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山茱萸

「庭のサンシュ~の~木~」で始まる
宮崎県民謡「稗つき節」であるが、
私が子供の頃、大分県生まれの父が
良く歌っていたものである。
その木は山茱萸というのが、
九州地方の通説であると、
かすかに記憶していた。
 
その木に興味をもち、ネットを調べはじめたのが
十年前のこと、「山茱萸酒」の記事をみかけた。
その酒には薬膳効果があり、効能は
「滋養強壮」「収斂(しゅうれん)」「止血」「沈静」
「抗アレルギー」「利尿」などに
効果があるという。
確か「冷え性」にも効くという
記述もあったようである。
「山茱萸酒」は通販で購入可能
であったが、当時一本一万円
という高値であった。
レシピを調べると、
山茱萸の実二百グラムを一・八リットル・
三十五度のホワイトリカーでつけこむと、
三か月で出来上がるとの記述があった。
 
妻は身体が多少弱く、冷え性にも悩まされていた。
そこで、これほど簡単にできるものなら
山茱萸を自宅の庭に植えて、
山茱萸酒を自作したい
と思い立ったのが、九年前のことである。
 
余談となるが、近年、ネットでは、
「稗つき節」の木は「山椒説」ばかりである。
当時は「山茱萸説」と「山椒説」の二説あり、
山椒説では、薬膳効果のある植物として
「小石川植物園」に初めて山茱萸が
輸入されたことになっている。
 
私の創作した説は、
「医者も医薬品も乏しく、
重労働に耐えなければならない
平家部落の落人たちが、
薬膳効果として珍重したものであり、
その木はその昔、
大陸から九州地方に伝来した」
というものである。
これは宮崎県ホームページにも
投稿しているが、
その記事はどこにも見られない。
 
やがて早春となり、
一メートル程度の小さな苗木が
でまわったので、早速二本購入し、
庭に植樹した。
そして秋が来て、赤い実がなったのだが、
収穫量はたったの二百グラム、
これでは一・八リットルしかできないが、
とりあえず造ってみた。
この程度の量ではすぐに無くなってしまったので、
薬膳効果は確認しようがなかった。
次の年も、二百グラムを少し超える
程度の収穫量しかなかった。
まあ、苗木からなので、致しかたないという思いである。
少量の飲用ではあったが、
妻は「何となく効いているようね」と言った。
気を良くした私は、次の秋には農家に赴き、
山茱萸の実を分けていただくように
妻に伝えておいた。
 
その年の秋、妻が思わぬところで、
山茱萸の大木を発見した。
同じ団地内の庭に深紅の実が
たわわに実っていた。
妻と、その木の持主の奥様とは、
ちょっとした「顔見知り」だったので、
夫婦同伴でそのお宅に伺い、
その実をわけていただくようお願いした。
快諾いただけたので、
早速、実の採取にとりかかった。
私は脚立に登り高い位置から、
妻は地面から手の届く低い位置から、
一生懸命採取した結果、
その量は約二キロにのぼった。
おかげ様で、その年は、レシピより
かなり濃い目の「山茱萸酒」を
果実酒用大瓶に三本漬け込むことができた。
 
妻は「山茱萸酒」を常飲することにより、
確実に薬膳効果があらわれた。
効果といっても、症状が完治するわけではなく、
症状が軽くなったように確かに感じられる、
といったほうが正確な表現であろう。
それからは、毎年そのお宅に赴き、
山茱萸の実をわけて戴いていたものである。
 
我が家の山茱萸も、かなり大きくなり、
昨年は自宅の庭の実だけでも間に合う
収穫量が得られた。
ついでに苗木を一本追加して植樹した。
この冬は、大量の花芽がついている。
早春には、多数の花が咲くであろう。
 
山茱萸は早春を告げる黄金色の花で、
「春黄金花(ハルコガネバナ)」とも呼ばれる。
秋には真っ赤な珊瑚のような実がみのり、
「秋珊瑚(アキサンゴ)」とも呼ばれる。
 
春黄金花のそばには妻の笑顔がある
秋珊瑚の向こう側には妻の笑顔がある
 
 
2017年 6月13日  秋月かく

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