【短編小説】ぼくはヒーロ―⑧
ぼくはヒーロ―⑦の続きです
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彼の軽くなった足取りを少し、ビルの屋上から眺める。
・・・あれなら、もう大丈夫そうだ。
僕は携帯を取り出し、ある場所へ電話をかけた。
「あ、お疲れ。どう?大丈夫そうだった? 」
電話の相手は、ヒーロー情報管轄部の男だ。
「大丈夫でした。彼がもう危険な状態になることはないでしょう」
「ならよかった・・・。可哀そうだと思うけど、どんな形であれ危険分子を無視する訳にはいかないからね・・・」
「ちょっと無理矢理な設定でしたけど、まあ、なんとかなりました。彼が純粋な人間で本当によかった。ゴシップ記事書くくらいだからどんな捻くれた奴かと、最初はひやひやしましたよ」
「へえー。ああいう記事書くやつほど、意外と純粋なのかな?まあ、どうでもいいや。とりあえず終わったならこっち戻ってきてよ。今、連絡したら、あの親御さんが君に直接会ってお礼がしたいってさ」
「はいはい、あと2時間ぐらいしたら戻りますよ。どうせ相手が来るのはもう少し時間たってからだろうし、万が一さきに来たら応接室通しておいてください」
「了解。なんかお礼にもらえるかもね、それは君のポケットマネーでいいよ!!おつかれさん!!」
そう言って、彼は電話を切った。
「はあ・・・だるいな」
僕は見晴らしのいいビルの屋上にある柵に肘をついた。
全く、本当に奴らは僕らのことを何も考えていない。
僕の今日の仕事は、害獣を倒すのではなく
『害獣になる可能性がある人物』を救済することだった。
『害獣』がどのように発生するか、世間では不明とされているが実はこちらでは何年も前に解明されている。
『害獣』は人間が何かに対し強い憎しみや怒りを持ち、それが限界まで来た時に変身して現れる怪物だった。
『害獣』になった人間は己を忘れ、ただひたすらに同じ人間を倒そうとする。だからヒーロー部隊は特殊な武器を使い、害獣となった人間を倒す。
倒された害獣は意識を失い、一定時間たつと人間の姿へ戻る。人間に戻った時には『害獣』になっていた時の記憶と、なる直前の記憶を失っているので、害獣に襲われ意識を失っていた所を保護した等の適当な嘘をつき解放する。僕らの仕事はこの繰り返しだった。
しかし、近年ストレス社会のせいか『害獣』になってしまう人が増え、手に負えなくなってきたのでヒーロー機械発明部が害獣になりそうな人物をサーチできる装置を発明した。
それに伴い、新しく僕らに追加で任務が与えられた。
――害獣になりそうな人物に接近して、なることを防げ
完全に僕らに丸投げするお偉いさんたちにあきれつつも、僕らはやるしかなかった。お偉いさんたちもそれで100%防げるなんて思っていない。ちょっとでも発生率を下げられたらいいなぐらいだ。
それで浮いた予算がどう使われるのか考えるとますますムカつくが、戦闘回数が減るのはこちらもありがたい事なので、極力任務を成功させたい気持ちはある。
そして・・・今日はあのゴシップ記者に会った。最初見た時の彼は非常に危ない状態だった。自覚はなさそうだが、いつ害獣になってもおかしくないところまできていた。
しかし、なんとかあそこまで状態を持っていくことが出来たのは僕の実力があってこそだろう。たとえそれが事実とことなる話であっても・・・。
彼をあの状態まで追い詰めた金髪ばか・・・いやヒーローレッドは、確かに足を怪我して数年前に引退した。しかし引退金がもらえなかったというのは全くの嘘だ。
引退金がもらえない場合が存在するのは嘘じゃない。しかし・・・あいつの親が強かった。なんせこの国の副総理大臣なのだから。
スーツの機能も使いこなせず、対して活躍もせずな彼だったが、引退金は沢山もらっている。なんせ、全く使い物にならないくせに、問題行動ばっかり起こすものだから、足の怪我自体は全然たいしたことなかったにも関わらず、上のお偉いさん方が今がチャンスとばかりに『あなたほどの身分の方が、これ以上任務に携わるのは危険だ』と言いくるめ、辞めてもらったのだ。
副総理も、あまりの息子の出来なさをカバーできなくなってきた所だったので双方都合の良い状態で引退してもらったのだ。(一応名目上は幼い子をかばった時に出来た傷が悪化したための引退ということになり、多額の金額が支払われている)
なので正直な話、あの金髪馬鹿、いやヒーロレッドが反省やら後悔をしているのかといえば・・・というのが現実だった。まあ、実際彼と話した訳ではないからわからないけど、あくまで僕個人の印象だがあのバカに反省と後悔の文字はないと思う。
そして数年後のいま、あのゴシップ記者が『害獣危険因子』対象にのったのをどこかで耳に入れた副総理から、息子の事が原因でああなった事をほかの奴らにバレる前になんとかしてくれと、一部の情報機関を通して僕に依頼があったのだった。
どうやら可愛い息子と世間体のために犠牲にしたあの人間を、害獣発生理由が判明した時から目をつけていたらしい。そして中でもこの任務の成功率が高い僕に話をまわしてきたのだった。
『害獣危険因子』から彼が外されれば、自動的に彼の情報も消える。誰かが彼のことを詮索する危険性が低くなるのだ。
正直、副総理ならちょっとばかしこのことがバレそうになっても防ぐことは出来そうだが、国民が現在、政府とヒーローの癒着に薄々気付いているいま下手な動きはできなかったのだろう。
・・・この後、僕は副総理から直々にお礼を受け、この任務は終了する。
僕は・・・なんのためにこの役目をしているのか時々わからなくなり、なんともいえない虚しさに襲われる。
それでも、任務は遂行しなければならない。
それがこの国の平和を、誰かの平和を守ることに繋がる限り
だってぼくは・・・・・。
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以上で、完結とさせていただきます。
短編・・・文字数的にはギリギリ短編なはず。
最後まで読んでいただいた方、ありがとうございました!!
どんな作品でもいいから、最後まで書くことが大切だと思っております。ちょこちょこ手直しするかもしれませんが、ひとまずここでこの短編は終わりにしたいと思います。
明日から・・・何を書こうかな。
また頭に話が浮かんでいるので一週間後くらいに小説書いてるかもです。
星空夢歩くでした。
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