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中山の埋め墓 【霊峰大山のふもとの両墓制・2】

かつて土葬が主流だった頃、遺体(遺骨)と遺髪等を別々の場所に納める「両墓制」という墓制が行われていました。鳥取県西伯郡の大山町や琴浦町では両墓制の埋め墓が広く分布し、近年まで細々と両墓制が行われていたようです。

両墓制について・1

両墓制については前回説明しましたので、ここでは簡単に。
「両墓制」とは簡単に言えば、一人の死者に対して二つの墓を設ける習俗です。
遺体(遺骨)を埋めた墓を「埋め墓」「捨て墓」「ヒヤ」等と呼び、遺体から切り取った遺髪などを埋めた墓「詣り墓」「アゲバカ」「ホンバカ」「ハカ」等と呼びます。
いま一般に行われている、遺体(遺骨)を埋めて石塔を立て、霊を祀るやり方を「単墓制」といいます。

両墓制について・2

両墓制は江戸時代頃から広く行われるようになったらしいです。理由としては・・・・

1.当時の庶民では大きな墓を作ることが出来ず(土葬は火葬に比べて墓の場所を取る)、遺体を別の場所(人里近い里山や野原など)に埋葬し、庭先や寺の一角に遺髪や遺品を埋めてそこに詣るしかなかった。・・・・物理的な「場所」の問題
2.「肉体には魂が宿り、死ぬと魂が抜ける」という考えがあり、遺体は魂が抜けたいわば「抜けがら」と考えて、遺体と遺髪を別々に埋葬し、遺体を埋めた場所を「抜けがら」の「捨て場」、遺髪や遺品を埋めた場所を「詣り墓」とした。・・・・精神的な問題・1
3.遺体は「穢れたもの」と考え、遺体を埋めたその場所に詣ると「穢れを背負い込む」あるいは「死者に連れて行かれる」との「恐れ」から埋め墓と詣り墓を別々にした。・・・・精神的な問題・2

まだ諸説ありますが、上記のような理由が考えられているそうです。
ちなみに、私の学生時代の同期に県の文化行政課で発掘調査に従事していたのがいます。彼の話では「骨は意外に早く土に帰るが、毛髪はかなり長い間残っている。だから、発掘調査の際に毛髪がたくさん出土すると、そこは墓(埋葬地)の跡だと推定する」ということでした。

大山町と大山について

大山町と大山についても前回説明しているので、ここでは簡単に。
大山町(だいせんちょう)は大山の北麓に位置し、1955年(昭和30)9月1日に町制施行されました。霊峰大山と大山寺、大神山神社などの霊場、いくつかのスキー場を有し、観光が町の主要産業になっています。
大山(1,709m)は中国地方の最高峰。中腹にある大山寺は西日本屈指の霊場として知られ、かつては多数の僧兵を擁し、中国地方の戦国大名も崇敬しました。この大山寺の歴代住職や僧侶たちが、両墓制で祀られているとのことで、大山周辺の両墓制はこの影響を受けているとの説もあります。

中山の埋め墓

中山の埋め墓の場所はうまく説明しにくいのですが、山陰自動車道の中山ICの近くです。埋め墓のすぐそばを山陰自動車道が通っています。

中山の埋め墓 入り口から

埋め墓の敷地はおよそ3段にならされていて、それぞれに埋め墓があります。

中山の埋め墓
中山の埋め墓
中山の埋め墓
中山の埋め墓
中山の埋め墓
中山の埋め墓

前回ご紹介した鈑戸(たたらど)の埋め墓と見比べていただければ分かりますが、中山の埋め墓は大きな石を置いただけです。ただ、墓標に見立てた石も立てられています。

中山の埋め墓
入り口近くの小さな埋め墓

よく見ると、入り口の近くには小さな埋め墓がありました。幼くして亡くなった子どもの埋め墓でしょうか。

鈑戸の埋め墓とは直線距離で20㎞ほど離れていますが、埋め墓の造りはだいぶ違っているようです。どちらが本式ということはなく、それぞれの集落での造り方があったのでしょう。
鈑戸は大山の山ふところにかなり入った地区で、中山は海の近くです。埋め墓に使っている石は、鈑戸は川の上流にあるようなゴツゴツした石。中山は川の中流にあるようなまるみを帯びた石です。
ついでながら、両地区とも埋め墓に使われている石は大山火山のマグマが固まったデイサイトが主です。

中山の埋め墓のすぐそばを山陰自動車道が通っていますが、よくつぶさないでおいてくれました。
大山山麓の埋め墓の中には、すでに整地されてしまった埋め墓もあるということです。

中山の埋め墓の場所

<参考資料>
・とりネット 最近の活動から:大山町前谷地区で両墓制調査を実施/とりネット/鳥取県公式サイト (tottori.lg.jp)
・BES大山 両墓制 - BES大山(鳥取) (goo.ne.jp)
・だいせんみちを歩こう だいせんみち(大山道)を歩こう | 佐摩から大山へ (izumokaido.jp)
・ストーンサークル 山陰の霊魂観 ~大山周辺の「精霊送り」を見る~ | ストーンサークル (stone-c.net)

次回予告 伯耆町・福岡の埋め墓 【霊峰大山のふもとの両墓制・3】

大山のふもとの埋め墓の紹介は、次回が最後になります。
そして、今回の斎場&火葬場跡&葬祭施設の紹介も、次回で取りあえず最終回になります。

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