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花街のPAY FORWARD

かにかくに 祇園はこひし 寐るときも
 枕の下を 水のながるる
 - 吉井 勇 -

四条通りから大和大路を北へ
白川を渡って東に進むと石畳の道が続き
ここだけが歴史に取り残されたかの様な犬矢来が並ぶ
肩の襟を拳ひとつ抜いた稽古着姿の芸妓さん
その歩く姿は街並みにしっぽりと溶け込んでいる

超一流の男ばかりを相手にする花街の女も
自分の本音で愛する男は
当時、新設されたばかりの帝大の若き獅子だったとか
華やかな世界で贅の極みを尽くした食事や芸事を嗜みながら
おけいこの合間を見て、昼間その下宿に遊びに行き
掃除、洗濯など甲斐甲斐しく世話をしていたという

お金に捉われない自らの行為だからこそ
掛け値なしの気持ちとして
自分を癒すことができたのか

また、貧しき苦学生も
いつかは日本を背負う人として
りっぱになってこの街に戻ってくれればと
夢を見て出世払いと投資をしていたのか

まだ何者でもない男のどこに
未来を感じて尽そうと女は思うのか
男の己を信じる心意気
今の現状との差異を悠然とやりこなす器

水のせせらぎを子守唄のように
豪快に寝入る様を
幼子を見守るように横に添い寝する女

貴方にとってそんな女になれればとふと願う
成就することのない恋と分かっていても
貴方の未来はこの世を救ってくれると
そして、その恩恵を私も回り回って享受出来ると信じてる

時代をさかのぼる石畳を踏みしめながら
コツコツとヒールの音を意識しながら歩いた薄暮れ時
気が付けば「立夏」
もう夏がすぐそこに忍び寄っていた

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