【アット・キャッツ・ハウス・パートワン】

【アット・キャッツ・ハウス・パートワン】フロム 【ハウ・キュート・マイ・キャット・イズ】 シリーズ!

【ハウ・キュート・マイ・キャット・イズ】 シリーズ とは:
yulou_headzによるニンジャスレイヤー二次創作、つまりテキストカラテのカテゴリーの一つ。グラスキャットのカワイイなワンシーン、日常風景、観察日記、彼女が愛用するヘッドホン端末のデータの一部など。ショートムービーめいた記録。文体は忍殺に準ずるものから箇条書きまで様々である。

夜。重金属酸性雨。サイレン。ビニル傘の花畑。店先の宣伝文句。路地にたむろする者。家路を急ぐ者。雑踏。水溜りに反射する鮮やかなネオンサイン。

眠らない街ネオサイタマ。その片隅、それなりのマンションの一室に、今日もグラスキャットは帰ってきた。手には買い物袋を提げている。「タダイマ」明るい玄関に入り、靴を揃えて上がる。

隅には来客の靴……ヒノモト・ワークショップ製で、様々な機能を備えている……が置いてある。「よしよし、まだいるね」グラスキャットは微笑み、リビングへ向かう。返事はなかったから、眠っているだろう。

まだ暗い部屋のテーブルに、グリーンの光が灯っている。トラベラーが所持している改造モーターチイサイの『ヒカリ』だ。『ネコチャン!』ヒカリは浮かび上がり、音声を発した。「ヒカリチャンにもネコチャンって教えてるのか……私はグラスキャットだよ」

『再設定はマスターのみ可能です』ヒカリはオレンジに光った。エラー時の色だ。『アラームが設定されていません』続けて黄色く光る。ヘルプを求める時の色だ。「起こして欲しいのか」グラスキャットは部屋の電気をつけた。

「トラベラー=サン、タダイマ!」声をかけると、ソファに埋まった女性、トラベラーは眠ったまま顔をしかめた。「ヒカリ……あと5分延長……」『ヌン』「……」グラスキャットは外気で冷えた尻尾を稼働させ、先端をトラベラーの頬に当てた。

「ホワーッ!?」トラベラーは悲鳴とともに跳ね起きようとして失敗し、床に転落した。「何!何だ!?僕に闇討ちを!?」「オハヨ」「オハヨ!いやあいい夜だ!お前が起こさなければ!!」トラベラーは憤慨しながら改めて起き上がり、ソファに腰掛けた。

そこでようやくグラスキャットを見た。不機嫌な表情が一転、いつもの調子に戻る。「なんだ、ネコチャンか。オカエリ」「冷たかった?」「ウン。実に効率的に起こす方法だと思う。極悪非道だ」「そうかい」グラスキャットはキッチンに向かった。

買い物袋からトラベラー用のケモビール瓶と自分用のいくつかのドリンク缶を取り出し、氷水の入ったワインクーラーに入れる。(((まあ、冷やす点では合ってるからね)))グラスキャットは独りごちた。

「ジョッキいるかい?瓶のまま飲んじゃう?」「瓶で飲もう。ワルな感じするだろ」容器を選ぶグラスキャットの問いに、ソファに沈み直したトラベラーが答えた。「オーケー」グラスキャットは出しかけたジョッキを仕舞った。そして買い物袋を再び覗いた。

売れ残って安くなったキャベツ半玉、ベーコン、偶然目に付いたクルトン、カラフルなバイオトマト……これらはシーザーサラダにする……それからバイオクルマエビ。もう衣までつけてある、揚げるだけのものだ。

『タイマーを使用しますか?』ヒカリがリビングのテーブルから離れ、冷蔵庫の上に降りた。「ウン?キッチンタイマーあるけど……」グラスキャットはタイマーの電源を押した。……反応なし。「……ヒカリ、頼んでもいい?」『重点!』

てきぱきと油の準備を済ませ、熱し……その間にキャベツを刻み、トマトを切り、ベーコンを軽く炒めた……我ながら手際が良い、とグラスキャットは気分が良くなった……やがて油は適温になり、グラスキャットはバイオクルマエビを油に投入した。

「いい音だ。揚げ物は大好きだとも」「エビフライ好きだったよね」「勿論。尻尾までいただくよ」「バイオだけど……」「バイオクルマエビは平気でね。色は気になるが。私の国にはなかったから」思案するトラベラーを横目に、グラスキャットは油の中のエビを菜箸で動かした。

「そこのサラダ、運んでくれる?」「任せたまえ」トラベラーはサラダのボウルをテーブルに運んで行った。やや危なっかしい動きだ。「まさかもう呑んだのかい?」「フフ……目の前にあったからね」「もう……」グラスキャットは呻いた。油断ならない。

『あと3分な』冷蔵庫の上に陣取っていたヒカリが浮き上がり、グラスキャットの側に移動してきた。「ああ、アリガト。あと何だったかな……」グラスキャットは冷蔵庫に貼っておいたメモを見た。『タルタルソース』の文字。「そうだった」

グラスキャットは冷蔵庫を開けた。ボイルドエッグ、ピクルス、マヨネーズ……その他。それらの自己流タルタルソースの材料を取り出し、ボイルドエッグとピクルスを刻む。他の材料を混ぜる。「どうかな」グラスキャットはスプーンで少量とり、味見した。……美味!

