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2018年 その他・ベスト10

2018年のその他のベストを10枚選び、ディスクレビューを書きました。ジャズ 、R&B、ヒップホップの各ベストに収まらなかった作品です。カナダ、デンマーク、日本、コンゴ、フランス、南アフリカ、イギリス、アルゼンチン、オランダ、スペインと、様々な国の作家が揃いました。

1. Rhye『Blood』

カナダ出身のシンガー、マイク・ミロシュと、デンマーク出身のプロデューサー、ロビン・ハンニバルによるデュオ、ライの第二作。素朴な音色のごくシンプルなドラムと、ミニマルなベース、慎ましいキーボードの演奏に、官能的なヴォーカルと弦楽が加わる。歌とストリングスが立体的にせり上がり、ゆったりと波が寄せては返す”Waste”や、声のフェイドインとともに快感が押し寄せる”Song For You“は鳥肌ものだ。ピアノの低音の震えが生々しい”Please”や、歪んだギターが鳴らされる”Count To Five”には新たな試みが見て取れる。

 
2. RIRI『RIRI』

群馬県出身のシンガー、RIRIのデビュー作。閃光のようなシンセ・リフから始まり、落ち着いたトーンのヴァース、プリコーラスを挟んで、コーラスで一挙に飛翔する”Rush”があまりにも鮮烈。それ以降のコーラスで聴ける、天に突き抜けるようなフェイクが圧巻だ。壮大なメロディを堂々と歌い上げる”Next to You”や、力強い歌声をビートに乗せて思いを疾走させる”Crush on You”も珠玉の出来。英語を突然日本語に切り替える詩作も効果的だ。USのプロデューサーが手掛けるフューチャー・ベース中心のトラックも抜群の完成度。

 
3. CREAM『Sounds Good』

大阪府出身のラッパー/プロデューサーのStaxx Tと、香港出身のシンガー/コンポーザーのMinamiによるユニット、CREAMの第五作。まずトラップやダンスホールなどをミックスしたサウンドと、EDMのビルドアップ、ドロップを駆使した曲構成の完成度の高さに圧倒される。ギターのみの伴奏の曲もあり、K-POP並に幅広い。軽快なラップによるプレイボーイの感覚を歌うリリックと、甘く切ないヴォーカルによる飾り立てない歌詞が新鮮で、コーラスで男女交互に歌う曲もあり、ポップスとしての魅力も十二分に備えている。

 
4. Baloji『137 Avenue Kaniama』

コンゴ出身でベルギーで活動するラッパー、バロジの第四作。バンドの生演奏にリズムマシンのビートを加えたトラックに乗せて、時折ポエトリー・リーディングを交えて、語りかけるようにフランス語でラップしていく。ギターやカリンバの音色やコール&レスポンスが印象的なアフリカの様々な地域の音楽がトラップやハウスと融合。アフリカ音楽とクラーベのリズムとアラブ系の歌唱が交わる“Peau de Chagrin - Bleu de nuit“は興味深い。郷愁を誘うピアノの旋律の上で、エモーショナルにラップする“Ciel d'encre”が白眉。

5. Edgar Sekloka『Chaplinesques』

カメルーンとベナン出身の両親の下にフランスで生まれた、小説家でもあるラッパー、エドガー・セクロカの第一作。パーカッションとギターのみの伴奏だが、響きが豊かで、少ない音数で様々な曲調を表現し、ヒップホップとしても成立している。低めの音程でキレのあるラップと、ブルース感のある太い喉のヴォーカルは声そのものが魅力的。各曲に招いたシンガーやラッパーはブルキナファソやグアドループ、カナダなど様々なルーツを持ち、音楽的にもフランスとアフリカとカリブが混ざり合っている。

6. Sho Madjozi『Limpopo Champions League』

南アフリカ出身のラッパー、Sho Madjoziのデビュー作。キックの裏打ちとタムロールのアクセント、シンセの持続音が特徴的なゴムのビートに乗る、力強く不遜なラップの節回しやフレーズが癖になる。ラップの抑揚で表情豊かに語るレゲエ”Wa Penga Na?”や、EDMのビルドアップ~ドロップを導入したトロピカル・ハウス”Don’t Tell Me What To Do”、高速四つ打ちのシャンガーン・エレクトロ”Kona”、パーカッションの生演奏やコール&レスポンスを生かした”I Mean That”、R&Bバラード”Going Down”など、幅広い曲調とヴォーカル表現で最後まで飽きさせない。

7. Jamie Isaac『(04:30) Idler』

ロンドン出身のシンガー/プロデューサー、ジェイミー・アイザックの第二作。ドラム、ピアノ、サックスなどの生楽器を使ったビートはオーソドックスだが、時折ドラム・パターンを組み替えるなど一工夫あって飽きさせない。ヴォーカルは繊細で儚い印象だが、エモーショナルに熱を帯びることも。声がサウンドに溶ける耽美的な”Counts for Something”から、ファルセットに深夜の空気を封じ込める”Melt”、朝方の倦怠に甘いメロディを乗せた”Drifted / Rope”と続いていく終盤は粒ぞろいで、不安と希望の狭間を行く最終曲”Delight”がベスト。

8. Lali『Brava』

アルゼンチン出身で女優でもあるシンガー・ソングライター、ラリの第三作。レゲトン/ムーンバートンを中心に、ブルーノ・マーズ”Finesse”と同じフィルを使いつつ別の曲調に仕上げた”OMG!”や、トラップとポップを融合した”Tu Novia”、ラテンの伝統を感じる情熱的なバラード”Besarte Mucho”など、多様なラテン・ポップが聴ける。アレハンドル・チャロとともに開放的な歌声を聴かせる”100 Grados”や、パブロ・ヴィターを起用した青春映画をイメージさせる”Una Na”、レイクをフィーチャーしたミディアム”Mi Última Canción”など王道のポップスが胸に響く。

9. Yellow Claw『New Blood』

オランダ出身のプロデューサー・デュオ、イエロー・クロウの第三作。女性ヴォーカルが切ない”Lost On You”で幕を開け、胸を焦がすような抒情的な”Summertime”、天に昇る勢いのビルドアップから開放的なドロップへ展開する”Both Of Us”と、徐々にテンションを上げていき、エイサップ・ファーグのラップから始まり、オリエンタルなシンセの旋律に、強烈な低音と、羽ばたきのようなシンバルの高速連打が加わる”Fake Chanel”で頂点に達する。爽やかなポップス”Bittersweet”やラテン・チューン”To The Max”、軽快な2ステップ”Waiting”など幅広い曲調も魅力だ。

10. Rosalía『El Mal Querer』

スペイン出身のシンガー・ソングライター、ロザリアの第二作。ハンド・クラップとギターとカホンによるフラメンコのリズムを軸として、曲によってオルガンや、豊かな響きのクラシカルな弦楽隊、聖歌のようなコーラスが加わる。トラップを想起させる低音や、電子変調されたヴォーカル、具体音のカットアップで構築するビートなど現代性も目に付くが、シンセ・シーケンスの旋律がスペイン調だったりと自然に溶けこむ。細かい震えの中に官能と情熱を宿す陰のある歌声は、古典的な魅力を備えている。