見出し画像

2017年 R&B・ベスト10

2017年のR&Bのベストを10枚選び、ディスクレビューを書きました。結果的に8枚がデビュー作もしくはソロ初作品となり、フレッシュなラインナップになったと思います。カナダやイギリスなど、US以外の作品が多くなりました。SZA『Ctrl』は10枚に収まらず、やむなく外しました。

1.dvsn『Morning After』

ドレイクのヒット曲をプロデュースしてきたナインティーン85とシンガーのダニエル・デイリーによるカナダ出身のデュオの二作目。前作でも見られたマックスウェルのような美しいファルセットによる耽美的な世界観だけでなく、情感を滲ませる歌い込みや胸を焦がすシャウトなど情熱的な表現も魅力的だ。楽器の音色選びや巧みな音の配置によって作り上げられた奥行きのある音像は、繊細なストリングスも相まって、映画のワンシーンのように感じられる。最終曲のゴスペル・コーラスも特徴の一つだ。

https://youtu.be/bfYIzTqOW5k

2.Daniel Caesar『Freudian』

カナダ出身のシンガーの一作目。ゴスペルの影響を感じさせ、優しさと穏やかさ、そして落ち着きを湛えた歌声はまっすぐ心に届く。ごくシンプルな伴奏をバックにH.E.R.とデュエットした"Best Part"をはじめとして、カリ・ウチスとの"Get You"やシドとの"Take Me Away"など女性ヴォーカルの客演曲は粒揃い。生演奏主体だがどこかエッジの効いたサウンドは過不足なし。曲間に時折挿入される雑踏の音や喋り声などは回想のイメージを想起させ、歌だけでなく作品全体への拘りが感じられるのも魅力だ。

https://youtu.be/034W8-Td1_g

3.Sevyn Streeter『Girl Disrupted』

フロリダ出身で15年程前にガールズ・グループでキャリアをスタートさせ、クリス・ブラウンなどの作曲やコーラスで活躍してきたシンガーのデビュー作。全編を通してソングライティングの完成度が高く、隙のない歌唱力でメロディの魅力を引き出している。キックとスネアが連打される実験的なビートに度肝を抜かれる"Present Situation"や、オーガスト・アルシーナと相性抜群のデュエットをみせる"Been A Minute"、哀愁漂うギターが印象的な"How Many"など各曲に特徴があり、どの曲も輝いている。

https://youtu.be/Kwp3pVbVrh0

4.Kelela『Take Me Apart』

メリーランドで育ち、LAに移住して活動するシンガーによる初のアルバム。R&Bとエレクトロニック・ミュージックの間を行くサウンドだが、曲中に沢山の要素や展開が盛り込まれ、カテゴライズし難いサウンドに。これまではクールなイメージだったが、官能的な"S.O.S."に見られるように自らの経験を歌詞に率直に表現。実験性と情熱を両立させた"Turn To Dust"をはじめに、アルカが手掛けた三曲が出色の出来だ。"Altadena"で声を交えるジェシカ・チャンブリスの手によるコーラス・アレンジも魅力。

https://youtu.be/l227G1KSWks

5.Brent Faiyaz『Sonder Son』

ボルチモア出身で、LAに移住して活動するシンガーのデビュー作。飾り気なく、率直に歌われるギター弾き語りによるフォーキーなソウルだが、アンビエントR&Bのようにシンセを敷き詰めるのではなく、自身の揺らぎのある歌声を重ね、漂わせることで、神秘的な空気を作り出す点が特徴的だ。ギターやパーカッションといった生楽器の響きを生かしつつ、音を左右に回転させたりといったサイケデリックな意匠を盛り込んだ音像は、要所に挟まれたスキットともに、彼の心象風景を表しているように思える。

https://youtu.be/RCg1iIvwy0E

6.Syd『Fin』

ジ・インターネットのヴォーカルとして活躍するLA出身のシンガーの初ソロ作。気怠い低音にも、声を張り上げることのない繊細な高音にも官能を宿す歌声が何よりも魅力的。ティンバランドのようなスカスカなビートの上で、アリーヤを思わせるハイトーンで感覚の昂りを表す"Know"や、ドラマチックな曲展開で、歌が細く美しいラインを描く"Smile More"、重めのトラップに乗せて、優しく癒すような声を聴かせる"Body"には降参。音選びのセンスや、作品の統一感に美学を感じさせる点もポイント高い。

https://youtu.be/P7kW3Q46UUc

7.Daley『The Spectrum』

UK出身のシンガーの二作目。スロウな曲をじっくり歌い込み、歌にしっかり耳を向かせる表現力がある。少し翳りや暗さがある点はイギリスらしい。ギターにリヴァーヴを効かせた"Temple"はインディーロック的にも聴こえる。ストリングスが夜明け前を想起させる"Introlude"から始まり、アンビエントR&B、ジャズ・ファンク、80年代シンセ・ファンク、60年代ソウル・バラード、UKガラージと多様な音楽性を聴かせるが、どれもクオリティが高く聴き流せない。"Slow Burn"にはキーヨン・ハロルドが参加。

https://youtu.be/dkN_-x3mROs

8.Roy Woods『Say Less』

ドレイク率いるOVOサウンドが送り出したカナダ出身のシンガーのデビュー作。アンビエントR&B、トラップ、80年代シンセ・ファンクなど、トレンドの真ん中を行くサウンドで、全体的に軽やかで心地よい仕上りとなっている。最も多いダンスホール系の曲は単純に流行りに乗った感じではなく、カリブやアフリカを想起させる声や節回しと相まって、独自のものに。癖のある声だがスター性や華やかさを感じさせ、ラップ的にフロウする時にも粘り気で耳を引きつけるなど、歌声が一番の魅力となっている。

https://youtu.be/USXxCw3E980

9.Sidibe『I'm Only Dreaming』

ルイジアナ出身で、LAで活動するシンガーソングライターのデビュー作。プリンスに絶賛された彼女の音楽は、80年代シンセ・ファンクやファンク・ロックなどプリンスの影響を感じさせ、リズムマシンのビートにドリーミーなシンセが重なる幻想的な曲はキングに通じるものがある。透明でシルキーな歌声の質感は絶えず美しく、"Strangers"でのコーラスやフェイクの技巧には完全に打ちのめされる。生演奏を基本としたオーソドックスな演奏だが、丁寧にアレンジされていて、冗長さがないのも魅力だ。

https://youtu.be/UpOdfymMfcE

10.Stokley『Introducing Stokley』

ミント・コンディションのヴォーカリストとして活動するミネソタ出身のシンガーの初ソロ作。瑞々しく伸びやかでエヴァーグリーンな歌声で、アルバム通してフレッシュな印象。ほぼ全楽器を自ら演奏しているが、多用されるスティールパンとパーカッションがアクセントとなり、個性的な曲調に。セルフ・プロデュースの曲が多く、"Way Up"での金属音を使ったビートや、"Forecast"でのヘヴィーなギターなどの独創性を評価したい。ロバート・グラスパーを主役に据えた"Art In Motion"も聴きどころだ。

https://youtu.be/phOiiWL_Ljg