ショート1400字『夕顔』草稿案
花の妖精たちが集まっていました。ひまわり、チューリップ、それからスイレンたち。
きれいで、
あいらしい。
ある妖精は軽やかで、ある妖精はしとやかで、ある妖精のほほ笑みは天女のよう。
「おや?ユウガオさんがおりませんわ。」
朝顔が言いました。
「まだ咲かぬユウガオさんから書面をあづかっています。」
「書面?」
「えぇ、書面。」
辺りがざわつきました。
「えっほん。わたくしが読み上げます。」
女郎花が朗読をはじめました。
「『みなさま、
本日は出席とならず、残念の至りです。
みなさまのあでやかなる
高貴なお姿や楚々として可憐あなお姿、
それから馥郁たるお姿を拝見できずにおりますことは、
はなはだかなしく思われます。
さて、本日の欠席のゆえんをお伝えさせていただければともいます。
かねがねわたしたちは人間に踏まれもぎ取られまた刈り取られてまいりました。しかしそれはとうに慣れたことになりました。たとえもぎとられるたとしましてもそれは運命であるとただ咲きほこれる時間を味わうことにすることこそ、
花であると思うようにして
人間にたいし、
戦争はおろか、
ストライキなるものもせぬと取り決めたのでした。
実際、人間たちはわたしたちをときに愛で慈しんでくれもするのですから。
されど、わたくしはこればかりは堪忍していただきたいことを秘めているのでございます。
つまり、蕾の頃より花びらを一枚一枚と開き、咲くまでは人の目から自由でありたいのでございます。
人間の目がありますと、
途端その場の空気が変わり彼らの生み出す大波がわたくしが咲かんとする気を乱すのでございます。彼らの思いの放つ気の流れはわたくしのような過敏な性質には、とても大きなものなのです。
それでも今年も名誉ある集会にどうしても参加したいと、
あたりが薄暗くなり晩が来ます度に、
花咲くことを試みたのでございます。
あぁ、不甲斐なるかな、わたくしに備わる感覚器が過剰に反応するためでしょうか。
ついに本日まで咲くこと能わず、うかがえぬことを深くお詫び申し上げます。はかなさの罪をお許しくださいますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
夕顔』」
さぁ手紙の朗読を聞いた花たちは口々に意見を言い合いました。
「なんて、なさけない。一目があるぐらいで。程度も甚だしい言い訳だわ。」
太陽のようなひまわりはいいました。
「いいように言っているものの、言い訳にしか聞こえませんわね。だって、わたしは一目があろうがなかろうが、きっかりと咲くのですもの。」
カーネーションはいいました。
「それもそう。未だかつて、わたしのわまりにはそんな花はいなかったわ。」
「朝顔さん、同族でしょう?そのような方いらっしゃる?」
「おりませんわ。」
朝顔はとんでもないという顔をしております。
「それに、姿は似ていてもわたくしたちはヒルガオ科、ユウガオ様は、瓜科でございますことよ。わたくしは、よくは存じません。冬瓜様に伺ってくださいな。」
「わたしたちは、咲きます。どれだけ見られていようとも太陽のh仮と滋養豊富な大地があれば、きっと咲きます。」
冬瓜は一族の恥とばかりに申し立てるように言いました。
大勢がうなづき、弱さである、言い訳であると非難の声があがりました。
そこに菫の花が楚々といいました。
「それは言い訳のように聞こえますけれど、とても敏感でいらっしゃるのね。だからこそあのようなたたずまいで咲ける。きっとそれは仕方のないことです。」
「仕方のないですむことがあったら、何でも済んでしまいます。」
「夕顔様、お強くなられるといいですね。わたしたちみたいに。」
「そうね、わたしたちみたいに。」
誇らし気に多くの花がうなづきました。
さぁ、だれも理解されぬかされたのか、
夕顔さんおお話でした。
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