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美談であれ、という美徳

ひとつ前の記事で、学生時代に芸術や娯楽を制限されて育った話をした。そんな中、唯一まともに触れた娯楽はFFⅩだった。恐らく小学校5年か6年だったか、学校にも長らく行かず、ただ起きてご飯食べてFFXをするだけの時間があった。母親の実家に幽閉されていたのだ。

あの時私の家族に何が起こっていたのか、自分の頭を整理しながら書いていく事にする。
赤裸々に家族のことを書いているから気持ち悪いかも知れないし、FFXのことは書いてないので期待外れかも知れない。

両親の結婚は、はじめから愛のあるものでは無かったようだ。父の再婚で迎え入れられたのが、私の母親。父には子供が3人いた。母は結婚と同時に3児の母になった。そして程なくして、4人目の子供として私が生まれた。

「父とのセックスは苦痛だった。思い出すだけでゾッとする。」
そんな風な話を聞かされたような気がする。
何故好きでもない相手と結婚したんだろうと思ったが、どうも母の狙いはお金だったらしい。裕福な生活を夢見て、医者との結婚を望んだのだった。

母にとって、私の存在は切り札であり精神安定剤だった。
愛のない夫婦を繋ぎ止めておくための血の繋がり。跡継ぎが欲しい父は、私を手放すことは出来ないだろうという打算が母にはあった。そして、地元を離れ友人たちとも疎遠になり新しい環境に飛び込む孤独を慰める役割。
どちらにしろ、私はよく働いたと思う。ハッキリと言語化出来てはいなかったけど、その当時から、母が私に求めたものは見当がついていた気がする。

私が小学校に入った頃から、夫婦仲が目に見えて悪くなっていった。家に帰ると怒鳴り合いをしていることが増えた。玄関を入って左のドアの先、リビングから怒号が聞こえる。喧嘩が終わるまで玄関で静かに宿題をした。

母は次第に、毎日のように怒り、泣き、私にも当たるようになっていった。数字の書き方が美しくないとビンタされ、習字が下手くそだと正座させられ、問題を解けないと「馬鹿。出来損ない。」となじられた。小学3年生頃から、母の様子は少しずつおかしくなっていったようだった。

そんな中、不運な出来事が起こってしまった。私と母に付き纏うストーカーが現れた。
夜の高速のPA、広々とした駐車場に車はほとんどないのに、何故か真横にピッタリと車を停められたこともあった。左右に田んぼしかないまっすぐな道で自転車を漕いでいたら、徐行する車に後ろをつけられた。
家族を信用出来ない母は、誰にも頼らず自力で解決しようとした。

張り詰めた生活で、遂に母は精神のバランスを崩してしまった。家にある電化製品やコンセントを全て分解し、盗聴器がないかを調べ始めた。遂には「ストーカーは父の差し金だ!もう騙されない!」と着の身着のまま家を飛び出した。私は半ば連れ去られるような形で日常生活を失った。

母の実家に向かう車の中は、母の泣き声と怒号とタバコの煙と乱暴な運転で、ひどい吐き気がした。気分が悪くて車を止めて欲しかったけど、言い出せなかった。

母の実家での生活は退屈だった。いつストーカーに連れ去られるか分からないからと外出禁止だった。昼間は誰も家にいなかったからFFXをやっていた。馬鹿で出来損ないの私にはストーリーの意味が理解できずつまらなかった。夕方からは学校帰りのいとこが話し相手だった。
そういう生活が半年近く続いた。

母は何とか調子を持ち直し、父の元に戻った。この時に離婚すれば良かったのに、と思う。この後8年近くも苦しい結婚生活をおくることになった。
母から言わせてみればこういう事らしい。

「あなたの為にここまで我慢したのに、無神経なこと言わないで」

あなたの人生狂わせたのは私ですか。
ごめんなさい。許してください。嫌わないで。
あなたがいなければ、私はひとりぼっち。
でも産んだのはあなたなんですよ。
私は産んでくれなんて頼んでないんだ。

両親の夫婦生活は、唐突に終わりを迎えることになる。母の急死だ。急性心不全で、病院に運ばれた時にはもう手遅れだった。
「夢ちゃんが20歳になるからやっと離婚できる」と言っていた、離婚協議中の出来事だった。

その当時の記憶はかなり混乱している。実際の記憶なのか、何度も繰り返し見る悪夢なのか、境界線が曖昧だ。よく覚えているのは、葬式中の出来事だ。

母の葬式で喪主を務めた父は、泣き崩れた。両親の間に愛情なんてないと思って過ごした19年間がぐらついた。父は、本当は母を愛していたのだろうか。
もしかして、私が生まれた理由は、打算が全てじゃなかったんじゃないか?ストーカーの差し金は父ではなかったんじゃないか?

その疑問たちは、答え合わせせずに希望的観測のまま心の中にしまっている。そういうのは、知らない方が父のため、母のため、何より今の自分のためだ。今更傷ついても仕方がない。過ぎたことは美談にしておくのが1番いいのだ。大人になるって、つまりはこういうことなんだ。

母の実家でプレイしたFFXは、全く理解できなかった。何故、主人公ティーダは泣くのか?怒るのか?親子愛も、兄弟愛も、恋愛も、まったくの未経験だった。
なのに、母が死んでからプレイしたそれは全く違う作品に見えた。繰り返される愛情の描写が私の心を幾度となく突き刺した。

しかし、私の視座はFFⅫ寄りだ。

楽になる方を選べばいい。--どうせ戻らない


両親は情報操作した完璧な教育を施したつもりかも知れないけど、友人の影響でしっかりBLにハマったド級の腐女子JKだったなんて思いもよらないだろうな。
父よ、母よ、ごめんなさい。2人の心の中では、バカで世間知らずな私でいさせてください。これもまた美徳だよね。うん。そうだよね。

共感してくださったなら。