2023年のノーベル経済学賞は、ハーバード大学のクラウディア・ゴルディン博士に授与されました。
ノーベル経済学賞に男女間の格差是正など研究のゴールディン氏
「男女の賃金格差」 という男女論ど真ん中の研究だったということで、ツイッター男女論界隈は大いに沸き立ったようです。 しかしながらその解釈は個々に異なっており、ツイッターではフェミニスト・反フェミニスト双方が「ノーベル賞受賞者がフェミニズム or アンチフェミニズムを支持した!」 とでもいうように色めき立つという大混乱の様相を呈しております。(スクショ引用しようと思いましたが角が立ちそうなのでやめておきます。)
しかし、何名かの識者が指摘しているように「テキスト」を読まずに物事を判断したり、批判したりするのは適切ではないでしょう。そこで今回は、このノーベル賞の対象となった研究がどのようなものであったか、またそこからどのようなことが考えられるか を、資料をあたりつつ論じていきたいと思います。
資料とは言っても、マスメディアの記事は私がまとめるまでもなく誰もが参照できるでしょうし、各メディアの政治的意図が混入している可能性もありますので、ここでは示しません。せっかくの機会ですから、原著論文までたどっていくことと致しましょう。
まず、ノーベル賞のプレスリリースはこちらです。The Sveriges Riksbank Prize in Economic Sciences in Memory of Alfred Nobel 2023 was awarded to Claudia Goldin "for having advanced our understanding of women’s labour market outcomes"
以下、今回の受賞理由の日本語訳になります。
今年の経済科学部門の受賞者であるクラウディア・ゴールディンは、数世紀にわたる女性の収入と労働市場への参加について初めて包括的な説明を行った。彼女の研究は、変化の原因と、残る男女格差の主な原因を明らかにしている 。 女性は世界の労働市場において圧倒的に存在感が薄く、働いても男性より収入が少ない。クラウディア・ゴールディンは、米国から200年以上にわたるデータを収集し、所得や雇用率における男女差が時代とともにどのように変化してきたのか、またなぜ変化してきたのかを明らかにした。 (中略) 20世紀中、女性の教育レベルは継続的に上昇し、ほとんどの高所得国では、現在では男性よりも大幅に高くなっている 。ゴールディンは、避妊ピルへのアクセスが、キャリア・プランニングの新たな機会を提供することによって、この革命的変化を加速させる重要な役割を果たしたことを示した。 (中略)歴史的には、収入の男女格差の多くは教育と職業選択の違いによって説明できた。しかしゴールディンは、現在ではこの収入の差の大部分は同じ職業に就いている男女の間にあること、そしてその差の大部分は第一子の誕生によって生じることを明らかにしている。 「労働における女性の役割を理解することは、社会にとって重要である。クラウディア・ゴールディンの画期的な研究のおかげで、私たちは、その根底にある要因や、今後どのような障壁に取り組む必要があるのかについて、より多くのことを知ることができました」と、経済科学賞委員会の委員長であるヤコブ・スヴェンソンは述べている。 (翻訳:DeepL)
https://www.nobelprize.org/prizes/economic-sciences/2023/summary/ ごく大雑把にまとめると、男女の収入格差というのは、それまで考えられていたような教育あるいは職業の違いだけでは説明することができず「出産」が要因となって生じている 、ということが彼女の研究により明らかになったようですね。(一連の研究では歴史上の産業の変化に伴う就業形態の変遷などについても分析されていますが、ここでは割愛します。)
科学専門誌「ネイチャー」は、今回の受賞を次のように報じています。Why women earn less than men: Nobel for economic historian who probed pay gap
ゴールディンの研究は、なぜ女性が少なくとも過去2世紀にわたって労働市場に存在感が薄いのか、そしてなぜ現在でも平均して男性より収入が低い(約13%)のかを説明する一助となった。 (中略) ゴールディンはまた、賃金における男女不平等が経済成長と単純な関係にないことも示している。例えば、1820年から50年の産業革命期には、事務職の需要が増加したため、賃金格差は小さくなったが、1930年から1980年の間はほとんど変化がなかった。ゴールディンとカッツは2010年、経済学者のマリアンヌ・バートランドと共同で、子育てが賃金格差の維持に重要な役割を果たしていることを明らかにした 。 (翻訳:DeepL)
https://www.nature.com/articles/d41586-023-03190-4 やはり(出産および)育児が収入格差を理解するうえで鍵になっているようです。 この記事では、受賞のきっかけとなった2報の論文が参考文献として記載されています。そのうちのひとつがこちらです。
Dynamics of the Gender Gap for Young Professionals in the Financial and Corporate Sectors
ついに原著論文にたどり着きました。2010年に発表されたこの論文では、アメリカにおける男女のキャリアパスと収入格差についての研究が行われています。 まずは要旨を見てみましょう。(以下日英併記;翻訳はDeepL及び筆者)
米国のトップビジネススクールを卒業したMBA(経営学修士)取得者のキャリアを調査し、キャリアのダイナミクスが性別によってどのように異なるかを理解する。男女のMBA取得者の収入は、キャリアのスタート時点ではほぼ同じであるが、その収入はすぐに乖離し、MBA取得から10年後には男性の収入の優位性はほぼ60ログポイントに達する。収入の男女格差が大きく拡大しているのは、3つの近接した要因がある:MBA卒業前のトレーニングの違い、キャリアの中断の違い、週所定労働時間の違いである 。女性MBAのキャリアの中断の多さと労働時間の短さは、主に母親としての役割と関連している。(JEL J16, J22, J31, J44) The careers of MBAs from a top US business school are studied to understand how career dynamics differ by gender. Although male and female MBAs have nearly identical earnings at the outset of their careers, their earnings soon diverge, with the male earnings advantage reaching almost 60 log points a decade after MBA completion. Three proximate factors account for the large and rising gender gap in earnings: differences in training prior to MBA graduation, differences in career interruptions, and differences in weekly hours . The greater career discontinuity and shorter work hours for female MBAs are largely associated with motherhood. (JEL J16, J22, J31, J44)
