【声劇フリー台本】永遠に手に入らないもの

ただただ嘆いている一人用台本です。
ご利用の際は利用規則をご一読ください。


【利用規則】


◆この台本の著作権は全て影都千虎に帰属しています。

 商用・非商用問わずご利用いただけます。
 ご自由にお使いください。


 利用時のご連絡は任意ですが、ご連絡をいただけますと大変励みになりますし、喜んで影都千虎が拝聴致します。

 音声作品には以下を明記するようお願いいたします。
・作者名:影都千虎
・当台本のURLまたは影都千虎のTwitter ID
(@yukitora01)

 配信でのご利用も可能です。
 配信で利用される際には、上記二点は口頭で問題ございません。

 また、配信で利用される場合、台本を画面上に映していただいて構いません。

 台本のアレンジは自由ですが、台本の意味合いが大きく変わるような改変(大幅にカットするなど)は不可とします。
 便宜上、一人称・二人称を設定しておりますが、いずれも変更していただいて問題ございません。

◆無断転載、改変による転載、自作発言は絶対におやめください。


【台本】


 人には生まれながらにして持つ価値がある。
 その価値が大きく変動することは無い。

 そして僕にはその価値が無い。


 何をやってもそうだった。
 どんなことをしてもそうだった。
 きっと人は、努力が足りないからだと言うのだろう。
 きっと人は、それに費やした時間が足りないからだと言うのだろう。


 きっと、それが正しいのだろう。
 ある程度価値がある人間ならば、努力して時間を費やせば、相応の結果が得られるのだろう。


 けれど僕には無理なのだ。
 同等以上の努力をしたところで。
 同等以上の時間を費やしたところで。
 いつも、いつだって、周囲との価値の違いを見せつけられるだけ。
 自分が無価値であることの証明をするだけ。


 分かっている。
 誰だって相応のことをしているのだと。
 だから尊敬している。
 そこに余計な悪感情など存在せず、常に見習おうと思っている。
 それは紛れも無い事実だ。

 尊敬できる人間が好きだ。
 誰であろうと、どうであろうと、好きな人間は皆尊敬するものがある。

 だが同時に、どうしようもない劣等感が付き纏い続けるのだ。
 対する己の無価値さに、いつだって直面している。
 どうしたところで己の価値が上がることは無い。


 可愛く無い。
 格好良く無い。
 綺麗じゃ無い。
 文才も無い。
 面白く無い。
 楽しく無い。
 発想力も無い。
 画力も無い。
 人望も無い。
 魅力も無い。
 何も無い。

 どれもこれも手に入らないもの。
 どれもこれも備わっていないもの。
 どれもこれも必要なもの。
 どれもこれも欲しかったもの。


 誰かの目に留まることは無くて。
 誰かを惹きつけることは出来なくて。
 誰かの感情を動かすことも出来なくて。
 誰かに影響を与えることも出来なくて。

 ただ、尊敬する人の真似事をして、寄生するように生きているだけの存在でしかない。


 器用貧乏だと言われたことがある。
 どれもこれも並でしかなくて、突出することはない。
 平々凡々としていて、だからこそつまらない。
 だからこそ価値が無い。
 何かの代替品でしか無い。
 特別な何かになることなど一生有り得ない。


 何かを得るには犠牲いたみを伴わなければならなかった。
 何も持っていないから、相応の何かを捻出しなければ得ることは出来なかった。
 何かを失って初めて欲しいものが得られた。
 でも得たものは全て幻で、気付けば泡のように儚く消えていった。

 後に残るのは深くつけられた傷だけ。
 一瞬の快楽の為に、一生の痛みを負って生きている。


 これまでも、これからも。
 きっとそれが変わることはない。


 人には生まれながらにして持つ価値がある。
 価値が無いままに生まれてしまった僕は、本来何かを望んではいけない。
 望めるだけの権利を持ち合わせていない。


 分かっている。
 分かっているんだ。
 ずっと、ずっと前から分かっていた。


 僕が認められることは無い。
 僕が評価されることは無い。
 僕が愛されることは無い。
 僕が賞賛されることは無い。
 僕が必要とされることは無い。

 価値のない僕に居場所など存在しない。


 興味が無いフリをして、失ったフリをして。
 そうしてありとあらゆるものを切り捨ててきた。
 現実を直視する前に逃げて、ちっぽけな自尊心を守るのに躍起になっていた。


 くだらないことだと分かっていても。
 無意味なことだと分かっていても。
 やればやるほど、己の価値がマイナスになっていくと分かっていても。

 零に何を掛けたところで零にしかならないが、零から何かを引き続けることはできる。
 どこまでもどこまでも落ちていける。
 そうやって歪み続けた性格が、無価値さに一層の拍車をかけていった。

 痛い、苦しい、辛いと何度涙を流せばいいのだろう。
 消えたい、死にたいと何度鳴き声をあげればいいのだろう。


 終わりたい。
 終わらせたい。
 下らない自尊心と共に自我というものも全て捨ててしまいたい。
 何も感じなくなればこんなことを考えずに済む。
 何も考えなくなればこんなことを感じずに済む。


 息をしていたくない。
 存在していたくない。


 もう嫌だ。
 何もかも。

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