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2018年 ヒップホップ・ベスト10

2018年のヒップホップのベストを10枚選び、ディスクレビューを書きました。US以外では、カナダから1枚、韓国から2枚、日本から1枚という選盤に。各アーティストの志向やルーツが反映された様々なタイプの作品がありますが、クワイヤや弦楽器を用いた作品が印象に残りました。

1. Diggy『Lighten Up』

NY出身のラッパー、ディギーの第二作。まず冒頭の、気品あるストリングスの旋律と、ゴスペル・クワイヤによるソウルフルで緻密なコーラス・ワークをバックにラップする、Dマイル作の"It Is What It Is"が鮮烈。同じくDマイルが手掛けた"Love Yourself"などでも、弦楽器の美しい音色が、時に悲しげに、時に躍動的に作品を彩っている。プロダクションはトラップよりもエレクトロに近く、空間的なドラムの鳴りが小気味よい。ディギーは丁寧で落ち着いた語り口でラップしており、時折歌う際の声も魅力的だ。

2. JID『DiCaprio 2』

ジョージア州アトランタ出身のラッパー、JIDの第二作。粘着質な声と、複雑なフロウを淀みなく繰り出し、高速で畳みかける時でもニュアンスを入れる余裕のあるラップに耳を奪われ、その流れの中で細かく踏んでいくさまには否が応でも首を振ってしまう。ドラムの不規則な連打に合わせてフロウを変化させたり、二つのループ・フレーズに対して二つの音程で対応したりと、ビートとの合わせも緻密。風の音や金属音の旋律が古代の神殿のイメージを喚起させる"Slick Talk"などオリエンタルなサウンドも面白い。

3. YunB『S.O.S.』

NYで育った韓国人ラッパー、YunBのデビュー作。基調はトラップだが、シンバルやスネアやキックの極端な連打がアクセントになっている。高速ラップやリズミカルなフロウは勿論のこと、メロディアスに歌ったり、声のニュアンスを様々に変えて語りかけるようにラップしたりする時が最も魅力的だ。作品全体がエレピやシンセストリングスを用いたスペーシーなサウンドで統一されており、シンセの波が寄せては返す"Wake Up"や、SUMINの歌の表情の変化によって曲が展開する"Money Lost"など、幻想的な表現が印象に残る。

4. Ja Mezz『GOØDevil』

韓国出身のラッパー、Ja Mezzのデビュー作。ゴスペル・コーラスとオルガンの音色で幕を開け、ノイジーなビートに、分厚いディストーション・ギターまで飛び出す冒頭の"good vs. evil"に本作のコンセプチュアルな世界観が感じられる。オートチューンを用いてアコギ弾き語りでロック的なメロディを歌い上げる"LOVE in HEAVEN"や、言葉がダブのように激しく反響する"I met kanye west"も個性的。セクシーな高音の歌唱とアンダーソン・パックを彷彿させるラップを繰り出すDEANを筆頭に、客演陣のヴォーカル・パフォーマンスも粒揃いだ。

5. BROCKHAMPTON『iridescence』

カリフォルニア州で活動する音楽コレクティヴ、ブロックハンプトンの第四作。マイクリレーが多くサイファーのような雰囲気だが、ドラムンベースやベース系、ブーンバップなど様々なビートを用い変化を付けている。そしてギターやピアノ、ストリングス、ホーン、聖歌隊によるバック・ヴォーカルなどアコースティック楽器を多数使用し、ソウルや70年代の音楽を想起させる奇妙な世界観を構築。ソウルフルな歌声にサイレン音が重なりドラムが連打される"HONEY"の白昼夢のようなサウンドは独創的だ。

6. Lupe Fiasco『Drogas Wave』

イリノイ州シカゴ出身のラッパー、ルーペ・フィアスコの第七作。黒人奴隷に焦点を当てた作品で、随所に挿入される語りの言葉は勿論、ラテン音楽のバンドサウンドをバックにルーペがスペイン語で歌う"Drogas"や、レゲエのフロウでラップする曲など、音楽的にも大西洋の奴隷貿易に関わる土地と結びついている。全体的に女性ヴォーカルとピアノが内省的な雰囲気を作り出しており、ロージー・ティムズによる鬼気迫るヴァイオリン独奏や、エレーナ・ピンダーヒューズのフルートなど、生演奏が生きている。

7. Belly『Immigrant』

パレスチナ生まれカナダ育ちのラッパー、ベリーの第二作。彼がソングライターを務めてきたザ・ウィークエンドを始めに、ミーク・ミルやフレンチ・モンタナなどゲストは豪華だが、落ち着いたトーンで淡々と確実に踏んでいくベリーのラップと、作品を通して聴こえる悲しげで美しいシンセの旋律が作品に統一感をもたらしている。M.I.A.が歌う"Immigrant"は移民問題をテーマとしており、神秘的なバック・ヴォーカルがパレスチナをイメージさせる"Who Hurt You"のサウンドなども含めて、ルーツに意識的な表現となっている。

8. Saba『Care For Me』

イリノイ州シカゴ出身のラッパー、サバの第二作。決まったパターンを繰り返す時もあれば、スピードに乗って目まぐるしく刻み方を変える時もあり、ドラムに合わせる時もあれば、ビートを半ば無視して自分のリズムを作り出す時もある、変幻自在なフロウに圧倒される。時計の秒針のように淡々と時を刻むシンバルのリズムや、水中に潜るようなシンセのサウンドも印象的だ。ピアノの旋律と音の響きが美しい"Calligraphy"や、キックがハードコアのように高速で連打される"Prom / King"など、演奏面の聴きどころも多い。

9. PRhyme『PRhyme 2』

ミシガン州デトロイト出身のラッパー、ロイス・ダ・ファイブ・ナインと、テキサス州ヒューストン出身のプロデューサー、DJプレミアによるデュオ、プライムの第二作。ファンキーなベースとドラムに、タイトなラップを重ねるオーソドックスなスタイルだが、ギターやオルガン、シンセなど様々な音色の楽器を組み合わせたビートのバリエーションが豊富で、最後まで聴き飽きない。清廉なピアノや、流れるような壮麗なストリングス、温かくソウルフルなホーンなども用いて、音楽的な幅を広げている。

10. YamieZimmer『Arsonist Under』

神奈川県出身のビートメイカー、YamieZimmerのデビュー作。トラップに近いが、女性のヴォイスやピアノ、シンセなどで、ごくシンプルなループを構成し、それをミニマルに繰り返す中毒性のあるビートが特徴的だ。さらにそこに乗るSANTAWORLDVIEW、J. October、Donatello、Leon Fanourakisらのラップは、細かい粒のようだったり、ぐしゃっと潰れて塊になっていたり、粘着質だったりと様々な質感を持ち、言語も日本語と英語が混ざっており、何を言っているのか聴き取れない場面も。ビートも言葉も一つのサウンドとして音響的な耳で聴ける作品だ。