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ビールと五輪竹輪と夜行列車
私が18才の春の時のこと
始発、長崎駅から京都行きの夜行列車に乗っていた。
まだインターネットという言葉もなく
大学の合格発表をその場に行って確かめるのが一番早い方法だった頃
わざわざそれを見にこの季節 ひとり京都に向かっていた。
出発を待つ列車に乗り込み指定された場所を探すと、その席にはとても感じのいいビジネスマンが相席でいて、二人研修のために京都に行くのだと挨拶された。
私の荷物を持つ手の反対は当然のように 缶ビールと長崎名物「五輪竹輪」💦
もちろん彼らもおつまみをどっさり仕込んでいて、ここはラテン系の血が混ざった長崎人、一緒にプルトップを開けたかと思うと
列車の発車と同時に缶ビールを片手にいきなり宴会が始まった。
最初はあまり身分も互いに明かさず
当たり障りの無い話をしながら楽しい会話が続く。
私は酔いも少し入り、実は大学の合否を見に行くのだと明かすと、では前祝いだと何度も缶を合わせ、「乾杯」と叫んでくれる。
教育のことや社会の時事問題から
芸能人ネタまで幅広く話題が尽きることがない。
3人での宴席は楽しいながらも真面目な人柄がにじみ出るとても気持ちのいい場だった。
家が滑石という町で喫茶店をしている話をすると、では、一度帰ったら店に遊びに行くと約束してくれた。
すっかりご機嫌になった私は
お陰で結果の行く末に思い悩む暇もなく
バタンキューと寝台に倒れこみ
無事京都までたどり着いたのだと思う。
さてはてその旅は
残念ながら もう滅多に行けない京都に
もう一度足を運んで良かったと
悔し紛れにしか聞こえない結果しか待っていなかった。
大体、他の大学を一般試験で受けた人は私立の女子校全体で二人しかいない
(つまり殆どが内部進学と推薦)
そんな環境で受験を決めたことから間違い。
夏休みも終わった9月に初めてマークシートを見たといういい加減なところから始めているのだから、当然と言えば当然の結果
あ~あやっちまった。
1年浪人という選択を早くも受け入れかけていた。
少し嬉しかったことといえば、受験そっちのけで書きたくなって締切間際に投函したサンケイ新聞主催の小論文に、九州で一人選ばれて東京まで表彰式を受けに行ったこと。
しかし、それも高校側からしてみればあまりの破天荒な内容に、あわや退学かという問題にまで発展し
結果、見逃す代わりに学校として広報もチャペルでの表彰もしないという、なんとも間抜けな展開になっていた。
そんな時、その寝台列車で出逢った二人が
店を訪ねてやって来た。
母が、その節はお世話になったことを
深々と頭を下げながらお礼を述べ
実は娘があんな風に祝っていただいたが
もう1年頑張ることになりそうなのだという
話をしながらカウンター越しにビールを差し向けていた。
するとそのうちの一人が
「お嬢さんは是非大学を目指してください。
その今、秘めたる力を4年間で華開かせてください。きっと何か掴みますよ」
そんな話をしてくれたのだという。
実は二人は
現役の他の高校の教師だった。
つまり私はその先生の前でビールとちくわを片手に、堂々と祝杯!?を重ね、夜行列車に飛び乗っていたというわけだ。
最初二人もどうしようかと戸惑ったが
あまりにも私の自然な飲みっぷりとその話の面白さに、ついつい自分たちの立場も忘れ
ああして楽しいひと時を過ごさせてもらったのだと、なんともバツの悪そうな顔をしながら話しを続けたとか。
今思えば実にのんびりした時代だった。
あの時何をどう思ってそう言ってくれたのかわからないが、
最終私は京都の別の大学に合格したことがその後分かり、取り敢えず4年間という時間を貰うために浪人することなく大学生活を京都で始めることになった。
3月、悲喜交々の激しい数週間を過ごしながらその先生の言葉が、意外と私を支えていてくれたことを感じていた。
これで京都で一人暮らしを始めても大丈夫
私のどこの何が「秘めたる力」かわからないけどそういってくれる人が一人でもいてくれるのならそれを信じて進んで見よう。
そう、「人生は結局はチャラなのだ
生きてさえいればプラスマイナスはゼロになる
ならば、恐れることなくやってみればいいじゃない」かと。
それからはや長崎を出てもう30年以上が経った。
18の小娘が考えたことながら案外それは間違っていないみたい。
春、いろんな想いを抱えながら
この季節を迎えるあなたがいる
今度は私が見知らぬ通りすがりの人となって
「自分の秘めたる力を信じてね。人生結局 チャラなのよ!」
その言葉を捧げたいと思う
必ず夜は明けそして桜舞う春はやってくる。
ご所望であればビールと五輪竹輪はいつでも用意してますからネ。
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