ピーマン

この話をFoorinのたけるに捧げる。

瓶漬四川搾菜使用。
レモンサワーを高く掲げてくれ。

仕事帰り、歩道橋の下で「TAKEO KIKUCHI」の黒い革財布を拾った。
交番に届けようと自宅とは逆方向の駅前まで迎うのだが小雨も降っており、本当に身体の芯から怠かったので明日の朝、出勤前にお届けする事とし自宅まで持ち帰ってしまった。自宅といっても四畳半ロフト付き、トイレ別だがシャワーのみという独居房のような部屋なのだが、女を連れ込む機会、器量も財もテクも無いので不便もしない。帰って酒を飲みながら搾菜を食って寝るだけの日々だ。

一先ず確認の為、財布を開けると札や免許証、保険証などの本人確認証は入っておらず、ミスタードーナツのクーポン券、トローチが一錠、50円と5円の硬貨が一枚づつ、「MICHIKO LONDON」のコンドームが一枚入っていた。きっと無職の男性だろう。経済が逼迫しているだろうか。喉が痛むのだろうか。どんな本を読み、どんな音楽を聴くのだろうか。すしざんまいをご馳走して励ましてやりたい。などと持ち主を想いながらも、いつの間にか眠ってしまった。
本当に身体の芯から怠かったから。

翌日、こんなものを交番に届けても、ただの害であろうと55円をコンビニでオーストラリア森林火災へ募金し、財布をそのままゴミ箱へ捨てた。コンドームは記念に宝物入れに保管する事にした。財布だけでもと思うかもしれないが、酷く汚れ裂けていたし、鰺を開いて小便で漬け込み天日干ししてみました的な臭いがするので、この機会に買い換えろと思ったのだ。

ホームで電車を待っていた。
眼前を京浜東北線快速が通過する。
かつての恋人に似た女性が窓に一瞬通り過ぎた。

「あっ！あの財布は15年前に、僕が落とした彼女から貰った奴かもしれない！」

そう思ってみた。楽しいから。

昔、宜保愛子がさ、生放送で今からで祈祷するので、家の中を捜索しなさい。探し物が見つかるはずですとテレビから視聴者に告げたんだ。
そしたらさ、全国から失くした財布や現金、貴金属などが発見されたって電話が殺到したんだよ！

昔の恋人は歌手のベッシー・スミスに似ていた。猿が嘔吐した吐瀉物を再度、経口から摂取したのを観てから動物園が嫌いになったって話が僕はすごく好きだった。

東京の空は雲一つ無く澄み渡り、ヘリコプターが低く飛んでいた。

ラジオから「愛は何時？」という曲が流れた。「愛は汝だ。」と思った。落ちていた熟れたバナナが潰され女性器に見えて、今日はいい日になるような気がしたんだ。