ひとりじめ
″ねえ、私だけじゃだめなの?″
夜、家の近くの公園。
「俺と、付き合ってほしい」
「…待ってた、その言葉」
俺に初めてできた彼女。
贔屓目なしにみても、天使のように可愛い。
俺が、こんな子と付き合っていいのか、と告白したくせに思ってしまう。
しかし、彼女の桜も、俺のことが好きだったらしい。
両想いが実り、彼氏彼女の関係で日々を楽しく過ごしている。
「ねえ、今日〇〇の家行っていい?」
「まあ、いいけど。急にどうした?」
「今日はなんか、〇〇に甘えたいの」
「なにそれ…可愛すぎるって」
桜のずるくて可愛いお願いを断る理由はどこにもなかった。
桜は3限まで、俺は4限まであったので、桜には図書室で待ってもらった。
桜と家でイチャイチャできると考えると、教授の話など、1ミリも入ってこない。
俺の頭の中は、桜で満たされていた。
「〇〇くん、話聞いてなかったでしょ笑」
「あれ、バレてた?」
同じ講義を取っている、ゼミが一緒の美空と話しながら図書室へ向かう。
「そういえばさ、〇〇くんの彼女ってどんな子?」
「ん〜、端的に言うと、天使かな」
「なにそれ笑」
「まあ、それくらい可愛いってこと」
「え〜、美空よりも?」
言い忘れていた。
美空はいわゆるあざと女子だ。
普通、彼女持ち相手に、顎に手をあてて上目遣いなどしないだろう。
「まあ、美空は美空でかわいいよ。だけど、桜はそれ以上だから」
「でも、美空のこと可愛いとは思ってるんだ」
「まあな、あ、桜!」
「あ、〇〇…って、隣の女は?」
女の子、ではなく女、と呼んだのが気になったが、とりあえず無視した。
「ああ、俺とゼミが…」
「〇〇くんの彼女の、美空ですっ!」
美空は突然、俺の腕に抱きつき、彼女アピールをしてきた。
俺の彼女相手に、正気か?アホなのか?と美空の頭が心配になった。
「美空、何言ってんの?」
「え…〇〇、嘘だよね?」
「当たり前だろ、こいつはゼミが一緒で、さっきの講義も同じだっただけ」
「えっ…結局私とは体だけの関係だったのね…ぐすんっ」
「美空、頭いかれたんか?事実無根なこと言うな」
「むぅ…そんなに否定しなくてもいいじゃん…」
「否定もなにも、それが事実だろ」
「さっき、美空のこと可愛いって言ってくれたくせに…」
「〇〇…それ本当?」
「まあ、それは言ったけど」
「そっか…〇〇、帰ろ?」
「え、お、おう」
急に表情が暗くなった桜と手を繋ぎ、図書室を後にする。
「桜…体調悪いか?」
「…なんで?」
「いや、さっきよりも顔色悪かったから…」
「〇〇、家着いたら話ある」
「お、おう…」
さっきの美空のノリについてだろうか。
ただ、あれは美空に非があるように感じるが。
まあ、とりあえず桜の意見を聞こう。
「俺、飲み物持ってくるから適当に座ってていいよ」
「その前に話がしたい」
「あ、はい」
桜のいつもより低い声に気圧され、テーブルを挟んで桜と向き合う。
「〇〇の彼女は誰?」
「え、桜だよ?」
「美空って女は、誰?」
「ゼミ一緒で仲良くしてる人、かな」
「…私だけじゃダメなの?」
「え…?」
光が消えた桜の瞳は、俺を見つめる。
「私だけじゃ、満足できないの?他の女と話してる方が楽しいの?」
「いや、桜が1番好きだよ?美空とはただの友達だし…」
「それでも他の女と関わってるじゃん…」
「それは交友関係も必要だし…」
「〇〇は…私だけじゃだめなの?」
「桜のことは好きだけど、他の…んっ」
俺の言い訳を遮るように、桜は唇を重ねてきた。
