初心者の友人と場末雀荘に行った話
あれからしばらくして。
私の中学の同級生である高田という男からLINEが届いた。
「なあ、俺雀荘行ってみたいんだけどさ、一人で行くの怖いんだよ。一緒に来ないか? 」
と書かれていた。
高田は麻雀歴こそ2年近くあるものの未だに点数計算は出来ないし押し引きはなってないしで非常に下手だった。それに手積みセットしか経験してないためちゃんとしたマナーを知らない。私がついた方が安心だろう。
『いいけど、今手持ち1000円しかないぞ?預かり金で破産するが』
「金なら1万貸すよ。いいから来てくれって。俺の運知ってんだろ?」
高田はかなりの下手くそであったが運だけはやたら強かった。以前友達同士でやった三麻で6連続ツモスー聴牌うち3回をツモり上げた男だ。正直かなり不安だったが連れていくことにした。私も打ちたいし。
高田が見せてきたのは駅から10分という
「麻雀 アウトロード」
という店だった。場末のそれらしくレートは書かれてない。ルールも書かれていない。不安がさらに募ったが気にしないことにした。
翌日の午前10時、私はバスに乗って駅に向かい、駅前のコンビニで高田と待ち合わせた。
『よし来たな。とりあえずまず1万くれ』
「いきなりそれかよ……ほれ確かめろ」
『はい毎度、お前から勝って返すわ』
「言っとけ。はよ行くぞ」
そうして駅から歩き始めて20分。全然着く気配がない。
『おいまだか?もう結構経ってるだろ』
「あ……これ車で10分だったわ」
『………………(無言のまま中指を見えないように突き立てた)』
途中で雨も降って来る中現地に到着。
一軒家をそのまま改造したような外観で看板がなければ気づかないものだった。
傘を傘立てに入れてドアを開く。
『すみません、新規ですが入れますか?』
見るとセットと思われるおっさん卓が一卓のみ。メンバーはおろか店長と見られる人間すら見られない。
卓にいる1人のおっさんが私に声を掛けた。
「店長なら2階で寝てるよ。ここは予約入れとかないとダメだからさ。今度は予約入れてきてね」
そう言われたらすごすごと引き下がるしかない。私は素早くGoogleマップを開き近くの雀荘を調べる。それにしても何と適当な業務形態だろうか。絶対経営成り立ってないだろ。
そう愚痴を零しながら調べてみると一件ヒットした。
「麻雀 銀杏 電話番号○○○○-○○-○○○○」
早速電話をかける。
「あの、新規で二人なんですがフリー打てますか?3時頃に向かいます」
『大丈夫ですよ。お待ちしてますね』
ともかくこれで打てる。大雨降り注ぐ中一歩一歩ボロ傘を楯にして農道を歩いていった。
15分ほど掛けて雀荘銀杏へ。古びた店舗のドアを開けるとそこはモノクロの床に年代物の大きなソファー、そして何故か大きな鹿の首の剥製が壁にかかっていた。
店長の石毛という男に身体を拭くタオルをもらってからルール説明を受ける。
「0,5の東南で10-20のアリアリね。赤が3個入ってて門前祝儀。チップは1枚200円でゲーム代はチップ2枚分だよ。鳴くと役満以外はチップつかないからね。とりあえず預かり兼ねて1000円でチップ5枚買ってね」
そう言うと店長は風牌を手に取り掻き回して場所決めを始めた。私は西家に、高田は南家の席に座り、店長は起家席ともう一人煙草を吸っている白髪の爺さんが北家に着いた。ところで0,5でチップ200円って結構高くないか?門前祝儀とはいえ結構鳴き判断やリーチ判断変わりそうだ。
場末の割に卓だけは最新機種の自動配牌で、全員慣れた手つきで摸打を行っていった。
まず驚いたのはその場末特有のマナーだ。下家の爺さんはもちろんのこと店長まで強打をしてくる。満貫を満州と言うのはもちろん山を前に出しすぎて捨牌が河に置けなくなった時はなんと1段目に切った牌の上に乗っけて切っていた。初見の客がいちいち文句を言うのも野暮だと思ったのでそこはスルーし、利用できるものは利用するため一緒になって先ヅモを行っていた。
面子はぬるく、麻雀だけで生活していると豪語していた天鳳の石毛もせいぜい天鳳三段くらいの腕前であった。少なくとも特上卓に比べればはるかに楽な面子であったのは間違いないだろう。
1局目の南3局に高田がこんな手をリーチをかけてツモった。もちろん高田にはこの手がどれくらい高いかは分からない。
店長が見て、
「あーこれすごいね。ハネ満はありそう。30006000の1枚だね。」
と高田に教えた。わざと安く嘘を付いたのか単に三暗刻を忘れたのかは知らないが、なんにせよ親被りが安く済んだので私は黙っていた。下家の爺さんも
「うん……えーと……何点だ?」
とがっつりボケておられたのでやはり気にしないのがいいのだと思った。 この半荘は場代チャラくらいの2着。
3戦目のオーラス、対面の店長とラス争いをしている中で11巡目にこんな聴牌となる。
トップの高田には満貫直撃は届かないがハネ満ツモか直撃なら足りる。2着の爺さんは満貫出和了条件だ。店長には1000点でも和了られたらまくられてしまう。白が鳴けるまでに手間取り中は既に場に2枚切られていた。
そんな中でトップ目の高田から中が切られる。
この時、私は心に決めていた。他二人なら普通に倒す。ただ、ツモれるか高田から出た時は────
「ロン。12000」
…………勝負申告である。
この手は見ればわかる通りチャンタ小三元の5翻、満貫止まりだ。
しかしさっきのガバガバ点数申告からわかる通りこの手には確かな勝算があった。役を申告せず点数だけを簡潔に述べることで違和感を持たせず、かつすぐボタンを押して手牌を卓の中に葬ってしまった。あとで周りが何か言おうが後の祭りということだ。
教科書通りのお利口な技術だけでない、状況判断、人読み、そして勢いで乗り切る、実戦的な生きた理である。
ともかく、これで当初に高田に借りた1万円を高田から毟った金でそのまま返済し、トータル6千円勝ちで店を去った。
私がラス半コールを掛けたあとも高田は残って打ち続け、私が返した1万も合わせて溶かしてしまったそうだが、それはまた別のお話。
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