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都会の雪

珍しくニュースを眺めてる
リアルタイムの報道なのか
降りしきる雪の中短くコメントを残して
家路を急ぐ女性が映し出されていた

どうやらこのままいくと
今夜はかなり積もるらしい
電車の遅延情報が次々と表示されていく
ふと窓の外を見ると大きな華のような雪が舞い踊っていた
向かいの高層ビルから漏れる明かりも少し霞んでいる

「帰れなくなったらどうしよう」
ふと、明日の仕事の段取りが頭をよぎる
部屋の中は別世界
二重に仕切られた窓は
冷気も音も完璧に遮断され
伸ばした素足が気持ちいい
どこか、別世界の他人事のようだけど
帰宅困難者の当事者は実は私たち

―そうなるのも悪くない
5%の私が意地悪そうに心の中でつぶやく
普段の私なら感情も欲もコントロールし
わがままひとつ言えない自分がいるから
こうして不可抗力で
神の見えざる手が
今宵一夜を過ごすことを許してくれるのなら
それもいいかもと 心の悪魔が囁くのだ

ずっといい子のままで
スマートな恋愛を続けるのも口惜しい
振り子の反対側に大きく舵を切って
それなりの罪も甘んじて受けてみたくもなる

あなたの顔を覗き見る
無表情でずっと壁際の画面を見ていたけれど
おもむろにこっちに振り向いた
「そうなったら、泊まればいいさ」
そう言い放ちふたりの時間を悠々と楽しむあなた

あまりに自然で普通で驚く私
いいの?それでもいいの?
言われたとたん小心者になって
あれこれ言い訳してしまう私
そんなところに
いざという時の男の器量が見える

雪は一向に止みそうにない
もう最後の電車が走り出したかもしれない
雪よ、このまま降り続けていて
私の迷いも ためらいも
全てを覆って見えなくして欲しいの
事実をしんしんと積み重ね
根雪となって降り積もれば
二人の関係はこうして一気に深まっていく

都会の雪は
どこまでも冷たくて熱い

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