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2017年 エレクトロニック/その他・ベスト5

2017年のベストアルバムは、ジャズ、R&B、ヒップホップというようにジャンル別に書いてきましたが、そこに収まらなかった作品を5枚選び、エレクトロニック/その他という区分けとし、ディスクレビューを書きました。モーゼス・サムニーを入れたかったというのが主な理由です。

1.Moses Sumney『Aromanticism』

カリフォルニア州出身のシンガーソングライターの一作目。ファルセットから低音まで駆使し質感も操るヴォーカルと、幽玄なハーモニーの多重録音コーラス、そして幻想的なギターによって、宗教的とも言える音空間を生み出す。R&Bよりもフォークやインディー・ロックの影響を感じさせるメロディも特徴的で、SSWとしての才能を見せつける。さらに"Don’t Bother Calling"での弦楽隊の立体的な動きや、"Quarrel"での生演奏の使い方などサウンド・クリエイターとしても突出。非の打ち所のない傑作だ。

https://youtu.be/IN2YrKRzRjw

2.Calvin Harris『Funk Wav Bounces Vol.1』

スコットランド出身のDJ/プロデューサーの五作目。EDMからブギーへ全面的にシフト。殆どの楽器を自ら演奏したというトラックは革新性とは無縁だが、地に足の着いたグルーヴが心地良い。多くの曲でシンガーとMCを組み合わせているが、コンパクトでポップに纏める手腕が見事。ケイティ・ペリーの陽性の歌声が夏の到来を感じさせる"Feels"をはじめに、アリアナ・グランデやケラーニなどの魅力を的確に引き出している。ニッキー・ミナージュが歌とラップの二役をこなす"Skrt On Me"も珠玉の出来。

https://youtu.be/ozv4q2ov3Mk

3.Arca『Arca』

ベネズエラ出身のDJ/電子音楽作家の五作目。オペラのような歌唱法から、絞り出すファルセット、淡々とした語りまで、切実な歌い方で自らの体験を語っていく。シンセとドラムが混ざった音の壁のような特徴的なサウンドも見られるが、今作では地鳴りや金属音、鞭打ち、サイレンなど、心情や出来事を想起させる音がドラマ性を強調。闇から光を求めるような"Sin Rumbo"や教会音楽を思わせる"Coraje"は強烈な印象を残す。"Desafío"でのケレラとのコラボ作に通じるダークなビートにも触れておきたい。

https://youtu.be/PwXOgzmTbVU

4.Ibeyi『Ash』

フランス出身で、キューバとベネズエラにルーツを持つ双子の姉妹デュオの二作目。簡素な伴奏でコーラスワークを聴かせる"Waves"をはじめに、二人の声が溶け合ったハーモニーが魅力だ。"No Man Is Big Enough For My Arms"ではそのハーモニーに、ソロの歌唱、さらにはクワイヤまで加わり、複数の声が重なる豊かな世界が現出。パーカッションと打ち込みを組み合わせたビートはシンプルで、ハーモニーに重心を置いている。"Val"の民族音楽的な旋律にはヨルバの伝統文化への興味を掻き立てられる。

https://youtu.be/erI1UfVUGTk

5.Lorde『Melodrama』

ニュージーランド出身のシンガーソングライターの二作目。卓抜なソングライティングと、ハウスやブレイクビーツ、トラップなど多様なエレクトロニック・ミュージックの意匠を用いたアレンジが一体となって独自の世界を構築。感情を押し殺した低めの声から、無邪気な声、秘密めいた囁き、気持ちの昂りを感じさせる高音まで使い分ける、歌の演劇的な表現力も見事。全曲の完成度が高く、期待や希望、生々しい感情や神秘性、懐かしさや穏やかさなど、各曲が固有のモードを持っているところも魅力だ。

https://youtu.be/J0DjcsK_-HY