いのちょうどいい距離感を探り合う方が、一般的な夫婦像にこだわるより、良い場合もあると思っている。結婚は手段であって目的じゃないし、時代も制度も移りゆくものだし。

”変えたくないもの”に目を向けて、そのためにどうするかをこれからも延々と話し合っていければんじゃないだろうか。少なくとも、ふたりにとっての「今夜のような形」はもう決まっているのだから。


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自転車と小説とバードウォッチングが好きな人間です。ライターもやってます。 マガジンには、株式会社 NJS日本住宅新聞社で発刊中の業界紙「日本住宅新聞」にて連載されていた書評『ゆりいかの文学住散歩』(2016年12月~2018年3月)の記事を元に再構成したものを掲載しています