最高の俺たち

採掘場で僕は、暖かい日で空は綺麗なのに十代特有の不安みたいな蟠りのせいで全然青を美しいと思えなかった。目が細くて骨張った顔の「美濃宇久 乖離」という名前の女の子に呼ばれたんだ。顎に沿うように鋭利なショートカットがオーソドックスなセーラー服を際立たせていたし、スマートな身体に良く似合っていた。

別に好き同士じゃないけど、僕らはよく一緒にここに来てアイスを食べながらたわいもない話をしたり、視聴覚室でエアガンのガスを吸って「ゆず」を聴いたり、Zipperを読んだりした。エアガンのガスを吸うと、喋り声にディレイが掛かったり、歩くとドラえもんの歩行音になったり聴覚が変になって愉快なんだ。
僕は野球部のエースだった。中体連も終わり受験シーズンなんだけど野球の名門校にスポーツ推薦が決まっていて暇だったし、乖離も同様に、絵を描いて美術科のある学校に推薦入学が決まっていた。写実的でサンポールを写真と見間違えるくらいリアルに描いた絵を貰った事がある。

彼女がキャッチャーミットをはめて、僕に軟式ボールのA級を手渡した。

「18,44mからマンキンで投げてよ。」

しゃがんでキャッチャーの構えをした。
大きく股を開くので黒いパンティーが露骨に良く見えた。
普通に吐き気がして、この子を好きになれない自分を非情と思った。
「見せパンだぁ!」と彼女笑って、僕、空を見上げたら「超能力日記」と赤い文字で描いてあって点滅したんだ。

女の子に投げるのが怖くて5割くらいで放ったら、怒っちゃって仕様がなく全力で投げたらミットに入らず額に直撃した。ノコギリの撓みの様な叫びで帰って行った。送ろうと思ったんだけど頑なにノコギリ撓み声で断られた。2日帰って来なくて捜索願いが出された。後日、隣町のラジコンレース場で発見された。どこで手に入れたのか男性用のスーツを着ていたそうだ。それ以降、自宅の子供部屋から出て来なくなってしまった。それから20年会ってない。

僕は大学でも野球をして、JR東海に入部し昨年34歳で現役引退した。今は新幹線の整備をしている。独身だけど一人が好きだからなんともないというか、これがずっと続けばなと思う。

地元の同級生から、メールでボイスメモが送られて来た。現在、精神病練にいる乖離が歌っている音声だと記してあった。

「一本でも擬人〜、二本でも擬人〜」と10分ほど繰り返されていた。僕がMDに選曲してあげた中に入っていたポンキッキの歌だった。

乖離。久しぶりに笑ったよ。

その事件の頃って僕は、女性器って信じてなくてお尻の穴から人は生まれて来ると思ってたし、受精のタイミングも男女の愛が、想いが重なった時だとずっと思ってたんだ。

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