見出し画像

ガスストーブのある風景

風の色が変わった
今朝東北に住む友の白樺の写真を見てそう思った
落ち葉もキラキラ輝く
豊かで艶やかな秋を通り過ぎて
いよいよ遠く北の大地では
粛々と冬を迎える準備に入ったようだ

流石にここ琵琶湖のほとりでも
木枯らしが吹くようになった
春と違い
一雨ごとに寒さが募り
油断をすると頬を切られそうな
厳しい冬がやってくる
いつもは全てを受け入れてくれる琵琶湖も
この季節だけは人を拒絶するような
荒々しい顔を見せてくる

そうなると私は
いそいそとガスストーブを出す
我が家の暖房器はこれとコタツだけ
少しノスタルジックな形も気に入っている

てっぺんが平らな形は
必ずおやかんが乗せられる
ガスを点火すると
板が真っ赤に染められて
そこを取り巻く反射板が
遠赤外線も出しているのだという
熱以上のひだまりのような暖かさを
感じさせてくれる

見た目だけではない
乗せられたおやかんからは
いつでもしゅんしゅんと湯気が出て
わざわざ加湿器を出す必要もない
インフルエンザ対策にも一安心

もう一つ心強いところは
万が一停電になっても
ガスがあれば暖だけは取れるという安心感
通常のガスファンヒーターは
着火が電気でなされていて
停電の時たちまち使えなくなるのだが
これは電池で動くので一安心というわけだ

家を新築するとき
オール電化を勧められた
外壁をまるごと魔法瓶のようにして
どこでも一定の温度となるような壁も提案された
だけど我が家は不便な家を目指しますと
建築家が怪訝な顔をするようなコメントを残し
今のような形となった

冬になると
夏仕様で作られた家はとたんに寒さも一段と厳しくなる
寒さに震えた子供たちは
唯一の暖を求めて
ガスストーブのそばに
そして小さな4畳半で仕切られた
和室に置かれたコタツに集まってきた

思春期になっても
寒さには勝てなかったようだ
コタツの中で互いの足が邪魔だ
みかんを取って来いと
軽口を叩き合いながら
全員が夜を一緒に囲んでいた

ひとつの空間を共有する時間が長くなると
話さないつもりだったことも
ポロリポロリとこぼれ出す
これが不便を享受する代わりに手に入れることができる
ささやかで何物にも代えがたい喜びだった

常に外へ外へと向いていた
外交的な夏から
自分を見つめ自問自答を繰り返すのにふさわしい
冬ごもりの季節

下宿している息子が明日帰ってくると連絡があった
リクエストはシチューにポテトサラダ
ストーブのほこりを祓おう
そろそろコタツも出してみようか
遠赤外線だけでじゃない
心があったまる仕掛けがここにある

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?