言い訳はいらないから、愛をくれ、と言わんばかりに激しく貪るように。
「はぁ…桜、急にどうしたんだよ」
「私…苦しいの…。私は〇〇のことがこんなにも好きなのに…」
「俺も桜のこと好きだよ?」
「でも…〇〇のその気持ちは桜だけじゃない…。他の女にも向いてるでしょ?」
「いや、美空には特別な感情はないよ?」
「私…〇〇が他の女と仲良くしてるだけで嫌なの…」
「それは…」
「ねぇ…桜って重い女かな…?」
「〇〇、桜に幻滅してな…んっ」
今度は俺が桜の言葉を遮る。
桜の辛い顔が見たくなかった。
俺のせいで悲しませているのが嫌だった。
「俺には、桜しかいないから」
「なら…もっとキスして…!抱いて…!桜の全てを愛して…!」
桜の愛に飢えた叫びは、俺の中の桜に対する愛の壺を割った。
了承などないまま、俺は桜を床に押し倒し、所望された通り、桜の全てを愛した。
蕩けた桜の表情、甘い声、柔らかい肌。
桜の全てが、愛しくて、俺だけのものにしたかった。
いや、既に俺だけのものだ。
誰にも渡したくない。
桜は、俺だけの桜だ。
「〇〇…桜、幸せだよ」
「俺も、桜をこんなにも愛せて幸せ」
「ねぇ…ひとつになろ?」
「覚悟はできてる?」
「うん…〇〇と付き合った時からできてる」
「なら、手加減はしないからな?」
「うん…〇〇の愛、全部ちょうだい」
桜の甘い声が聞きたい。
桜の乱れた姿を独り占めしたい。
桜への愛を、全部ぶつけたい。
気づいた時には、窓から朝日が差し込んでいた。
「んっ…体いてぇ…」
「おはよ、〇〇」
「桜、おはよ」
「昨日は、ありがとう」
「いや、俺の方こそありがとう。桜のことがこんなにも好きなんだってわかった」
「〇〇、体痛いよね?朝ごはん、桜が作ってくるね」
「いや…桜だって疲れてるだろ?」
「そうだけど…〇〇に桜の料理食べてほしかったし」
「なら…お言葉に甘えようかな?」
「うん、待っててね!」
桜の気遣いと彼女らしい健気な姿に、さらに好きの気持ちが増した。
彼女が料理してるところにバックハグ、なんてカップルらしいことがしたかった。
ただ、あまりにも体が痛すぎて、ソファから1歩も動けなかった。
自分の体の弱さが憎い。
桜を愛してあげるには、体も鍛えないと。
「あ、〇〇、スマホいじっちゃダメ!」
「え?」
「他の女と連絡取るかもしれないから」
「じゃあ、母親以外の連絡先、全部消すね」
「SNSのフォローとかも外してね?」
「りょーかい」
桜に言われた通り、SNSでの女の子との繋がりを全て消した。
もちろん、美空の連絡先ももれなく削除した。
「おまたせ、〇〇への愛をたくさん込めて作ったよ」
「ありがとう、桜」
「私が食べさせてあげるね!あ〜ん」
「あ〜ん、うん、美味しいし、桜の愛がすごく伝わってくる」
「んふふ、桜のこと、もっと好きになった?」
「うん、俺には桜しかいないよ?」
俺は、これからも桜にハマっていくのだろう。
この沼からは抜け出せない。
だけど、それでいいと思える。
この世界に、桜さえれば、それでいい。
いや、この世界には桜と俺しかいない。
俺の世界に、桜さえいれば、それでいい。
″次、いつシよっか″
″あれ、今忙しいの?″
″ねえ、何か返信してよ″
″なんで大学でも無視するの?″
″ねぇ、私のこと無視しないでよ″
″美空とは、本当に体だけの関係だったの?″
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