見出し画像

船の守り神、船乗り猫 その4

現代の船乗り猫

練習船の船乗り猫、チブリー(ミス・チブリー・ビッツ)

チブリーはメスの多指猫で、大型バーク帆船ピクトン・キャッスル号(1928〜現役の遠洋航海練習船、母港はカナダのノバスコシア州ルーネンバーグ)の船乗り猫だった。1997年、チブリーは船長のダニエル・モーランドによりルーネンバーグの動物シェルターから保護され、船乗り猫として世界を5度廻った。ピクトン・キャッスル号は練習船であり、常に新しい練習生が乗船するため、チブリーは多くの人々に紹介され有名になった。残念なことにチブリーは2011年11月10日、ルーネンバーグで船長とともに船に戻ろうと、道路を渡りかけていたところを車にはねられ死亡した。
 翌2012年の夏、ピクトン・キャッスル号の航海中、チーフメイトのマイケル・モーランドがアメリカのジョージア州サバンナの路上で生後8ヶ月の痩せたトラネコを拾った。猫はジョージと名付けられ船乗り猫に。続く1014年中旬、スヴァとフィジという名の2匹の猫がこれに加わった。

 ピクトン・キャッスル号では広く練習生を募集しており、一般人でも現役船乗り猫の彼らと共に航海することができる。

ピクトン・キャッスル  フェイスブック  https://www.facebook.com/BarquePictonCastle/


移民船のレプリカに乗った初代船乗り猫、ツールボックス

 1638年、アメリカ東部のニュースウェーデンという入植地にスウェーデン人たちを運んだことで有名なカルマル・ニッケル号というオランダ製の武装商船がある。1986年、デラウェア州ウィルミントンのある市民団体がカルマル・ニッケル基金を立ち上げ、デラウェア州民や企業団体から寄付を募り、1997年そのレプリカが完成、進水した。船の運営維持管理はボランティアが行い、州のシンボルとして教育プログラムを運営、港間を航行している。

1997年、カルマル・ニッケル号の建造中、工具箱の中で野良猫の赤ん坊が生まれた。子猫はツールボックスと名付けられ、船乗り猫となった。彼女は「船長補佐」という職務を与えられ、正式な下級准尉となった。生まれてからずっと船の上で暮らしたため、彼女はクルーの誰よりも海での経験が豊富だった。ツールボックスは有名になり、2冊の本の主人公になった。

 1012年、年を取り視力を失ったため、ツールボックスは引退、彼女の船乗り生活16周年を祝してパーティが開かれた。
 カルマル・ニッケル号のフェイスブック公式ページの記事によると、2014年3月22日、ツールボックスは天国へ旅立った。
 ツールボックスの他にも数々の船乗り猫がカルマル・ニッケル号で働いてきた。クルー・ガーネット、ラガン、スヴェン、ティミーノッキーそしてディッティー。現在の船乗り猫はチェスターという灰色のアメリカンショートヘアーである。
カルマル・ニッケル HP  http://www.kalmarnyckel.org/
カルマル・ニッケル フェイスブック   https://www.facebook.com/kalmarnyckel/

ロシア海軍の船は猫だらけ
 イギリス海軍が動物の乗船を禁じている一方で、ロシア海軍のほとんどすべての船に今もなお猫が乗っていることを知る者は少ない。彼らの仕事は、船に幸運を運び、嵐の到来を告げ、天気の予測を立てること、そしてクルーたちの精神を安定させることだ。空母アドミラル・クズネツォフ、対潜水艦船オネガをはじめ、潜水艦にですら船乗り猫が乗務している。ロシア海軍では、艦長の許可が降りたときに限り猫の乗船が許されるが、事実上許可が下りなかったことは殆どない。

 最も有名なロシア海軍猫は原子力ミサイル巡洋艦キロフで働くボッツマン(軍艦の掌帆長の意)だ。彼は艦長の命令を完璧にこなし、常にレーザーポインターを用いた強化トレーニングを受けている。ボッツマンには数匹の部下がおり、ある部下は通路で、ある部下は食堂室で注意深く通行人や入室者をチェックしている。

