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ホストとイルカ

友だちとしゃべると、YouTube何見てるー?という話題にときどきなる。

お笑いよー、廃墟特集よー、犬や猫の動画よー、といろいろ。

わたしはひと月ぐらいでブームが入れ替わり、ゴルフ、旅もの、の後、しばらく前まで歌舞伎町のホストクラブだった。

ホストクラブ。
そう答えるわたしに友だちはだいたいなんじゃそりゃーという反応になる。

見るようになったきっかけは、くだらない長い話なのではしょるけど、ホスト、と聞くと、わたしは夏の少し前の海辺を思い出す。

わたしは人生で数時間だけホストと過ごしたことがあった。

今よりずっと呑気で怖いものもなくて暇で浅はかだった頃の話。

当時兵庫県の神戸に一人で暮らしていて、会社のない休日は、そうだ、海でも見に行こう、と電車に乗って須磨海岸へときどきひとり出かけていた。

水野家のコロッケ買って、お茶持って、海へ。ひとり。

海の前では人は何もしなくてもいい、というのが好きだった。ほんとになーんにも考えずに海を見るだけ。コロッケうまい。ひとり。

そんなとき突然「須磨水族館ってどっちですかー」と男性に声をかけられた。

見るとその男性の少し後ろに二人男性がいて、絵に描いたような、お前ちょっと聞いてこいの図だった。

「こっちですよ。よかったら案内します」

ちょうど歩きたくなってたので、わたしはその3名を連れて須磨水族館まで案内することになった。

その3人組はなんとなくちぐはぐだった。40代くらいのちょっと体格のいい男性と、20代前半くらいのひょろりと背の高い男性、たぶん20代後半の小柄な男性。

みんな、なんとなく黒か紫っぽいスウェットみたいな服と金のアクセサリー。

ご旅行ですか、と聞いたら、いちばん年上の男性が、旅行っていうかー、まあ、慰安旅行みたいなもんよ、と言って、ホストクラブのメンバーで、と付け加えた。

その人がオーナーで、背の高い人がナンバーワンだという(女たらしで、と笑って説明していた)、もうひとりはなんかあまり(ホストとして)人気はなさそうだった。(その人が道を尋ねてきた)

ほほう…。
ホストと言われてもわたしに広がる話題はなく、お愛想でも今度行きますーとはならず、なにかぼんやりした会話をしてたら水族館に着いた。

ここですよー。と言って、ではいってらっしゃい、さようなら、良い旅を、というタイミングで、オーナーがこちらを見て、オトナ4人だな、と呟きチケットを買った。

え、わたしも。

3人とも当然のような顔をしているので、お礼を言って一緒に水族館へ入った。

なかでどんな話をしたのかよく覚えていない。ただ、ホストの人たちはさほど魚に興味なく、ちょっとずつ感想述べたり、黙って進んだりしたのだと思う。

そのうちイルカショーがはじまると案内があった。

みんなでぞろぞろと移動して、ちょっと上の方の席に並んで座る。

イルカショーは休日ということもあって、人も多く、かわいい仕草やジャンプしたりするたびに大きな歓声が広がった。

わたしたちもはじめて、はしゃいだ雰囲気になってきた。

そのうちに会場でお手伝いしてくれる人〜みたいな呼びかけがあり、観客の多くがハーイハーイと手を挙げた。

わたしたちも後ろの席で一生懸命手を挙げた。オーナーは笑って見てた。

当然のように前の方に座る子ども数人が指名されて舞台に上がった。

まーそうだよねー。と思いつつ、なぜかみんなちょっと残念だった気持ちを持て余しているようだった。

なんとなく照れ笑いみたいな感じになった。
だめだろうなあと思いつつ、手を挙げるわたしたちはその時仲間だった。

ショーも終わり、またぞろぞろ歩いて見終わり、水族館の前であっさり別れた。

最後に三宮で危なくない場所を聞かれたけど、わたしは逆に危ないところってどこかわからなくていいかげんに答えた。

これで終わる、それだけのホストの思い出だ。

でもわたしは、ホスト、という言葉からぼんやり思い出してしまうこの数時間を少しだけ大事にしている。



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