『重点!重点!』ヒカリが虹色に光り、忙しなくグラスキャットの周囲を飛び回り始めた。「ウワッ、アリガト……」『ヌンヌンヌン!』グラスキャットはなおも虹色に光るヒカリを見ないようにしながら、キツネ色に揚がったエビフライを油からあげた。余分な油を切り、盛り付ける。「よし、出来たよ」『重点!』ヒカリがカメラを起動し、写真を撮った。

「テンサイ!さっそく食べるとしよう」よほど食べたかったらしく自主的にエビフライの皿を運ぶトラベラーに、グラスキャットは箸も渡した。「よし!イタダキマス!」席に着くや否や、トラベラーは箸を構えた。グラスキャットを待つ気は無いらしい。「ドーゾ」「ドーモ!」

トラベラーがエビフライを齧るのを、グラスキャットはドリンク用のコップを拭きながら眺めた。……サクッという軽い音。油から上げるタイミングは完璧と見て良さそうだ。ヒカリに感謝せねば。トラベラーは満足気に頷いている。

グラスキャットはさらに観察する……衣のかけらが付いた口元、油分で僅かに照る唇と、咀嚼する口の動き。トラベラーは飲み込んで、もうひと齧りしようと口を開ける。そこでグラスキャットの視線に気づいた。

「何だね」「ウマイかい?」「勿論だとも」トラベラーは子どものように笑い、続けた。「振舞われたものはまた別格に美味だ」グラスキャットは微笑み、タルタルソースを運んだ。「これ載せるといいよ。オイシイ」「おっと。相変わらずマメなことだ……うん、とてもいい」

「今度はウェービーホワイト=サンも連れてきてよ。好きな料理も用意するからさ」「うん、とてもいい。ウェビーの許嫁になる気はない?」「ンン!?」あまりに唐突な提案に、グラスキャットは注いでいたドリンクをこぼしかけた。「ナンデ!?」

「冗談さ。ウェビーの嫁は私だからね」トラベラーは自慢げにニヤリと笑み、続けた。「別の話になるけど、ヤマカ=サンが今日、新しい尻尾を開発してた。キャットテイル・ユニットっていう名前になるらしい。近く連絡が行くと思うよ」そして再びエビフライをかじった。

「あ、メンテの時に話してくれるって言ってたやつかな?アリガト!トラベラー=サンは何か作ってもらわないのかい?」『重点!』「ヒカリなんかはヒノモト・ワークショップで改造したやつだ。それから……」『重点!』箸で示されたヒカリが、赤く光りながらトラベラーの箸の周りを飛び回る。

「アー、……、……?」一旦箸を置いたトラベラーは、ヒカリに何事か聞き慣れぬ言葉をかけている。ヒカリはしばし赤く光り続けていたが、やがて緑の光に戻った。「あの……」「私の故郷の言葉だ。酔っ払いの妄言ではなく!」グラスキャットは尻尾を揺らしながら曖昧に頷き、サラダを咀嚼し、ドリンクを飲み干した。

「なんて言ったんだい?」「それは内緒だ。次のビズには間に合うと思うから、その時に披露しよう」フライの尻尾にタルタルソースを満載しながら、トラベラーはヒカリに目配せした。その時、グラスキャットの端末にメールが届いた。ヒノモト・ワークショップからの連絡だ。

「見るといい」「じゃあシツレイして」グラスキャットはメールの件名を確認した。『仕事の依頼』と書いてある。「『ユウダチ・ジルシのオーガニックコーヒー豆を定期購入したい』……仕事……お遣いだ……」『オツカイ』「エッ」『ピガガ』「気のせいか」

『オツカイ』「ウワッ気のせいじゃなかった」「気にしなくていいよ。学習中なんだ」「なるほどね」こともなげに言うトラベラーに再び曖昧に頷き、ニンジャ入力速度で返信文を作成する。無論依頼文はきちんとしたものなので、くだけた返事では良くない。最低限のマナーだ。

「ネコチャンの分、無くなるかも知れないな」「残しておくれよ!独り占めはよくないってイズミ=サンに習わなかったのかい?」「スクールで教わるのでは?」グラスキャットはエビフライを確保し、タルタルソースを満載した。「そういうこと言うの良くないと思う」

だが、悪くない。更にグラスキャットはエビフライをかじり、口元を綻ばせた。「オイシイ」

【アット・キャッツ・ハウス・パートワン】 終わり

(yulou_headz コメント)
エビフライ。好きですね。とても。🍤

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