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朝日が教えてくれたこと

テレビの制作部をしていた時代がある。

初めての現場で慣れないことが多く、テンパっていた。
そんな私にみなさん優しくしてくれた。

頭髪の薄い助監督さんがいた。
薄いと言うか、両脇にうっすら生えているだけでほぼほぼハゲだった。

その真面目でよく動くTさんを主演キャストさんがイジっていた。

「おまえ絶対金髪が似合うよ」
「いいと思う」
「思い切れ!」

その場のノリだろうと気にしてはいなかった。
そもそも染めれる髪はそんなにない。

冬のロケだった。
早朝の宮益坂はロケに向かう多くのマイクロバスが集まる。
制作部はいち早く集合場所に到着し、誰が来たか、来てないか、チェックする。
寒いし暗いし眠い。

Tさんがやってきた。
「おはようございます!」
と、挨拶。

「おまえこれ、どう思う?」

と、帽子を外した。
見事につるっぱげだった。

「おおお!! いいじゃないですか! 思い切りましたね〜!!」

と言った。

「そうか? 照れくさいなあ」

と、頭を触り、バスに乗った。

ロケ場所に着く頃陽が上り始め、明るくなった。
今までぼんやりとしか見えなかったものがクリアに見えてくると同時に、「あれ?」という気づきが訪れた。

Tさんが金髪に染めている。
薄暗い冬の朝に金髪は肌と同化して、見えなかったのだ。

「おおお!! いいじゃないですか! 思い切りましたね〜!!スキンヘッド!!」

と、言いそうになっていた私を、何かが引き止めてくれたことに感謝した。

Tさんはその日キャストさんにイジられ、褒められるが、2度と金髪にすることはなかった。

助監督って辛いわ。
と思った冬の朝の出来事。


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