写真はミサイル巡洋艦モスクワに乗船勤務中のセルゲイ・イワノビッチ

 タイフーン型原子力潜水艦TK-13(1985〜1997年就役、2007〜09年解体)からやってきたある船乗り猫が、次の発艦命令を待ち続けていたという逸話が伝わっている。彼は毎晩20時になると中央基地に死んだねずみを咥えて見張り当番に現れ、当番兵の椅子のそばにネズミを預けていったという。
 ロシア国防省はフェイスブックに海軍の現役船乗り猫を写真付きで紹介している。また、猫以外にもロシアの船には犬、鳥、ネズミ、クマでさえ乗っていることがある。

 居るところには居るものである。もっと探せば、さらに多くの現役船乗り猫が見つかるに違いない。今も、そしてこれからも船乗り猫たちは船乗りたちの良き相棒として、また船の守護神として世界の海を渡っていく。


日本の船にもたくさん船乗り猫がいてほしい
 ツイッターや船舶関係者たちのブログによると、船乗り業界では人件費を抑えるため、外国航路の船員の大部分が外国人で占められ、内航船・外航船ともにギリギリの人員で回しているため、船員ひとりひとりの負荷が大変大きく、ストレスレベルが非常に高いという。そのため、クルーたちの雰囲気が非常に険悪な船も少なからずあり、希望を抱いて船乗りになった若者が、乗船早々船を降りてしまうケースも多いと聞く。
 勿論職場環境の改善が第一義ではあるが、もしも、もしもである。そんな船の中に一匹の愛らしい異物が紛れ込んできたらどうであろうか?たった一匹の船乗り猫が徐々に船乗りの職場に化学変化を起こす。そんなことは期待できないだろうか?それとも、それは単なる素人の浅はかな夢想だろうか?
 
 いきなり唐突な話で申し訳ないが、昔「いなかっぺ大将」というアニメがあった。主人公の大ちゃんは柔道家を目指して上京してきた少年だが、彼が師匠と仰いでいるのは「ニャンコ先生」と呼ばれる猫である。このニャンコ先生、実は江戸時代、享保12年に出版された『田舎草子』の一節「猫の妙術」の中でネズミ捕りを通して剣術指南をする猫がモデルではないかと私はにらんでいる。
 その昔、武道家、剣術家、また医者などが、動物から身体操作の技術を学ぼうとしたことが知られている。具体的には、動物の動きを取り入れた中国武術の拳法、クンフーや太極拳、インド武術のカラリパヤット、インドネシア武術シラット、中国後漢時代の医術の天才華佗が編み出した「五禽戯」という健康体操がそれだ。
 過去の船乗りたちもまた、ネズミを捕まえ、索具を自在に移動し、嵐の中でも悠々とフェンスの上を歩く船乗り猫たちの姿を見て、彼らから学びを得ていたのではないだろうか?船乗り猫は船乗りたちから愛されたが、それは彼らが単なる愛玩動物だったからではなく、優れたハンターであり、高い身体操作能力を持ち、人間には計り知れない危機察知能力を持ち、また生命力に満ちていたからではないか?

 日本は全方位を海に囲まれた小さな島であり、昔から人・文化・物資の移動を船に頼って生きてきた。鉄道、車両、航空の発達に伴い忘れ去られがちだが、今現在も物資の大量輸送や大型機器の輸送は船舶に依るところが大きい。その船舶産業を維持していくには若い人材が不可欠だ。今、ネズミを捕ることはなくとも、船乗りの一員として、安航のお守りとして、また危険な海上を航行する伴侶として、カンパチ船長の仲間が増え、そのことにより船内の雰囲気が明るくなれば、船舶業界全体もまた明るいものになるのではないだろうか。


参考・引用元
Gigazine 船乗りたちに幸運と安全、そして勇気を与えてきた「船乗り猫」
カラパイア かつて猫は船の守り神だった。船に乗る猫たちの古写真特集
BLUE GHOST POST Clear Sailing, Little Chibley
Purr ‘n’ Fur FEATURING FELINES Cat’s Adventures & Travels 8
Wikipedia  Ship's cat
ツールボックス動画 youtube Cat of the Kalmar Nyckel
ツールボックス死亡記事 facebook
https://www.facebook.com/kalmarnyckel/posts/toolbox-went-to-fiddlers-green-today-after-17-years-of-service-as-kalmar-nyckels/1418980548356169/
RUSSIA BEYOND Talismans, rat-catchers and living barometers: animals in the Russian Navy / Russian navy shows first cat accompanying military voyage to Syria
葛飾杖道会 「猫の妙術」現代語訳
Wikipedia 華佗
Wikipedia いなかっぺ大将

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?