「嫌よ嫌よも好きのうち」 という認知のゆがみ

Twitter で以下のツイートを見かけてコメントしたのだが、140 字制限がある中ではまとめきることが難しかったので、改めて note にまとめておく。

ちなみに Twitter で自分がコメントした内容はこちら。

概要 : この投稿で伝えたいこと

この投稿では、以下の主張をする。

  • 被害者が嫌がっていても加害者が 「本気で嫌がっているとは思わなかった」 という認知のゆがみが存在する

  • 被害者が抵抗したり逃げたりしないのは被害者の落ち度ではない

  • 被害者が言葉より強く拒否の意を伝える方法として、物理的な痛みを与えるという方法もある

前提として : 性被害は加害者が悪いし、抵抗や逃げるのも難しい

バウナーさんのスレッドには、以下のように書かれている。

女性が性加害にあうのは拒まない・逃げないのが悪いというご意見を男性からいただいたりします。 どうすればそれが実現可能か、男性の皆さま、教えてください。 どうすれば女性は 「本気で拒絶している」 事を男性に伝えられますか? どうすれば女性は 「筋力で敵わず骨格的に不利でも」 逃げられますか?
そういうご意見を被害女性がたびたび頂いてきたという事は、それが可能だと考える男性が少なからずおられるという事だと思います。 ですので、どうすれば実現可能なのか、男性の皆さまに伺いたいのです。

https://twitter.com/bawnao/status/1667167641713414144

「性被害にあうのは拒まない、逃げないのが悪い」 というようなことは確かに耳にすることではあるが、この言説自体は社会で共有されている認知のゆがみ (認知のゆがみなのかな?) と言える。

性に関する認知のゆがみとは
◦ 性犯罪者だけでなく,実は社会もその多くを共有してはいないか?
◦ 抵抗すべきだったなどと,不可能なことを求める

性犯罪者の現状 (筑波大学 原田隆之)

実際のところ、性被害にあうのは完全に加害者が悪いし、ポリヴェーガル理論というものによれば、抵抗したり逃げたりできないことがあるのは当然である。

花丘さんは、この神経系の働きから考えると、性暴力被害に遭った人が凍りつくことの説明もつくといいます。 被害に遭った人の中には「声が出せなかった」、「体が動かなかった」、「頭の中が真っ白になった」、あるいは「全く記憶がない」 という人が少なくありません。 これは、背側迷走神経系によって脳の血流が低下していたためと考えることができます。

ポリヴェーガル理論とは 性暴力被害での “凍りつき” は恥ではない (NHK みんなでプラス)

よって、本投稿では 「性被害にあったときに拒んだり逃げたりできないことがあるのは当然である」 という前提のもと、冒頭のツイートの以下の問いについて考える。

女性が言葉でも態度でも明確に嫌だと示していてすら 「嫌よ嫌よも好きのうちだ」 と解釈する男性が少なからずいるそうです。 女性は何をどう言って・何をどうすれば本気で拒絶している事実がそういう男性にも伝えられるでしょうか?

「嫌よ嫌よも好きのうち」 という認知のゆがみ

女性の 「嫌だと言っているのに伝わらない」 という発言や、男性の 「本心で嫌じゃなくても嫌がる素振りをされることもあるので、判断が難しい」 というような発言をたまに目にする。 男女逆の場合や同性同士の場合もあろうが、多くの場合、「女性 (被害者) が嫌がってるにも関わらず、男性 (加害者) は 『相手は本気では嫌がっていない』 と思っている」 という構図が発生するようである。

確かに、恋人同士や夫婦間などで、嫌じゃないのに戯れで 「やだー」 とか 「ダメ……ッ!」 とか 「やめて」 と言ったりすることはあるが、普通は本心で嫌がっているのかどうかわかるし、判断に悩むときには確認すべきである。 「『嫌』 『やめて』 という言葉は拒否である」 というのが原則だ。 それにも関わらず、本心からの拒否が伝わらないのには、「認知のゆがみ」 があるようである。 

性犯罪における認知のゆがみの種類として、以下のように 2 パターンで分類されている資料があった。

認知のゆがみの 2 つのパターン
本心からそう思っているタイプ
◦ いつも自分の都合のいいように解釈し,相手の意図を理解できない
◦ 相手の表情やノンバーバルなサインが伝わらない
◦ 心理学的にはより病理が深いタイプ
中和の技術として使うタイプ
◦ 自分の加害性は理解しており,罪悪感があるため,意識的あるいは無意識的にそれを打ち消そうとして,そのように思い込むタイプ

性犯罪者の現状 (筑波大学 原田隆之)

つまり、「本当に 『嫌だ』 ということが伝わっていない場合」 と 「自分を正当化するために嫌じゃないということにしたい場合」 の 2 種類があるということである。 この認知のゆがみのようなものは、性犯罪ではない場合でも、程度の差こそあれ存在するといって良いだろう (「嫌がってるとは思ってたけどそこまで嫌だとは思ってなかった」 とか)。

