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鈑戸の埋め墓 【霊峰大山のふもとの両墓制・1】

かつて土葬が主流だった頃、遺体(遺骨)と遺髪等を別々の場所に納める「両墓制」という墓制が行われていました。鳥取県西伯郡の大山町や琴浦町では両墓制の埋め墓が広く分布し、近年まで細々と両墓制が行われていたようです。今回、その埋め墓を3ヶ所も確認することが出来ました。
斎場&火葬場跡ではないのですが、貴重な葬祭遺跡なので3回シリーズで紹介いたします。

両墓制について

最初にも少し記しましたが、「両墓制」とは簡単に言えば、一人の死者に対して二つの墓を設ける習俗です。特に近畿地方で多く見られるとされ、他地方にも見られますが、点在・散在とされています。
遺体(遺骨)を埋めた墓を「埋め墓」「捨て墓」「ヒヤ」等と呼び、遺体から切り取った遺髪などを埋めた墓を「詣り墓」「ホンバカ」「ホヤ」等と呼びます。
「埋め墓」には石塔を建てないことが多く、石を置いただけだったり、木の簡単な墓標を立てたり、樹木を植えたり、あるいは何の目印もなかったりと、様々です。
お詣りも、埋葬した後はそのまま自然に還るに任せる場合もあれば、3回忌・5回忌・7回忌あたりで祀り上げにする場合もあったり、様々です。
一方、現在広く行われている、死者を埋葬した場所に石塔を建て、霊を祀る習俗を「単墓制」と呼びます。
鳥取県西伯郡大山町(だいせんちょう)や東伯郡琴浦町は、両墓制が広く分布していることで民俗学的にも知られています。

大山町について

大山町(だいせんちょう)は大山の北麓に位置し、1955年(昭和30)9月1日に2つの村が合併して町制施行されました。その後3つの町村を編入しています。霊峰大山と大山寺、大神山神社などの霊場、いくつかのスキー場を有し、観光が町の主要産業になっています。移住者の定着率が高いのが特徴です。2024年9月1日現在の人口は、14.255人。
なお、歌手のさだまさしさんが、大山小学校香取分校(分校は2008年=平成20年に閉校)の子どもたちの野球チームのことを「吾亦紅(われもこう)」という歌にしています。

大山について

前置きが長くなっていますが、両墓制と大山(だいせん)の関係もあるようなので、大山の解説も。

大山(1,709m)は中国地方の最高峰。最高峰は1,729mの剣ヶ峰ですが、稜線の通行が大変危険なことと、昔から第2峰の弥山(みせん)が山頂とされて神事が行われていたことから、弥山の標高が大山の標高となっています。
およそ100万年前から活動を始めた第四紀火山で、最新の噴火は約1万年前。
中腹にある大山寺は西日本屈指の霊場として知られ、かつては多数の僧兵を擁し、尼子氏や毛利氏など中国地方の戦国大名も崇敬しました。
この大山寺の歴代住職や僧侶たちが、両墓制で祀られているとのことで、大山周辺の両墓制はこの影響を受けているとの説もあります。

鈑戸の埋め墓

鈑戸(たたらど)の埋め墓は、「鈑戸の両墓制」として町指定の史跡になっています。
県道36号線を大山に向かって走り、文化スポーツセンターを過ぎて少し行くと「鈑戸橋」という標識があるのでそこを左折すると、鈑戸橋のたもとに「鈑戸の両墓制」という標識があります。

鈑戸橋のたもと
右手に見える森の手前が鈑戸の埋め墓
埋め墓の入り口に並べられた五輪塔
鈑戸の埋め墓 入り口

埋め墓の入り口には、野焼き火葬場跡でよく見かけるような石造りの台があります。何らかの葬祭施設があったと思われます。この場所の広さから、古い火葬場の跡とも考えられます。

鈑戸の埋め墓

ずらりと並んだ石積みの塚。これが大山周辺の両墓制の埋め墓です。
特に墓標等はありませんが、新しい榊が供えられていたり故人の愛用した品が供えられていたりと、今もここに詣でる人がいることがうかがえます。

鈑戸の埋め墓入り口の石の祠
つい最近、詣でる人があったようで、新しい榊が供えられています
鈑戸の埋め墓 右側(西側)から
前列右端の埋め墓には、故人の愛用したと思しき杖が供えられています
鈑戸の埋め墓 正面(北側)から

ここに死者を埋葬する際は、頭を北(海側)に、顔を西(大山を見る方向)にしたということです。
この埋め墓の中には、「平成三十年(2018年)」に造られたものもあるそうで、ごく近年まで両墓制が行われていたことが確認できます。

埋め墓の中には石が苔むしているものもあります。
いつかは祭祀も途絶え、家も絶え、石積みも雨風にさらされて風化し、草が生え木々が茂り、自然の営みの中へ還って行くのだろうと思います。
両墓制の埋め墓を見ていると、これが死者の弔いの一番自然な姿なのでは、と思えてきます。

なお、鈑戸の埋め墓は、NHK-BSで放映されている「にっぽん縦断 こころ旅」で旅人の火野正平さんが訪れたこともありました。

鈑戸の埋め墓に向かう途中で見た大山

鈑戸の埋め墓の場所

<参考資料>
・鈑戸の両墓制 現地解説板
・とりネット 最近の活動から:大山町前谷地区で両墓制調査を実施/とりネット/鳥取県公式サイト (tottori.lg.jp)
・BES大山 両墓制 - BES大山(鳥取) (goo.ne.jp)
・だいせんみちを歩こう だいせんみち(大山道)を歩こう | 佐摩から大山へ (izumokaido.jp)
・ストーンサークル 山陰の霊魂観 ~大山周辺の「精霊送り」を見る~ | ストーンサークル (stone-c.net)

次回予告 中山の埋め墓 【霊峰大山のふもとの両墓制・2】

今回、両墓制の埋め墓を3ヶ所確認しました。その2つめです・

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