第0014撃「メタ氏、教会のキャンプに参加する!!」の巻

1989年8月に入り一週間ほどが過ぎました。
小生は1年前の小学6年生の頃から、
近所のプロテスタントの日本基督教団の教会へ毎週通っていました。
もともと通いはじめた動機は、
西洋のキリスト教文化や聖書というぶ厚い聖典の存在に、
心惹かれたからでした。
仏教のお経も験力がありそうで魅力を感じてましたが、
泡嶋教会が自宅と駅との途中にあるということもあり、
何度も通ううちに馴染んできたのでした。
しかし毎週の礼拝で礼拝堂の長椅子にちょこんと座って、
安西牧師(仮名)の説教に耳を澄ませていても、
心はうわの空でただボーっと時間をやり過ごしていたのでした。

夏休みが始まったころ安西牧師から、
「今年の夏は、うちでのキャンプと、
大阪府下の幾つかの教会の合同キャンプの2つがあるよ」
と教えてもらっていて、
申込用紙に小生と母のサイン、そして会費は、
すぐに提出しました。

泡嶋教会(仮名)でのキャンプが間近に迫ったある日、
補習だったかで中学へ登校することがありました。
マンションから学校への淀川沿いの通学路で、
同じ学年の櫛原(仮名)と一緒になったりしました。
櫛原は陽気なヤツだったので小生はすぐに打ち解けてしまいました。
小生は思いきって教会のキャンプに櫛原を誘うことにしたのです。
安西牧師に櫛原を紹介し、
今からでもキャンプに申し込めないか訊きました。
すると、合同キャンプのほうは申し込みは締め切っているけど、
泡嶋教会単独のほうはOKが出ました。

泡嶋教会でのキャンプの行き先は、
福井県の小浜という海と聞いていたので、
小生はマンションの地下ショッピングセンター内にある、
ホームセンターのナワコで「銛(もり)」を購入しました。
銛は先端が三叉で尖っており、
反対側にはぶっといゴムの輪が付いていて、
そこに差しこんだ手首でグッとゴムを引っ張った状態で、
銛の棒の部分を掴んで保持しておき、
近づいてきた魚に狙いをさだめて、
棒を離すとゴムの反発で一瞬で獲物に刺さるというシロモノです。

小生と櫛原は安西牧師と年配の教会員の方たちに連れられ、
小浜の旅館に泊まりました。
いや、旅館というよりは昭和中期に建てられた、
村民の個人宅を開放しているような感じです。
われわれ一行には小生より年上の高校生の高崎君(仮名)と
、そのご両親も参加されてました。
魚を追って海底の砂に向けて銛を突きながら、
櫛原や高崎君たちと一日泳ぎました。

「カレーが出来たよ!」
高崎君のお母さんたちが作ったカレーライスです。
大きな皿に大盛りでよそってくれたカレーを、
櫛原も幸せそうに口に運んでました。
しかし小生は肉だけが異物のような感じがして、
噛むことが気持ちわるく皿に残しました。
「夢野!なんで肉食べへんの!?」と高崎君が驚いた声をあげました。

一泊二日を終えて小生たちは電車で帰っていました。
車中で揺られるなか安西牧師が深刻そうな顔をして、
そっと近づいてきて小生に小声で訊きました。
「きみ、肉が食べられないのは何か事情があるの?話してみろよ」
小生は少々気まずい顔をして、
「ぼくの家では安物の肉を食べないもんで……」と答えました。
「ブハハッ!バカヤロウ!贅沢言ってやがんの!」
安西牧師は爆笑しました。

それから3日ほどして、
今度は中高生合同キャンプです。
現地集合でした。
泡嶋教会からは安西牧師と枝元先生が引率者です。
片道3時間ほどかかる山奥の青少年センターのようなところでした。

到着すると広いホールに通されました。
12人くらいの男女中高生が集まっています。
一つ年上から五つ年上の者まで、
全員がものすごく年上に感じます。
小生は引っ込み思案のため、
皆んなの輪のなかに入れないでいました。

その後、2段式ベッドが3つ置いてある男女別々の部屋へ、
各自バッグを持って移りました。
丸太の幹を半分覗かせて積み重なっている壁からは、
そとの深い森の息吹の薫りが入ってきます。
「きみもこっち来いよ」
中高生の先輩から声をかけられて、
許可証でももらえたかのように、
小生は彼らのところへ近寄りました。

「ハナシしにきた〜」
女子の先輩たちが部屋に入ってきました。
そこで小生に強いインパクトを残した会話があります。
ある女子の先輩が男子の先輩に、
「ポッキーとかすることあるの?」と訊いたことでした。

夕食はバーベキューをするための広場で、
皆んなで野菜を洗ったりお米を研いだりして、
カレーライスを作って食べました。
そのとき小生は肉をいったいどう処理したのだろうか。

夕食後、山の空をだんだんと藍色が染めてゆく。
何人かの牧師が広場の真ん中に、
せっせと木を積んでゆきました。
男子高校生の一人が任されて、
積まれた木のところにまるめて置いてある新聞紙に点火します。
しばらくして新聞紙の火が木に移り、
めらめらと音を立てて燃えだしました。
胎児のようだった火が大きな焔となって、
幾つものオレンジ色の先端を空に向けています。
燃え盛る焔は人のかたちになって、
まるでキリストが立っている姿のようにも観えました。

その日の晩、2段式ベッドで眠れないでいる男子の先輩が、
「そういえば、あの子ポッキーとか言ってたな」とポツリとつぶやきました。
まわりのベッドの男子たちはなおさら寝つけなくなったのでした。

爆風スランプ「リゾラバ」
Spotifyで聴く https://open.spotify.com/track/3ZqQ0HoUdJ7feGdEx9V6lW?si=2-2-cnckR1Gkg3c0TO3M2w
YouTubeで聴くhttps://youtu.be/VeTi1JP-cx8

続く。果てしなく続く……。

ここから先は

0字

昭和50年代に大阪市に生まれた男が描く、 すぐに読めるライトエッセイ(軽い読み物)を お楽しみいただけると幸いです。 平成時代の穏やかな…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?