M. Bertrand, C. Goldin & L. F. Katz, Am. Econ. J. Appl. Econ. 2, 228–255 (2010). 具体的な話が出てきましたね。この調査では、男女の収入格差を生じる3つの要因 をつきとめたとのことです。この結論は本文でもあらためて述べられています。
最も興味深いのは、なぜ女性のMBA取得者は男性のMBA取得者ほどうまくいっていないのかということである。我々は、MBA修了後数年以内に顕在化する、収入における大きな、そして上昇する男女格差の3つの近接した理由 を特定した:ビジネススクールのコースと成績の違い、キャリア中断の違い、そして週労働時間の違い 。これら3つの決定因子を組み合わせると、MBA修了後の全期間にわたる所得プーリングにおける生の男女格差31ログポイントの84%を説明することができる Most interesting is why female MBAs have not done as well as their male peers. We identify three proximate reason s for the large and rising gender gap in earnings that emerges within a few years of MBA completion: differences in business school courses and grades; differences in career interruptions; and differences in weekly hours worked. These three determinants combined can explain 84 percent of the 31 log point raw gender gap in earnings pooling across all the years following MBA completion. Because the relative importance of each factor changes with years since MBA completion, we explore the evolution in the earnings gap by sex by time since obtaining the MBA. We also compare women without any career interruptions and any children to all men.
M. Bertrand, C. Goldin & L. F. Katz, Am. Econ. J. Appl. Econ. 2, 228–255 (2010). すなわち、男女の収入格差を生ぜしめる重要な3つの要因は
1. 学校でのコースと成績 2. キャリア中断 3. 労働時間 であり、これをつきとめたことが重要な成果であるようです。そして、これらのうち特に2と3が重要 であるようでした。
男性と女性のMBA取得者は、やや異なるトレーニングを受けてキャリアをスタートさせる。男性はビジネススクールでより多くのファイナンスコースを履修し、GPA(成績)も高い。成績やコースの男女差は大きくないが、MBAトレーニングのこれらの要素に対する労働市場リターンが大きいため、所得格差に寄与している。MBA取得後15年間の収入における男女格差の拡大は、主にキャリアの中断と週労働時間における男女差の結果である 。女性の方がキャリア中断が多く、パートタイムや自営業など労働時間が短い 。これらの差異は小さいが、それがもたらす報酬格差は極めて大きい。収入と休職の関係は、今回のサンプルでは非常に非線形である。キャリアの中断(6カ月以上の休業)は、将来の収入に大きな影響を及ぼし、10年後の時点で、女性は男性より22%ポイント多く、少なくとも1回はキャリアの中断を経験している。長時間労働と継続的な労働市場への参加という男性の規範からの逸脱は、企業や金融セクターでは大きなペナルティとなる 。 Male and female MBAs begin their careers with somewhat different training. Men take more finance courses and have higher GPAs in business school. Gender differences in grades and courses are not large but contribute to the earnings gap because of large labor market returns to these components of MBA training. The large growth in the gender gap in earnings for MBAs during their first 15 years out of school, is mainly a consequence of gender differences in career interruptions and weekly hours worked . Women have more career interruptions, and work shorter hours, including more work in part-time positions and self-employment . Although these differences are modest, the remuneration disparity they entail is exceptionally large. The relationship between income and time off is highly nonlinear for those in our sample. Any career interruption—a period of 6 months or more out of work—is costly in terms of future earnings, and at 10 years out, women are 22 percentage points more likely than men to have had at least one career interruption. Deviations from the male norm of high hours and continuous labor market attachment are greatly penalized in the corporate and financial sectors.
