札束 ゲーム喫茶編
すぐ帰るからと言って出かけた店長は約1時間くらいで戻ってきた。
店長がチラッと私に見せた分厚い長財布の中身は一万円札が200枚以上はあるであろう札束だった。
それは店長が見せてくれた時に見たものであって、あとで確認したわけではない。
何故って何だか恐ろしくてエプロンのポケットから出すことも出来なかった。まして中身を確認するなんて事はもっと恐ろしい事だったのだ。
戻ってきた店長に財布を渡し、店長がいない間何か問題はなかったか確認されて、そのあとはいつものように普通に何事もなく仕事は終わった。
家に戻ってからあれはいったいなんだったんだろうと考えた。
私に財布なんか預ける理由が見当たらない。
私が買い物をする事もないし、誰かが集金にくることもない。
お客さんにその財布からお釣りを払う訳でもない・・。
となると、もしや私を試したのか??
試すにしても試す理由がわからない。
それにどうして財布にそんな大金を入れておく必要があるのか?
金庫はないのか、何に使うのか、支払のお金か・・
いろんな想像を巡らせても巡らせても意味が分からなかった。
仕事を始めてから一か月はたとうとしていた。
ある日の朝、店長から自宅に電話がかかってきた。
申し訳ないけど今日は自宅にいてくれないか、店には来ないでくれ・・
いろいろ大変なことになっているんだ、また連絡するから。その電話を受けた後、店長からの連絡は二度と来ることはなかった。
あの店長の電話口での慌てようはただ事ではなかった。
今考えると多分、あの店は違法賭博をやっていたのだろう。
あの意味のわからない札束の入った財布、お客さんのあまり来ない店。何から何まで不思議に思う事だらけだった。
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