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【晩夏のゾーッとするクラシック・10】グリーグ:「ペール・ギュント」第1組曲、第2組曲/ヘルベルト・フォン・カラヤン&ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団【北欧伝説の主人公】

小学校の鑑賞教材としても有名

ノルウェーの作曲家エドヴァルド・グリーグ(1843~1907)の代表作「ペール・ギュント」。小学校の鑑賞教材としても取りあげられたり、各種のBGMとしても使われたりしているので、ご存知の方も多いと思います。私も、小学校6年生の時に「ペール・ギュント」第1組曲を教わりました。
今回取りあげる「ペール・ギュント」はもとは劇付随音楽で、のちに作曲者自身によって2つの演奏会用組曲として編まれました。
第1組曲、第2組曲は、それぞれ次の4曲からなっています。

「ペール・ギュント」第1組曲
 朝
:モロッコの海岸でさわやかな朝日を見つめるペール
 オーゼの死:ペールの語る冒険譚を聞きながら息を引き取る母オーゼ
 アニトラの踊り:モロッコの酋長の娘アニトラが妖艶な踊りでペールを誘惑する
 山の魔王の宮殿にて:山奥で山の魔王の娘に魅入られ、その宮殿でトロルたちに追い回されるペール

「ペール・ギュント」第2組曲
 イングリッドの嘆き
:ペールによって結婚式場から拉致された村娘イングリッドの嘆き
 アラビアの踊り:ペールを歓迎するモロッコの酋長一族の華麗な踊り
 ペール・ギュントの帰郷:アメリカで金鉱を掘り当て億万長者になったペール。しかし故郷ノルウェーへの帰国の途中、彼の船が嵐に遭って難破する。
 ソルヴェイグの歌:ペールを案じる恋人ソルヴェイグの哀歌

組曲の各ナンバーの並び順は、劇中の並び順とは関係ありません。
小学校の鑑賞教材となっていたのは、以前は第1組曲でした。現在は、「山の魔王の宮殿にて」が取りあげられているようです

グリーグ:「ペール・ギュント」第1組曲、第2組曲
グリーグ:「十字軍の兵士シーグル」組曲
ヘルベルト・フォン・カラヤン&ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ジャケット表

曲目と演奏者

エドヴァルド・グリーグ
・「ペール・ギュント」第1組曲
  朝 オーゼの死 アニトラの踊り 山の魔王の宮殿にて
・「ペール・ギュント」第2組曲
  イングリッドの嘆き アラビアの踊り ペール・ギュントの帰郷
  ソルヴェイグの歌
・「十字軍の兵士シーグル」組曲
  前奏曲「王宮にて」 間奏曲「ボリヒルドの夢」 勝利をたたえる行進曲ヘルベルト・フォン・カラヤン&ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

ペール・ギュントあらすじ

ペール・ギュントはノルウェーでは有名な伝説の主人公として親しまれています。ノルウェーの文豪ヘンリック・イプセン(1828~1906)が彼の伝説をもとに戯曲に著し、グリーグの音楽をつけて演じられ、大好評を博しました。

ペール・ギュントはノルウェーの村で年老いた母親と暮らす放蕩息子。夢のような大言壮語ばかり口にする若者だが、ソルヴェイグという純情な恋人がいる。
ある日、村の婚礼で見かけた花嫁イングリッドを見初めたペールは彼女を略奪して山に逃げ込む(2-1=第2組曲1曲目の意味 イングリッドの嘆き)。だが、すぐにイングリッドに飽きてしまったペールは彼女を捨てて山を彷徨ううち、緑色の服を着た少女と出会う。彼女に誘われるまま山奥の宮殿に行くが、そこはトロル(北欧神話に登場する妖怪)の宮殿だった。ペールはトロルの王に一族になるよう強要されるが拒否、危うく殺されそうになる(1-4 山の魔王の宮殿にて)。命からがら逃げ出したペールは家に戻ると、母オーゼが死の床についていた。オーゼはペールの語る冒険譚を聞きながら、ペールとソルヴェイグに看取られて息を引き取る(1-2 オーゼの死)
月日が流れ、ソルヴェイグを残して村を出奔したペールはモロッコにいた。美しい朝の景色を見て、ペールは希望に胸をふくらませる(1-1 朝)
ペールは予言者になりすまし、富を得る。モロッコの酋長がペールを屋敷に招き、歓迎する(2-2 アラビアの踊り)。続いて、酋長の娘アニトラが妖艶な踊りを踊ってペールを誘惑する(1-3 アニトラの踊り)。アニトラの色香に迷ったペールは、稼いだ金をすっかり巻き上げられてしまう。無一文になったペールは精神病院に送られ、そこで皇帝と崇められる。
さらに長い年月が流れ、ペールはアメリカにいた。ペールは金鉱を掘り当て、億万長者になっていた。年老いたペールは故郷ノルウェーで静かに余生を過ごそうと、金銀財宝とともに船に乗り込む。ところがノルウェーを目前にして船が大嵐に遭い、全財産もろとも沈没してしまう(2-3 ペール・ギュントの帰郷)
命からがら海岸に流れ着いたペールの前に死神が現れ、ペールの命もあとわずかであること、この世に生きた証が何もないペールは死後にボタンに作りかえられてしまうことを告げる。必死になって自分の生きた証を捜し求めるペールがなつかしい家にたどり着くと、そこには真っ白な髮になった恋人ソルヴェイグが帰りを待っていてくれた。死神は消え、ペールは「おまえの愛が私を救ってくれたのだ」と泣く。
ペールはソルヴェイグの腕に抱かれ、ソルヴェイグの歌う子守歌を聴きながら、永遠の眠りにつく。
「2-4 ソルヴェイグの歌」は劇中に数回演奏され、ペールを案じるソルヴェイグによって歌われます)

