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【私のストーリー】上京〜憧れのあの子になれなかったわたし〜

幼い頃からおとぎばなしが大好きだった。日本に来てしばらくして、私は自分をシンデレラだと思うようになった。どんなに苦しくても、優しさと勇気を持って生きようとしてきた。そうすれば自分のハッピーエンディングが見つかる、と期待に胸を膨らませてー。
 
ひもじくても、知らない人のお下がりの服を毎日着ていても、誰も味方してくれなくても、ほめてくれる人がいなくても、孤独と悲しみに打ちひしがれそうになっても、自分だけを頼りに上へ上へと登り続けた。
 
周りに溶け込むために、自分を偽り続けた。日本語を学び、服装、髪型、話し方、振る舞い方を変えた。必死に笑顔を取り繕い、明るい自分を演出した。知らない話題にも懸命に相槌を打った。
 
そうやって、私はいつの間に「日本語もわからない外国人」から、「頭のいい恵子ちゃん」に変わった。
 
大学に入れば全てがうまく行くと思っていた。しかし、今まで自分の力で上に上り詰めることができたのに、急にできなくなった。



「あの子は賢くて可愛くてみんなの人気者。どうしたらあの子みたいになれる?」 


今までのように溶け込もうと一生懸命になった。だが、そんな願いが叶うはずもない。東京の私立中高一貫校に通っていたあの子に、私がなれるはずがない。メイクやファッションはもちろん、話し方、立ち振る舞い、休日の過ごし方も、何もかも違う。中卒の親を持つ私には、大学でどう勉強したらいいかもわからない。
 
学費と短期留学費を捻出するためにアルバイトを2つ掛け持ちしていた私は、いつの間に人付き合いも悪くなり、学業も疎かになっていったー。
 
社会学に興味を持ち始めた頃、ブルデューの「三つの資本」を学んだ。家庭には、金銭として「経済資本」、本や芸術などの「文化資本」、社会や人とのつながりの「社会資本」というものがあるらしい。これらが密接に作用して、子どもの学力や将来の選択に影響を与えるという。
 
あの子と違って、私には何もなかった。学校の図書室の本が私が唯一豊富に持てた「文化資本」だった。金銭にもリソースに恵まれず、社会や人との繋がりが薄く、アドバイスをしてくれる大人もほとんどいない中で、人より飛び抜けることの難しさを理解した。
 
もし人生に階段があるのならば、私は0段目からのスタートだ。自分で少しずつ登って登ってやっと5段目に登れたというのに、あの子は生まれた時から5段目にいたのだ。

シンデレラに、私はなれなかった。


優しさと勇気だけを持っていても、幸せは歩いてこなかった。
 
ハッピーエンディンングなんて嘘っぱちかもしれない。だけど、私はシンデレラに憧れている小さなブリンセスたちに勇気を与える人間になりたい。
 

これからも優しさと勇気を持ってーー。

2023/02/05

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