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15年おそい絶好調。

いま、人生でいちばん調子がいい。何のことか、バッティングである。

前にも書いた気がするが、ぼくは小1〜高3まで野球をやっていた。特に高校3年間は頭を丸め酒もタバコも当然やらず、練習をサボることもなく、修学旅行先の沖縄に行っても浜辺で素振りをするような、まじめでつまらない高校球児だった。

一所懸命、自分なりに手を抜くことなく野球に向き合ったが、50校前後と全国的に見てもレベルが低い滋賀県の高校野球界で、40番目ぐらいの実力しか無かった高校(私見です)のベンチにすら入れなかった。本当に才能がなかったのだと思う。

なかでも、やればやるほどダメになったのがバッティングだった。多くの高校球児が「たのしい」と感じるはずの「フリーバッティング」という練習が大嫌いだった。マシンから放たれる打ちごろの球をただただ気持ちよく打ち返す。そんな野球をやるよろこびにあふれた動作が、全く完遂できないのだ。

ボールとバットの芯を思い切りぶつけているつもりなのに、何球打ってもポイントがずれてしまって、球はぼてぼてと転がるばかり。隣のゲージでは、同じポジションの後輩が気持ちよく外野の向こうまでボールを飛ばし「ナイスバッチ!」とみんなに声をかけられていたりする。こいつがまたいいやつだったりしてツラい。

「今井さん、明日は打てますよ!」

「お、おう。ありがとう」

そんなわけでバッティングには何もいい思い出がないのだけれど、なんとなくバッティングセンターに足が向くことがある。酔っぱらった帰り道とかに、ひとりで寄って一打席だけ、とか。打てなくても酒のせいにできるし、何より誰も見ていないので気楽だ。もちろん打てない。高校のときと同じで、球はぽてぽてと転がるばかり。

だったのだけれど……最近、すこぶる調子がいい。球がきちんと線になって飛んでいくし、ネットがなかったらどこまで飛んだんだろうとワクワクするような大飛球が打てたりする。たのしい。何を変えたか。スイングだ。

バットの振り方には、大きくわけて3つの種類がある。上から下へボールを叩きつけるように振るダウンスイング。逆に、下から上へボールをすくい上げるように振るアッパースイング。そして、一般に理想のスイングとされる、ボールに対して平行にバットを振るレベルスイング。

正面から真っ直ぐくるボールに対し、上から叩いても下からすくっても当たるポイントは「点」でしかないが、レベルスイングならそれを「線」でとらえることができる。すなわり、もっとも当たる可能性が高いのはレベルスイングである。というのが、野球界の常識だ。

ぼくもこの理想のスイングを手に入れるべく、とにかく地面と平行を意識して、何千回とバットを振った。でもぜんぜんだめだったのは先述の通り。最近、何の気なしにアッパースイングでバットを振ってみた。めちゃくちゃ飛んだ。もう1球。もっと飛んだ。人生でいちばんいいフリーバッティングが、歌舞伎町のバッティングセンターでできてしまった。後輩、明日じゃなくて15年後だったよ。

これは別に、「野球界の常識が間違っている」という話ではない。おそらくだけど、ぼくの身体的特徴とかクセとか運動神経の悪さとか色んなものが絡まった状態で「平行のつもり」で振っていたバットはまったく平行になっておらず、むしろ「すくい上げよう」と思って振ったときに、平行に近づいたということだと思う。

どんなに意識していてもその通りの動作ができているかはわからないし、むしろしないでおこうと思っていることをしたときに、理想の動きができたりもするのだと学んだ出来ごとだった。

何かを書いたり企画したりするのも同じかもしれない。「できるだけわかりやすく」とか「人がしていないことを」と考えてしまうけれど、時にその逆を向いたり、自主規制している手段をとってみると、突き破れる壁もあるのかも。

というわけでとにかくぼくはいま、野球の試合に出たいです。