「コ・ト・バ・ハ・ア・ト・カ・ラ」
「光より音は遅いんだよ」
そういって貴方は
何も見えない夜空の方を向いたまま
私の手をぎゅっと握った
まだ、花火は上がらない
そして私の早すぎる脈が
掌から伝わっていくのをしっかり確かめながら
ゆっくりと耳元で呟いてくれた
「コ・ト・バ・ハ・ア・ト・カ・ラ」
大きく息を呑み込んで空を見上げると
閃光が放射状に大輪の花を咲かせたかと思うと少し間を置いて地面を揺るがすようなド、ドーンとした音が響き渡った
「あ、花火上がった…」
そんな呟きもかき消される殆、今度は小さな光の粒の音なのだろうかパラパラと夜空中が囀った。
光と音の時間のずれが、異空間に紛れ込んだような錯覚へと誘い、もう貴方に何も言わなくでもても全てお見通しなのかとすら思えてしまう。
「光や音より早く脳に感じるものもあるね」
初めて私の方を向いて首を少しかしげる
ー それは香り ー
気付いてくれていたのね
とびっきりお気に入りの香水
うなじに顔が近づいた時やっと気づくらい
微かにしたためてきたのよ
宵闇の中の駆け引き
胸はとっくに花火より一足先に高鳴っている
夜はこれからか始まり
時空を超えて香りと共に心を捧げるの
だって
「コ・ト・バ・ハ・ア・ト・カ・ラ」
でいいんでしょ
きっと物語はまだまだ続く
もはや花火の後の宵闇を
心待ちにしている私がいる
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