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NEO GEO

ラジオのモノラルイヤホンを片耳に装着し、テレビを観ながら呑んでいる。話掛けれらないようになのか、重要な情報を聴取しようとしているのかは彼にしか解らない。

喋らないのである。

一見の客に話掛けれらたら、聞こえないふりをし、ダンマリと肴を口へ運び、焼酎のお湯割で流す。常連衆は会釈だけでそっとしておく。

この店「大衆酒場 どんぐり」のママは「GEOちゃん」と呼び大切なお客だと言う。開店当初から50年間通っているそうだ。店を50年続けるのも大したものだが、喋らず通い続けるのも又、大層根性座ってる。身なりはきちりとしていて、実写版の海原雄山の様な顔立ちで、デンと佇んでいる。俺もお喋りは苦手な方で、なにも考えずボケっと呑むのが好きだが、話掛けれらると寄り目で応対してしまい愛嬌のある小僧として認知されてしまっている。

こんな事では駄目だと、俺もGEOちゃんを超越すべくポータブルカセットプレイヤーPanasonic SHOCKWAVEにシュトックハウゼンのヘリコプター弦楽四重奏曲をダビングしたカセットをヘッドホンSONY MDR-CD900STで聴き、VRゴーグルで「さんすうすいすい」を視聴しながら呑もうとしたら、手元が狂いボトルキープしている宝焼酎の一升瓶を割ってしまい2度と来るなと出禁になってしまった。
馴染みの店に縁切られ落ち込み側の公園で、改めてトライすると視覚に叙情と聴覚に不穏と情緒が入り混じりが脳内で処理出来ず、アルコールが脳を破壊し溶けていく様子が、前頭葉あたりから解る気がする。LSDってこんな感じかなと思った。気がつくと砂場に倒れていた。

「大丈夫ですか!?」

揺さぶられ目を開けると女物のパンティーが見えた。ラッキーと思い顔を上げると眼前にしゃがみ込んだ60代くらいの前川清似の熟女。周りには警官が4人いた。警官は頭部が目玉であり、目玉が警帽を被っていた。「レジデンツじゃん!」とサインを懇願するも拒否られ、近くの交番に連行され事情聴取を受けた、やり取りが警官に好評だったらしく異例の即日死刑判決を言い渡された。
感情の無い街の中のカジュアルな死刑執行。
愛した街の行政に俺は殺されてしまう。
確かに風紀を乱したが、やり過ぎではないか。かつては人2人は殺めないと死刑にはならなかった。
ヨドバシカメラの脇にある交番の簡易死刑執行室。
外からは鈴虫が羽音が聴こえ、窓からの風が心地がよい。
金曜日の街中は溢れ長袖も目立つ。もうすぐ好む季節の秋が到来する。
今年も海に行かなかった。
彼女とかも欲しかったな。
介護している母を想ったが、介護疲れもあったので、今後もろくな生活は待っているはずも無く、生きてゆくのもめんどくさいし死刑も悪くないなと思った。
死刑執行前にサッポロ黒ラベルとショートホープを要求した。
最後の煙草に火をつけ、15分かけビールを味わった。

手を後ろで縛られコンドームの様な密着型の袋を頭から被せられる。絞首刑は残酷だからと廃止になった。代替で3M社が製造する特殊素材の袋を使用した窒息刑が主流となり、最新のポップカルチャーとしても認知されている。昨今、死刑は究極のエンターテイメントなのだ。
好きな曲を流して良いとの事で、リクエストしたフリッパーズギターの「さよならパステルズバッジ」が爆音で流れる室内で袋が掃除機の様な物で吸引、圧迫され潰されたファニーフェイスで悶えると警官がスマホで撮影しながら大笑いしている。苦しみと比例し視覚に段々と黒いノイズが入ってゆく。最期は真っ黒になる。死はイメージ通り黒かった。
7分ほどだろうか、比較的耐えて俺は死んだ。小学校にマラソン大会で3位になった事がある。かつて中学の身体検査で県内2位の肺活量が踏ん張ったのだった。
遺体は、そのまま最寄の焼場で火葬され遺灰の意向を聞かれた時に格好をつけて「便所に流してくれ。」と言ったものだから、焼場から近い榴岡公園の大便器に流された。

後に俺の死に様は映像化され、結構好評らしく米ピッチフォーク誌で9点を取り、MoMAに所蔵される事となる。

その数年後、母親はこの映像の肖像権で大儲けし川の側に小さな庵を建て、そこで皇潤の過剰摂取によるオーバードーズで死んだ。

俺は過去に生まれ変わり2020年の冬、ファミリーマートのイートインでこれを綴っている。





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