「ペール・ギュント」のあらすじでした。
なんというか・・・・ペールのような破滅型の男に報われぬ愛を捧げたソルヴェイグが、ただただかわいそうに思います。

グリーグ:「ペール・ギュント」第1組曲、第2組曲
グリーグ:「十字軍の兵士シーグル」組曲
ヘルベルト・フォン・カラヤン&ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
ジャケット裏

カラヤン&ベルリン・フィルの「ペール・ギュント」

小品や通俗曲にも手を抜かず、一流の演奏をしたカラヤン。「ペール・ギュント」も生涯に3度録音しています。これはその2回目のもの。2つの組曲の録音としては初めてのものです。
演奏はとにかく美しい。「朝」の清澄、「オーゼの死」の悲痛、「アニトラの踊り」の妖艶、「山の魔王の宮殿にて」の恐怖。「イングリッドの嘆き」の詠嘆、「アラビアの踊り」の華麗、「イングリッドの帰郷」の絶望。そして「ソルヴェイグの歌」の哀惜。これらがみごとに音化され、劇の各場面が眼前に浮かんでくるようです。
このCDにはグリーグの劇音楽からの組曲「十字軍の兵士シグール」もカップリングされていますが、これも名演です。

思い出のレコード

中学1年の時、音楽の鑑賞教材として「アルルの女」を聴きました。もう感動して、「アルルの女」のレコードがほしくなり、下校途中により道をして街のレコード屋さんで、カラヤン&ベルリン・フィルの演奏する「カルメン」「アルルの女」「ペール・ギュント」「十字軍の兵士シーグル」が収録された2LPでした。
これが私が自分の小遣いで初めて買ったクラシック音楽のレコードで、これも思い出のレコードです。もう来る日も来る日も、勉強そっちのけで聴いていました

思い出のレコード
カラヤン&ベルリン・フィルの2LPシリーズ

カラヤン&ウィーン・フィルの「ペール・ギュント」

ここで取りあげた録音の10年ほど前、カラヤンはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とも「ペール・ギュント」を録音しています。

グリーグ:「ペール・ギュント」抜粋 ほか
カラヤン&ウィーン・フィル

この録音はカップリング曲を変え、何度も再発売されています。このCDの収録曲は次のとおりです。

リヒャルト・シュトラウス:交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」
グリーグ:「ペール・ギュント」抜粋
  朝 オーゼの死 アニトラの踊り 山の魔王の宮殿にて
  イングリッドの嘆き ソルヴェイグの歌
チャイコフスキー:幻想序曲「ロメオとジュリエット」

ヨーロッパでよく知られた民話や伝説の主人公にちなんだ音楽というコンセプトでまとめられたCDです。
カラヤン&ウィーン・フィルの演奏は、ベルリン・フィルとの演奏よりもややゆったりしたテンポで、情感あふれる演奏になっています。
その一方で、「山の魔王の宮殿にて」はかなり遅いテンポで、低音弦楽器やティンパニが強調され、魔族が地の底でうごめくような不気味さが表出されています。 トロルたちがペールを追いつめる場面はテンポが上がり、凄い迫力です。
ウィーン・フィルはモーツァルトやウィンナ・ワルツの優美な演奏が絶品と言われており、私も同意しますが、「山の魔王の宮殿にて」のような不気味な音楽も実は得意です。

<次回予告>
【晩夏のゾーッとするクラシック・12】ラヴェル:「夜のガスパール」/ルイ・ロルティ【ピアノによる奇怪な音詩】

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