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憧れのひとにやっと出会えた、26歳の真夏の夜

ハッとするような緑のワンピース、シルバーで統一されたアクセサリー、
まだかけこなせない伊達眼鏡もたぶん様になっている。
それに顔周りのパーマもなんだかうまく出せた。
今できるとびきりのおしゃれをした私は今日、あるひとのコンサートに来た。

席を確認すると、2階のステージに近い位置。いい席じゃないか。
席に到着し、カップルを横目に座り、パンフレットを開く。
そこには、「久石譲」と書かれ、メッセージが添えられている。最後にこうあった。

「アートでエンターテイメントする!僕の最も好きな言葉です。
 楽しい一夜になることを期待しています。」

ああ、やっぱりいいな。

6年前ゼミの部屋で先生の本棚を眺めて、なんとなく手に取った本。
「感動を作れますか?」
久石譲が書いた本だった。
当時、感性ってなんだろうと、猛烈に感性という言葉に惹かれていた私にぴったりのその1冊は、以来ずっと私のバイブルだ。
本に書いてあったことを心に刻みながら社会人を続け、気づけば5年が経った。

ああ、そうだ。
私はこのおじさんにずっと憧れていて、私の進むべき道を示してくれたことに感謝している。
開演までの時間、私がこのチケットを取った意味を改めて思い出し、感慨に耽る。

そうして始まったコンサートの時間。それはもう、圧巻だった。
久石譲が指揮を振ったのは最初と最後の2曲。でもそれ以外の曲も本当に素晴らしくかった。演奏が終わるとはにかみ、それぞれの演奏を讃える。
その光景に私は深く深く感動した。

そして、本から想像していた気難しそうな久石譲は、朗らかに、謙虚に、
心から音楽を愛する、素敵な方だということがわかった。
私はこのおじさんを信じてきてよかったと、勝手に感謝の気持ちでいっぱいになり、会場でいちばんの拍手を送った(つもりだ)。

会場を出ると、雨が降っていた。
雨の匂いが、より今夜の思い出を濃密にしてくれるように感じられ、
いつもより優しく、普段だったら煩わしく感じる雨が心地よく、
私はしばらく興奮が冷めなかった。
一緒に行った友達、演奏が終わって連絡した母にも
私の感動は伝わったらしく、母からは、
「26歳真夏のたのしい一夜になったね」
とラインをもらい、母からの粋な文面も、より私の気持ちを高ぶらせた。

ああ、また聴きたいな。


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