カラヤン&ウィーン・フィル/ニューイヤー・コンサート1987
CD、DVD、Blu-Ray 鑑賞室を始めるに当たり、何から始めようかと考えに考え、このCDを選びました。カラヤン&ウィーン・フィル/ニューイヤー・コンサート1987。
曲目と演奏者
ヨハン・シュトラウス:喜歌劇「こうもり」序曲/ヨーゼフ・シュトラウス:ワルツ「天体の音楽」/ヨハン・シュトラウス:アンネン・ポルカ/ヨーゼフ・シュトラウス:ワルツ「うわごと」/ヨハン・シュトラウス:ポルカ「観光列車」/ヨハン&ヨーゼフ・シュトラウス合作:ピチカート・ポルカ/父ヨハン・シュトラウス:アンネン・ポルカ/ヨハン・シュトラウス:ポルカ「雷鳴と電光」/ワルツ「春の声」/ヨーゼフ・シュトラウス:ポルカ「憂いもなく」/ヨハン・シュトラウス:ワルツ「美しく青きドナウ」/父ヨハン・シュトラウス:ラデツキー行進曲
Soprano:キャスリーン・バトル
Cond:ヘルベルト・フォン・カラヤン
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
1987年1月1日 ウィーン ムジークフェラインザール
1985年秋 「1987年のニューイヤー・コンサートにカラヤン登場!」
1985年秋。大学の図書室で読んでいたレコード芸術というクラシック音楽誌。「海外楽信 ウィーン」というコーナーを読んでいると「1987年のニューイヤー・コンサートにカラヤン登場!」という大見出しが飛び込んできました。
「え?まさか」と一瞬息が止まりました。クラシック音楽の新年の大イベント=ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートに、当時ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者だったヘルベルト・フォン・カラヤンが登場するというのです。
ニューイヤー・コンサートは、毎年1月1日に開かれます。美しい花で飾られた黄金のホール(ウィーンのムジークフェラインザール)で、ウィーンフィルハーモニー管弦楽団がワルツ王 ヨハン・シュトラウス一家のワルツ、ポルカを次々と奏でます。
日本ではNHKが衛星生中継をしており、元日の夜はテレビの前でウィーン・フィルの優雅なワルツを楽しんでいました。そのニューイヤー・コンサートを楽壇の帝王カラヤンが指揮する・・・・1987年の1月1日が早くも待ち遠しくなりました。
1986年秋 カラヤン 病に倒れる
翌1986年の10月。カラヤンは手兵のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を率いて、来日演奏会を行うことになっていました。そのチケットも大枚はたいてゲットしていたのですが・・・・直前にカラヤンは病に倒れ、来日公演はキャンセルになってしまったのです。(このことは別記事で詳しく書きます)
12月になってもカラヤンの復帰はならず、「重い病なのでは?」という臆測も流れます。カラヤンの病状とニューイヤー・コンサートはどうなるのか、気が気ではありませんでした。
1987年1月1日 夜8時 NHK教育テレビ
迎えた1987年(昭和62)1月1日。夜8時からNHK教育テレビでニューイヤー・コンサートの衛星生中継が始まりました。
例年は、NHK内のスタジオからホール内の映像に切り替わるのですが、この年は冬のウィーンから、特派員のレポートで始まりました。
「ウィーンは年末の雪に見舞われましたが、その雪もすっかり溶けております。こじつけを申せば、これもカラヤン熱のためかもしれません。・・・・」
レポーターはカラヤン復帰にわく新年のウィーンの様子を、熱っぽく伝えていました。
「カラヤンが、最高の舞台で演奏会に復帰したんだ。よかった・・・・」正直な感想でした。
カラヤン ニューイヤー・コンサートを指揮
万雷の拍手に迎えられて指揮台に上ったカラヤンは、流麗な指揮でヨハン・シュトラウスの喜歌劇『こうもり」序曲を振り始めました。あでやかで華やかなウィーン・フィルの音色が、19世紀末のウィーン音楽を彩ります。
続く「アンネン・ポルカ」「観光列車」「皇帝円舞曲」「雷鳴と電光」・・・・優雅なワルツ、ポルカに、極上のワインを味わったかのように酔いしれました。
正規プログラムの最後の曲、「春の声」には、当時人気絶頂のソプラノ歌手 キャスリーン・バトルが登場して、可憐な歌声で花を添えました。
アンコールに応えてのポルカ「憂いもなく」では、曲に合わせて楽員が笑い声を上げる演出があるのですが、カラヤンはオケとともに愉快に笑い声を上げました。
アンコール2曲目の前に、カラヤンの世界に向けてのドイツ語と英語でのスピーチがありました。
「私とウィーン・フィルは、新年のご挨拶を申し上げます。私たちが世界に望むものは、平和・平和・そして平和です」・・・・
アンコール2曲目「美しく青きドナウ」のこの上なく優雅な演奏。アンコール止めの「ラデツキー行進曲」でおきまりの聴衆の手拍手まで、カラヤンは楽しそうに指揮し、盛大な拍手に包まれて、夢のようなコンサートは幕を閉じました。
優雅 華麗 そして一抹の寂しさと
この年の4月10日に、「カラヤン&ウィーン・フィル/ニューイヤー・コンサート1987」のCDが世界にさきがけて日本で先行発売されました。それがこのCDです。
当日演奏された曲目のうちの3曲(喜歌劇「ジプシー男爵」序曲、皇帝円舞曲、常動曲)とカラヤンの感動的なスピーチがカットされていること、曲順が一部入れ替えられていることが少し残念です。
カラヤンは1989年7月に亡くなり、ニューイヤー・コンサートへの出演は、この1回のみとなりました。
そのことを抜きにしても、あれから37年が経った今でも、このCDを聴くと、大学の図書室でカラヤンのニューイヤー・コンサート出演を知ったときの興奮、病に倒れたカラヤンが復帰するのかどうかの焦燥、そして1987年1月1日の夜の夢見るようなニューイヤー・コンサートを、昨日のことのように思い出します。
優雅で華麗で、そして一抹の寂しさをたたえたニューイヤー・コンサートでした。
このニューイヤー・コンサート1987は、カラヤンの設立した映像会社によって映像収録もされており、ソニーからDVD、Blu-rayとして発売されています。
そちらはCDでカットされていた3曲も含め、コンサートの全曲が収録されていますが、曲順の配列が実際に演奏された順番とは異なっています。またカラヤンのスピーチはやはりカットされています。
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