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2018年 R&B・ベスト10

2018年のR&Bのベストを10枚選び、ディスクレビューを書きました。デビュー作は3枚のみで、ベテランの作品が多くを占める結果に。イギリス出身者は3人。ソーモーとマリオとマイアが上位に位置するところに、作品の重要さや革新性とは別の自分の好みが反映されていると思います。

1.Ne-Yo『Good Man』

アーカンソー州出身のシンガー、ニーヨの第七作。イントロを挟んだ二曲目の"1 More Shot"での、ヒップホップのドラムから四つ打ちのダンスホールに加速し、さらにトラップ・ビートが重なってハーフテンポになるというグルーヴの滑らかな推移が鮮烈だ。ラテン、フューチャー・ベース、ゴスペルなど幅広い音楽性だけでなく、各曲に一癖あるアレンジを施したプロダクションが絶品。余裕を感じさせるしなやかで落ち着いた歌声はもちろん、誠実さや悲しみ、情熱や官能性のシアトリカルな表現も魅力だ。

2.Jorja Smith『Lost & Found』

イギリスのウォルソール出身のシンガーソングライター、ジョルジャ・スミスのデビュー作。まずカリブ系の歌声そのものの魅力に打ちのめされるが、声の抑揚による揺らぎのグルーヴや、声の太さの繊細なコントロールなど、技巧的な面にも圧倒される。ゴスペル・コーラスを従えて感情を爆発させる"Tomorrow"や、ピアノをバックに真摯で切実な歌声を聴かせる"Don’t Watch Me Cry"などでみせる表現力にも注目したい。ピアノやエレピを用いた憂いを帯びたサウンドは、彼女の表現世界に寄り添っている。

3.Lloyd『Tru』

ジョージア州アトランタ出身のシンガー、ロイドの第五作。トラップ以降のサウンドが中心だが、不穏さとは対極にある爽やかで軽快なアレンジが特徴的だ。優しく伸びやかな歌声が気持ち良く、リズミカルな刻みでも長い音符でも高音域が魅力。聖歌隊入りの曲もそうだが、言葉とメロディを繰り返すことで、精神の高みを目指すような宗教的な感覚も。終盤での思いを爆発させるような熱い歌唱にも注目したい。ゲスト参加曲では、セブン・ストリーターが本気のフェイクを聴かせる"My Bestie"がベスト。

4.SoMo『A Beautiful November』

テキサス州出身のシンガー、ソーモーの第三作。若さと憂いが混ざり合った感傷的な歌声はドレイクを彷彿とさせ、技巧よりも滲み出る優しさが魅力だ。硬質なドラムと、うねるように旋律を繰り返して畳み掛けるラップ的な歌唱が踊りたくなるグルーヴを生む。アンビエントなシンセに、少しのピアノやギターやストリングスが加わるアレンジが多く、ミディアム〜バラードが殆どだが、冒頭にフェイクを配置したロマンチックな"I Wish"をはじめとして、各曲のメロディが良いせいか最後まで聴き飽きない。

5.Mario『Dancing Shadows』

メリーランド州出身のシンガー、マリオの第五作。冒頭から伸びやかなファルセットと、コーラスでの高音の連続ヒットには無条件で降伏。音符の一つ一つを滑らかに、撫でるように歌っていくさまが美しく、繊細なカーブを描く声のコントロールも絶品。歪んだベースと変則的なリズムが強烈な"Dancing Shadows"をはじめに、ジェイク・ゴスリングが手掛けたピアノやギターを交えたアンビエントR&Bやブギーのサウンドも文句なし。ブルース系の曲で嗄れ気味の声をソウルフルに聴かせる場面も印象に残る。

6.Mya『T.K.O. (The Knock Out) 』

ワシントンD.C.出身のシンガー、マイアの第八作。催眠的なシンセのループと無機質なドラムによるトラップ・ビートに対し、冷え切った温度のヴォーカルが完全にマッチしていることに驚く。フェイクや声の揺らぎだけでなく、息遣いや吐息も含めた様々な質感の声を折り重ねて、幻想的な空間を創出。"Ready (Part III – 90′s Bedroom Mix)"での歌とバック・ヴォーカルの織り成す空気感は極上だ。マーズの手によるエコーを効かせたサウンドの統一感も評価したい。終盤でみせる正統派の歌唱も魅力的。

7.Jessie J『R.O.S.E.』

ロンドン出身のシンガー、ジェシー・Jの第四作。それぞれテーマを持った4枚の連作EPでのリリース。勇気、官能、愛情などの感情を歌い分ける表現力もさることながら、なによりも歌唱力とパワー、そして技巧的なフェイクに圧倒される。トラップ、バウンス、ハウス、ブギーなどのダンサブルなビートから、ゴスペル、ソウル、ファンク、ジャズなどの生演奏まで、幅広い音楽性だが、全曲高いレベルに仕上げられているのが見事。"Four Letter Word"で羽のように軽いスネアに導かれる繊細な歌声が白眉。

8.Jacquees『4275』

ジョージア州出身のシンガー、ジャクイースのデビュー作。本作でも共演しているクリス・ブラウンやトレイ・ソングスに通じる、丸みを帯びた甘く優しい歌声が一番の魅力。声を伸ばす時の揺れ方が気持ち良い。トラップ以降のラップ的な歌唱でもキレを抑えて、柔らかくぼかしてリズムを刻むのが特徴的だ。シンセやシンセ・ストリングスを中心とした起伏の少ないトラックは情景喚起的で、自伝映画のような雰囲気。ジャギド・エッジを迎えた終盤の"Special"のコーラスのメロディに感情を動かさせる。

9.Ariana Grande『Sweetener』

フロリダ州出身のシンガー、アリアナ・グランデの第四作。歌声は大人っぽくなり、セクシーな艶めかしさや、堂々とした貫禄やワイルドさを感じさせる場面も。アルバム冒頭や"No Tears Left To Cry"などで聴ける力強い歌声に自信が現れている。ファレル・ウィリアムスが手掛けた50年代とエレクトロが融合した遊びのあるサウンドは彼女のクールな側面を新たに引き出し、マックス・マーティンやイリヤの手による従来路線のドラマチックな楽曲とのバランスも良い。作品としての統一感はキャリア随一。

10.Ella Mai『Ella Mai』

ロンドン出身でNYで活動するシンガー、エラ・メイのデビュー作。DJマスタードが手掛けるエレクトロやトラップを軸にした隙間のあるトラックを、技巧的なフェイクや表現力ではなく、流れるようなフロウと、引き伸ばすタメや、短く切るスタッカートを駆使して乗りこなし、踊りを誘うグルーヴを絶え間なく創出。高音域で勢いよく畳み掛け、"Boo'd Up"でピークを迎える前半は勿論、アンビエントR&Bやジャジーな曲やバラードなど幅広い曲調と、ふてぶてしいまでの低音域の歌声が聴ける後半も魅力だ。