認知のゆがみを超えて、拒否の意志をどう示すか

改めて明確にしておくが、性暴力について悪いのは加害側であるし、「嫌」 とか 「やめて」 という言葉に対して、加害側は (「本気では嫌がっていない」 などと思わずに) 即やめるべきである。

しかし、現実問題として言葉で拒否しても伝わらない場合があるようなので、そのような場合に被害者側は何ができるのか、私見を記しておく。

拒否を理解してもらいたい場合

「相手に、本当に嫌だということをわかってもらえていない、理解してもらいたい」 という場合について。 以下のように、それなりに親しい相手であり、相手との関係は継続したいと思っており (犯罪者として捕らえたいとかではない)、第三者の助けを得ずに二者間で解決・改善することを目指す場合などを想定している。

  • 例えば夫婦で、妻が 「今日はセックスする気分じゃない」 のに夫に迫られ、「やめて」 と伝えても夫に 「まあまあ」 という感じで流されて最終的に行為に至ってしまう

  • 例えば恋人同士で、特定の性的行為をやめて欲しいが、押し切られてしまう

加害者側が、自身の欲望を満たすことを優先してしまって、被害者側の 「嫌だ」 という気持ちを過小評価してしまっている状態だと言える。 認知のゆがみの 2 パターンに照らして言うと、本当に嫌だと思っていることが伝わっていない場合も、自分の欲望を優先するために嫌だと思っていないことにしたい場合もあるだろう。

加害者側は 「口で嫌がるだけだったら、さほど嫌がっていない」 と思っているかもしれない。 また、加害者が男性の場合、「有害な男らしさ」 という概念で語られるような、「力で支配することをよしとしている」 とか 「女性への思いやりの薄さ」 みたいなものが背景にあるかもしれない。 なんにせよ、加害者は被害者の気持ちへの理解が浅い状態だと思われるので、被害者は拒否の意をより強度を上げて伝える必要がある。 (あくまで被害者自身が相手との二者間の関係性を重視しながら改善を図りたい場合の話であって、そうでない場合にもこのような加害者に寄り添うような対応をする必要があると思っているわけではない。)

口で言ってもわからない相手に、より高い強度で拒否の意を伝える手段のひとつとしては、物理的な痛みを伴うものがあろう。 ビンタ等の軽いものでも、被害者の気持ちを過小評価し、自身の欲望を優先している加害側の目を覚まさせる効果はあると思われる。 (これは、相手との信頼関係が一定あり、手を出してもひどいことにはならないという前提があってこそできることだと思う。)

そのような形で拒否を伝えた上で、その後、会話により理解を促す、というような方法が取れると、二者間での改善に繋がりうると考える。

悪質な性犯罪に対して

翻って、痴漢や強姦といった凶悪な性犯罪の場合。

こういった相手に対しては、本気で嫌なことを伝えたところで意味がないと思う。 性犯罪者は (認知のゆがみにより) 「相手は嫌がっていないと思った、嫌がる相手にはしない」 と証言したりもするが、実際のところ、嫌がっていることを理解させたらやめてもらえるかというとそんなことはないのではないか。 強盗に 「やめてくれ」 と言ったところでやめるわけがないのである。

そのため、「本気で拒絶していることをどう伝えればよいか」 と考えるよりは、身を守る (被害を最小化する) 最善の手を考えるのが良さそうである。

可能な場合は、やまねこさんが言うように初手で急所に打撃を与え、相手が動けないスキに周りに助けを求めるのが一番被害を抑えられる可能性が高いように思う。

とはいえ、「強盗に襲われたらどう対応すべきか」 というのと同じような話であり、頭が真っ白になって何もできないこともあるだろうし、相手が屈強な場合や武器を持っている場合など、抵抗することでより身の危険が大きくなる可能性もある。 何が最善かは、状況次第だろう。

ひとつ言えることは、先にも書いた通り性犯罪者が言う 「嫌がっているとは思わなかった」 というのは認知のゆがみであり、被害者側に落ち度があるわけではない (= 被害者側がより強く拒絶したり逃げたりしないのが問題なのではない) ということである。

他にも様々な状況がある

上ではわかりやすい状況を例として挙げたが、他にも世の中には様々な性暴力・性被害の形がある。 最適な対応は状況次第としか言えないが、以下のことは共通して言えると思う。

  • 加害側は被害側の気持ちを軽視している (認知のゆがみや有害な男らしさ)

  • ある程度話が通じる相手の場合は、拒否の意をより強い強度で伝えることで加害をやめてもらえる可能性はある (必ずしもそうすべきという話ではない)

  • 抵抗や逃げができない状況はあり得るので、抵抗や逃げをしないことで被害を受けるのは被害者の落ち度ではない

おわり

そもそもの出発点である 「女性が性加害にあうのは抵抗や逃げをしない女性の落ち度だとする男性に対して、どうすればそれが実現可能かを問いたい」 というバウナーさんの疑問には答えられていない (自分は、抵抗や逃げをしないのは被害者の落ち度ではないと考えているため) が、「嫌だと言っても通じない男がいる」 というような話を最近考えていたので、まとめた次第。

自分は性暴力などの専門家ではなく議論におかしな点もあるかと思うので、そのような点などあれば意見されたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?