アラビアンナイト珈琲店『藝能M』③天国と地獄という運命


💙春<眩しい光が見えたり消えたりいつの僕だい?目覚めたようで彷徨っているようで>

消えたい消えたい消えてしまいたい消えている?
この意識は一体何?僕?枯れた暗い森の舞台に僕は束の間迷い込んだ眩しい光が見えたり消えたりここはどこだい?いつの僕だい?ほらふとした間隙にときどき僕らが迷い込む不毛の場所乾いた場所雀の声も緑の葉っぱも見えない仲間の役者の声も監督の声も聞こえない場所底なしの寂しさ絶対零度よりも凍った場所寒い冷たいイルクーツクどころか僕は別の惑星で虚空に浮かぶほらきっと昨日見た悪夢を思い出していただけすぐに目が覚める目が覚めた?目が覚めたよう覚めても僕は彷徨っているようで

■天国と地獄という運命

 Xは静かに珈琲を味わっていたが、腑に落ちない何か不可解な塊を鳩尾のあたりに詰まらせているような表情に変わりはなかった。
「本当にいらっしゃるのね、こういう方。オーラ、なんて言い方は好きじゃないけど、まさにそれ。これが藝能の方ね。そして同じ人。悩みの蔭に居るご様子。どんな人でも悩みは尽きないものかしら。悩みなんてない、そういう人もいらっしゃるわ。きっと悩みの定義が違うだけ。悩みを気にせず囚われないようにしているか、心を苦しませるものとしてではなく、課題として前向きに捉えていくか」
「えぇ」

「悩みの中にいることを気が付いていなければ厄介ね」
「えぇ、無意識のうちにわたしたちは一日何万回も思考をし、そのうち7,8割はネガティブであると聞きます。気づきに珈琲休憩をとおすすめしたいところです」

「人はネガティブにできている。長い狩猟採集民時代、サバイバルで生き残った人は繁みに潜む毒蛇にサソリに気が付けた人、外界に注力を払いネガティブな条件がないかアンテナを張った人、コミュニケーションで危険な藪や沼の話に耳を傾けてきた人。こうしてネガティブな情報は拡散されやすく、記憶にも残りやすい。遺伝と環境によってはネガティブを蓄積して鬱のトリガーにもなりえる。詳しくなったものね、科学好きの芽衣さんのおかげかしら」
「うふふ」
「中でも周囲からのネガティブな刷り込みがあるときは気を付けたほうが良いようです。気にするなんて敏感過ぎる、反応しない練習をしましょう、こ んな流行がありますが無理をなさらぬ方が良いとわたくしは思っております。なぜなら、外界や言葉への鋭敏さは人によって大きく違いますから。まずは、どれだけ反応性が高いかを知るところが始まりではないでしょうか」
「そうね、反応して当たり前。芽衣さん視点で言えば、ホモ・サピエンスは外界に反応するから生き残れた、天候や取り巻く音、匂い、それから気配。人との関係性も良好に保つことが生き残りには必須。

周囲を知るからこそ、守るべき常識と革新のために破るべき常識を分けられる。反応するからこそ思いやりの言葉を選べる。蔭と光は裏表、環境によっては高い反応性が徒となる。周囲に踊らされるし、攻撃の矢をまともに受ける。バランスが大切とういわけだけど、適切バランスは人によって違っていて今のところは測りでは計れない、数値化できない。
 日に焼けても黒くなるだけの人赤くなって戻る人、紫外線で顔がボクサーのように腫れあがる人も赤くただれる人もいるわ。それなのに、メンタルの問題になると、途端平均値が常識として語られるものね。少し気持ちが晴れないときは、一度立ち止まって珈琲ブレイク『雲の上の爽快を観る珈琲』で」
「これはこれは」
「なぜか気分が晴れないけれどなんでもないように笑って過ごそうとする、それでも心が重くて地底を歩いているよう、気が付いた頃には地獄の門を過ぎていて後戻りができないか、光の届かないマリファナ海溝の底の底、真っ暗闇、こういうことにならないための現代人必須のマネジメントかしら」
「えぇ」


光を
もっと光を
そうすれば闇が観える
闇はそれを知り包むためにある
闇は光を際立たせ光は闇を包む
僕たちは時々知らぬ間に闇にいて
朝日は眩しすぎると蔭に隠れる

「みながみなではありませんけれど、ここにいらっしゃる方は、ご本人の存在価値否定や人格攻撃、こういった言葉を浴びせる方が周囲にいらっしゃることがほとんどで、中には巧妙に人の自尊心を傷つけ喜ぶような気質の人が周囲にいらっしゃることがありますわ」
「誰でも陰はある、そこに焦点をあてて改善していけば成長があるのでしょう、痛みなくして成長なし、というところでしょうか。しかし指摘に過ぎた現場が多いのかもしれません」
「指摘は快ですもの。他者のあらを探す快、上の気持ちの快、いいことをしている快。お相手様の成長を願っているつもりでもしばしば過ぎてしまうことがあるのが人かもしれませんわ」

「容赦なく潰す目的の人もいるものよ。ライバルだからと、闘志を燃やし切磋琢磨する、それは素敵ね、でも最近はそういう人が減ってる。世相かしら、ライバル心を起こさせるような人がいたら、カバートアグレッションや人格攻撃、蔭口対応。囲い込みをする人も一定数いるわ」
「小さなものから大きなものまでですけれど、おっしゃる通りだと思います」
「人の苦を抜くことに歓びを見出す、そんな天使が人間になったような人もいるのだから逆の人もいるの。人はどの道光と蔭、1000%天使の人はいないように思うけれど、出会いによって、地上の楽園に近づくか、生き地獄に近づくか、どちらかよ」
翔子は冷静に言ってから珈琲を口元に運んだ。
「出会いは因果。きっと何かの共通点があってひきあったのですわ。珈琲の香りに魅せられてひとときを嗜む、そんな方にはきっと素敵な因果が生まれますわ、ほら男女は匂いで遺伝の相性を見るように」
「芽衣さんは書籍とも出会いだとおっしゃってる」
「えぇ。翔子さんと出会ってからアートと絵本との出会いが増え広がりをもたらしてくださいましたましたわ。連動検索の時代ですから、自ら一歩踏み出さないと好みのものばかり、それもそれでいいのですけれど、新しい発見も楽しみたいと思っていたところでしたの」
「そう?嬉しいわ。この出会いをきっかけにまた何かが変わるのかしら」

出会う時間も場所も人も無限に可能性がある中で、その人とそこで出会えたこと。それってやっぱり運命ですよね

蘆田愛菜


出会いを決めるもの
わたしたちの無意識
珈琲よ
射干玉の珈琲よ
無意識にあるものを浮かび上がらせ
出会いを地上の楽園に近づけたまえ
積み重なり
やがて我々の前に現れる日まで


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