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フツウノアリカタ

普通って、意外と難しくて、当たり前じゃなくて

人によって、普通って違っていて

だから、僕の普通と誰かの普通は

どこかは一緒で、どこかは違う


こんなこと考えてる時点で、僕は周りからしたら普通じゃないのかも

でも、これは僕にとっての普通

「お前ってめっちゃ普通だよな!」

って、結構言われるし

僕は、多分、普通の人間


朝7時

アラームの音で無理やり目を覚ます

ご飯を食べる前に歯を軽く磨く

リビングで、白米、味噌汁、焼き鮭、おひたしを朝食として食べる

食べ終わってから、少しスマホをいじる

そして家を出るギリギリになって

「学校遅刻するわよ」

と、母親に急かされ家を出る


学校には、時間ギリギリに行くのが好き

遅刻ではないけど、もう少し早く来いよ、って先生に思われる時間

でも、間に合ってるからいいですよね?って少し先生に対して勝ち誇れる時間

そして、涼しい風が入ってくる窓際のお気に入りの席

席替えしてほしくない、めちゃくちゃ気に入っている席に座る

これが、僕の普通の1日

そして、僕の普通の感性

だけど、今日は少しだけ普通じゃなかった

いや、だいふ普通じゃなかった


「おはようございます」

「はい、〇〇遅刻ね」

今日は、遅刻してしまった

登校中、ちょっとしたトラブルに巻き込まれた

「〇〇、手の腫れはどうした?」

「えっと…硬いものに手をぶつけてしまって」

そう、ちょっとしたトラブル

「そうか、まあ遅刻は遅刻だからな」

なんだかんだ、今まで皆勤賞だったから少し落ち込んでいる

まあ、時間ギリギリに出ているから、いずれこうなるとは思ってたけど

「え〜、突然ですが、転入生がうちのクラスに入ります」

当然のように騒ぎ始める教室

僕も、騒ぎはしないけど、気になる

男子か、女子か

高校生くらいなら、気になって普通だろう

「せんせ〜、男子っすか?女子っすか?」

「ああ、女子だぞ」

当然のように騒ぐ男子たち

″可愛い子だったらいいな〜″

″いや、あえての美人系を期待したい!″

まあ、好みは千差万別だ

「〇〇は、どんな女の子が来てほしい?」

「僕は…優しい子なら…」

「なんだよ〜、そこは可愛い系か美人系かどっちかだろ〜」

このくらいの年頃は、やっぱり顔が判断材料なんだな

まあ、僕も正直、顔の整ってる人の方が好き

でも、やっぱりいい人ぶりたいから

″性格のいい人かな〜″

って言ってしまう

「じゃあ、菅原さん、入ってきて〜」

「初めまして、菅原咲月といいます。今日からよろしくお願いします!」

丁寧な挨拶とお辞儀

いや、それどころではない

クラスの全員が思っただろう

″可愛すぎる″と

「じゃあ、席は1番後ろの席に座ってくれ」

「はい、ありがとうございます」

こういう時、アニメとかなら、僕の隣の席なのだろう

ただ、これはアニメでもないし、僕は主人公でもない

これが、普通だ

これが、現実だ

「1時間目始まるまで、菅原さんに質問攻めでもしといてくれ」

そんなことを言ってしまったら

″ねえ、菅原さんってどこから来たの!?″

″なんでそんなに可愛いの!?″

″LINE交換しよ!″

普通こうなる

うちの担任、何してんの

ちょっとだけ、担任に毒づきたくなった

質問攻めされる菅原さんが可哀想だったので

「1個ずつ順番に聞きなよ。さすがに菅原さんが困るって」

少しだけ、止めに入った

「〇〇は聞きたいことないのかよ〜」

「え、〇〇くん…?」

なぜ、急に菅原さんは僕の名前を呟いたのだろう

そんなことを考えてる間もなく

「君が〇〇くんなんだね!会えてよかった…」

菅原さんに手を握られ、見たことない程キラキラした目で見つめられる

そんなことされたら、普通に惚れてしまう

「〇〇くん、今日は助けてくれてありがとう!」

「〇〇くん、大好きです!」


いつものように家を出て、通学路を歩く

すると、いつもは聞こえない、野太い男性の声と高い女性の声が聞こえた

「なあ、お兄ちゃんと遊ぼうよ」

「今から学校なので失礼します」

そっと覗くと、チャラチャラした大学生が制服を着た女の子をナンパしている

「学校なんてサボって楽しいことしようぜ?」

「いや…離してください!」

「抵抗しないで、ほらおいで?」

これは、警察に通報すればいいのかな

でも、警察来る前に連れ去られるよな

色々考えてたけど、気づいたら

「あれ…」

