見出し画像

空の青さを知っているか、波の音は聞こえるか 後編(3) テキスト版

はじめに

こちらは、創作漫画『空の青さを知っているか、波の音は聞こえるか』の場面解説を交えたテキスト版です。
ツイッターでも同様の内容のもの(画像解説付き)をあげていますが、note版ではテキストも一緒に掲載しています。

お好きな方でお楽しみくださいませ。

なお、前回のお話はこちら。

1ページ目

空波後編(3) 1ページ目

(前回の後編(2)で中途半端に終わってしまったページのつづきになります。前回終盤では、高校の入学式前のひなたが物思いに耽っている場面でした。なお今回分の範囲ではありませんが、念のため前回のページから続いているセリフを一部分入れています)

【場面:過去回想。一年前、ひなたの家・リビング】
ひなた、物思いにふけりながら座布団を枕がわりにして寝転がる。

ひなた「(あっという間に高校生か。実感ぜんぜんないなー。
高校もあっという間に卒業して、なんとなく大学生になって……。
ごくごくフツーなおとなになるんだろうな」

【場面:一年前、一年二組の教室】
ひなたの高校の入学式当日。
ひなたの教室の黒板には

「入学おめでとう
ようこそ白ヶ丘高校へ!
3年間みんなで楽しい学校生活を送りましょう 担任より」

と新入生たちを祝う言葉が一面に記されている。

その言葉を背に、当時のひなたの担任が教壇に立って生徒たちに何か話している。

しかし、その言葉のほとんどはひなたに届くことはなかった。
唐突に現れた大きな波音に全てかき消されてしまったのだ。

担任「みなさ…はじめ……。
そして、ようこそ白…へ。私は一年二組……宇治谷……。
みんなのかけがえ……支えつ…共に歩ん…いきたい…思って……」

2ページ目

空波後編(3) 2ページ目

【場面:夜、ひなたの家・自室(現代)】
突然、ベッドの上に置いていたひなたのスマホの画面が点く。
ひなた、腕に埋めていた顔をはっと上げる。

ひなた「(……メッセ?)」

スマホを手にとり、メッセを開いたひなた。メッセの通知を見て驚く。

ひなた「!」

メッセを送ってきたのは渚だった。
しかし渚から送られてきたメッセージは、改行の位置もおかしく、今までの渚では考えられないぐらい誤字ばかりの文だった。

『ひな

(空行が一行挿入されている)

ひなたきょうは
ごめん
はささしかけて
くれのに』

作中のひなたのスマートフォンより

ひなた「(なぎさ、見えてないのにどうして……わたしのため?)」

一週間前、学校の下駄箱前で渚に声をかけようとした時の事をふと思い出すひなた。

ひなた「(あの時、どうしたのって言えなかった。
ずっとわたし気づいてたのに)」

スマホから目を離し、再び右腕に顔を深く埋める。

ひなた「(たった一言言えてたら、何か変わってた?
これから、わたしどうしたらいい?)」

窓を打つ雨音がひなたの心の叫びを覆い隠すように強くなっていく。

3ページ目

空波後編(3) 3ページ目

【場面:朝の駅前。学校の通学路】
昨日からの雨は朝になっても降り続いていた。
傘を差し、駅前の通りをサラリーマンや学生たちが忙しなく歩いている。
人混みに紛れながら、カーディガンを羽織った葵が歩いている。

すると、突然「オイ!!」という誰かの怒鳴り声が聞こえてきた。

前方には、いかにもという風貌をしている柄の悪そうなスキンヘッドの男が、なんと渚に絡んでいた。
渚の左手には傘、右手には昨日と同じあの白杖が握られている。

男「いてぇじゃねーかよテメェ」
渚「あの……」
男「ボーッと突っ立ってんじゃねェよ、クソガキ」
渚「すみません、あたし……」
男「すみませんじゃねーよ。スマホ落ちただろが」

落としたというスマホを渚の顔面に突き出す男。

渚「その……あたし目が」
男「あ゛ぁ!?」

説明を試みようとした瞬間、いきなり男に怒鳴られ萎縮してしまう渚。

完全に頭に血が上ってしまっている男は渚の態度が気に食わず、肉ついた手で渚の腕を掴もうとする。

男「このガキ、セキニン取れゴラァ!!」

4ページ目

空波後編(3) 4ページ目

葵「やめろよオッサン」

渚を庇うように男と渚の間に割って入る葵。
男を鋭く睨みつける。

葵「こいつあんま目見えてねぇんだよ。
道でスマホいじってる奴避けられるワケねえだろ」

葵が厳かに諌めると男は「チッ」と舌打ちをすると、傘もささず駅の雑踏へと消えていった。

渚「あの……ありがとうございます。助かりまーー」
葵「渚!! 大丈夫か!? ケガないか!?」

御礼を言おうとする渚の言葉を遮り、渚の身体をつかむ葵。

しかし、渚はすぐに返事ができなかった。誰に話しかけられているのか全く分からなかったからだった。

葵「おい渚!?」
渚「……あ!」

もう一度名前を呼ばれて、今度こそ声の主が葵である事が分かった渚。

慣れ親しんだ声にほっとして途端に安堵の顔になる。

渚「なんだぁ、葵かあ〜〜
あ〜〜!! マジビビった〜〜!!」

葵「おう。無事なんだな」

急に態度が変わった渚に戸惑いつつも、いつもの渚の様子に少しホッとした葵だった。

【後編(3)終わり】

つづきの後編(4)はこちらです


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?