月を買う

月を買った。

こう聞くと大層壮大な話に見えるが、ベッドサイドに置くテーブルランプを買っただけだ。
ただ丸いフォルムと仄かな橙の灯りが満月のようなので、心の中でこっそり「月を買ったみたいだなぁ」と思っている。

月を買ってから深夜の時間が充実するようになった。YouTubeで音楽をかけて一心不乱に運動し、疲れたらベッドに横たわったり、回復したら明日 Uberで何食べようかなと検索している。

時々こんな生活でいいのか?とは思う。
子供の頃はもっと「きちんとした大人」になると思っていた。
この場合の「きちんとした大人」とは普通の職に就き、普通に結婚をして毎日をささやかながら穏やかに暮らすことを指す。

残念ながら、小学生の私が描いた理想は何ひとつ手にしていない。
子供からしたらよくわからん仕事に就き、昼頃に起き、下手したら夜中まで働いている。
無論独身だ。可愛い子供はいないが、自分の遺伝子をどんなに捻っても生まれない可愛い藤井直樹さんのオタクをしている。

この状況を過去の私が聞いたらギャン泣きしそうである。
泣くな、私も少し泣きたい時があるんだから。

しかし、悪いことだけではないとも伝えたい。
「最近頬が弛んできたかも…」と思い重力に抗うべく逆立ちのコツを調べるのも(学生時代からの体力の衰えを感じて断念)、夜中の3時に友達に「明日ハンバーグ食いに行こ!」と連絡して「焼肉」と一言返事をもらうのも(結果両方食う)、教室の中でいつも顔色を伺っていたあの子と街ですれ違っても胸を張っていられるのも、全部大人になれたからだ。

思い描いた理想の自分になれなくても、毎日はゆるやかに流れる。
いつか振り返った時に、この毎日を笑って思い出せたら充分だ。
私だけの月を眺めながらそう思えるのも、大人になれたからだったらいいな。

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