僕は、女の子の手を掴んでいた男を殴って吹き飛ばしていた

「いって…何すんだコラ!」

「俺の仲間を飛ばすとは、いい度胸してんな?」

飛ばされてない男が向かって来たけど

僕は、軽く投げ飛ばした

でも普通に考えて、柔道習っている僕

相手、体格いいだけで隙だらけ

僕には″投げ飛ばしてください″って懇願しにきてるように思えた

「くそっ…諦めるぞ」

男2人は帰っていった

「あ…あの…ありがとうございます」

「いえ、怪我はないですか?」

「あ、あなたこそ…大丈夫ですか?」

″はい、大丈夫です″と言いたかったけど

「あ…手が腫れてる…」

久々に何かを殴ったから、手が慣れてなかったのかな

それとも、男の腹筋が硬すぎたのかな

「まあ、どっかで冷やせば大丈夫です」

「そ、そうですか…。って、遅刻しちゃう!」

僕は悟った

今から全力ダッシュしても、遅刻確定だと

人は、遅刻するのが確定すると、逆に落ち着いてしまう

だから、僕はゆっくり歩いて向かった


「〇〇くんがいなかったら…私は今頃…」

「あ、あの時の女の子だったんだ…」

でも、待てよ

なんで、〇〇という名前を既に知っている?

「あ、生徒手帳、戦ってる時に落としてたから」

ああ、拾ってくれてたのか

「あの時の〇〇くん、本当にかっこよかった」

「いや、普通でしょ」

「普通なんかじゃないよ!あんなことできる人、いないよ…」

「…え、なんの話?」

まあ、僕と菅原さん以外はぽかん、だろうな

「〇〇くん放課後、ちょっとだけいい?」

「うん、いいけど」

ん、僕″好き″って言われた?


そして、色々あって放課後

クラスのみんなは気をつかって、教室は2人だけの空間に

「あの…さっきも伝えたんだけど…〇〇くんが好きです」

「その…好き、って、まだ会って1日だよ?」

「関係ないよ、好きは時間じゃないから」

そんな考え、持ったことなかったな

好きは、長い時間かけて育つのが普通だと思ってた

「でも、僕のどこを好きになるんですか?好かれる要素ないと思ってるんですが」

「助けるのが、普通だと思ってるところ」

困っている人は助けるのが普通じゃないのか?

助けるって、普通じゃないことなのか?

「その、″助けるって当たり前じゃない?″って顔、本当に好き」

「ごめん、本当になんで好きになってくれたのか分からなくて…」

「助けるって普通じゃないこと、私は痛いほど知ってるから…」

涙が、菅原さんの頬を伝っていた

辛い過去でもあるのだろうか

1人で抱えてきたのだろうか

「もし、菅原さんが楽になるなら、僕に話してください」

「やっぱり優しいね、ありがとう」


菅原さんは何度もいじめの被害に遭っていた

トイレなど人気の少ないところでのいじめが多かった

だけど、明らかにみんなが気づくようないじめもあった

靴を隠され、机に落書きされ、根も葉もない噂を流され

みんな見てるはずなのに、誰も助けてくれなかった

気づいてるはずなのに、手を差し伸べてくれなかった

次の標的が自分になることが怖かったから動けなかったのだろうけど

クラスのみんなも、先生だって見て見ぬふりをしていた

だけど、お母さんが菅原さんの体の傷を見ていじめに気づき、転校することになった

「で、今この高校にいるの。いやぁ、ようやく解放されたよ。」

菅原さんの取り繕ったような笑顔が嫌だ

そんな笑顔を見ていると辛い

泣きたい時は泣いてほしい

「菅原さん…僕の胸使いますか?」

「…借りていい?」

菅原さんは弱々しく、僕の胸に飛び込んできた

「大丈夫です、僕のクラス、最高なやつしか居ないんで」

「そっか…楽しみだな」

こういう時、抱きしめてあげるべきなのか

そっとしてあげるの方がいいのか

「ねえ…ギュッてして?」

僕の胸の中から上目遣いで見つめられ、さすがに断れなかった

「菅原さん…自分が可愛いこと分かってやってます?」

「え…?」

「いや…なんでもないです」

これはナチュラルなのか

だとしたら、ずるいな


人を守るなんて、普通だと思ってた

でも、普通の在り方って、人それぞれ

だから、普通をめぐって争ったりぶつかったりする

だけど同時に、誰かの命を守れたり、人を幸せにできたりする

だから僕は、このままいようと思う

普通でいようと思う

「〇〇、くまさんだぞ〜」

「は?」

「ちょっ、は?って何よ〜!」

「いや、は?超可愛いんだけど、って」

「な…なんだよもう〜!」

この笑顔を守るために

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