M. Bertrand, C. Goldin & L. F. Katz, Am. Econ. J. Appl. Econ. 2, 228–255 (2010). それでは、何が女性の「キャリア中断」 と「労働時間の短縮」 をもたらすのでしょうか? この答えが「出産・育児」 であるようです。
女性のMBA取得者の職務経験の少なさ、キャリアの不連続性の大きさ、労働時間の短さの主な要因は子供の存在である。MBA取得後の最初の15年間で、子供のいる女性は平均的な男性に比べてMBA取得後の実務経験が約8ヶ月不足する のに対し、子供のいない女性は1.5ヶ月不足する。同様に、子どものいる女性は、平均的な男性に比べて週労働時間が24%少ない が、子どものいない女性は3.3%少ないだけである。MBAを取得した母親は、どちらかと言えば、ビジネススクールの成績とMBA取得後数年間の収入においてプラスに選択されている。個人固定効果を用いたパネル・データ・モデルを推定することで、子供のいる女性がいつ労働時間の短いポジションにシフトし、労働力から離れるかを正確に観察することができる。 The presence of children is the main contributor to the lesser job experience, greater career discontinuity, and shorter work hours for female MBAs. Across the first 15 years following the MBA, women with children have about an 8 month deficit in actual post-MBA experience compared with the average man , while woman without children have a 1.5 month deficit. Similarly, women with children typically work 24 percent fewer weekly hours than the average male ; women without children work only 3.3 percent fewer hours. Women in our sample with children are not negatively selected on predicted earnings; MBA mothers are, if anything, positively selected on business school performance and earnings in the first few years following MBA completion. By estimating panel data models with individual fixed-effects, we can observe exactly when women with children shift into lower hours positions and leave the labor force.
M. Bertrand, C. Goldin & L. F. Katz, Am. Econ. J. Appl. Econ. 2, 228–255 (2010). つまり、子を持つことでブランクができ、かつ労働時間が減ってしまうので、結果として収入が下がる 、ということになるようですね。 それでは、これは無条件に全ての母親に当てはまるのでしょうか? ゴルディン氏らは、必ずしもそうではないことを示しています。 ここで鍵となるのは「配偶者の収入」 でした。
MBAの母親は、家庭に優しい仕事を積極的に選び、長時間労働やキャリアアップの可能性が高い仕事を避けるようだ。初産が女性の労働市場の結果に及ぼす動的な影響は、配偶者の収入に大きく依存する。高収入の配偶者を持つ新婚MBA母親は、労働時間を短縮する。実際、低収入の配偶者を持つMBA女性にとって、最初の出産が収入に与える影響はわずかで一時的である。 MBA mothers seem to actively choose jobs that are family friendly, and avoid jobs with long hours and greater career advancement possibilities. The dynamic impact of a first birth on women’s labor market outcomes greatly depends on spousal income. New MBA mothers with higher-earnings spouses reduce their labor supply considerably more than mothers with lower-earnings spouses. In fact, the first birth has only a modest and temporary impact on earnings for MBA women with lower-earnings spouses .
M. Bertrand, C. Goldin & L. F. Katz, Am. Econ. J. Appl. Econ. 2, 228–255 (2010). さあ、かなり核心に迫る記述が出てきました。 つまり、
旦那が稼いでいる場合は労働時間を減らし、その結果収入が低下する傾向があるが、旦那の稼ぎが良くない場合は(自分が稼ぎ頭となるため)労働を継続し、収入がほぼ低下しない、 ということのようです。 これは女性の「上昇婚」が賃金格差に結びついている ことを示唆していると言えるでしょう。
これ以降の段落では、分析の具体的な手法や計算についての記述が続きますので、重要と思われる部分のみピックアップしていきます。 冒頭で述べたように、労働時間等が同等であれば、女性だからと言って収入が大きく異なることはないようですが「キャリア中断」による不利益には、男女差はあるのでしょうか? 答えは No のようです。
表3のモデルは、キャリア中断の影響を男女で同じになるように制限している。女性の方がキャリア中断によるペナルティが大きい可能性はあるが 、表3の6列目の仕様を用いた男女別の所得回帰の推計では、その疑いは支持されなかった 。6年目のキャリア中断を標準化した賃金ペナルティは、男性が45対数ポイントであるのに対し、女性は26対数ポイントである。女性(11対数ポイント)よりも男性(26対数ポイント)の方が、より不利に見える。30時間数を一定に保たない第3列の仕様に基づく標準化されたキャリアの中断について、同様の計算を行った結果、休業に対するペナルティは男性で48対数ポイント、女性で38対数ポイントとなった。女性にとって、男性ほどではないが、キャリア中断は通常、復職後の週労働時間の大幅な短縮と密接に関係している。このデータからは、MBA女性がMBA男性よりも休業による損失が大きいとは言えない。標準的な働き方から外れることで、誰もが大きなペナルティを受ける ようだ。 The models in Table 3 restrict the impact of career interruptions to be identical for men and women. Although it is possible that women are more heavily penalized for taking time out , estimates from separate earnings regressions by sex, using the specification from Table 3, column 6 do not support that suspicion . The wage penalty for men, using our standardized career interruption at six years out, is 45 log points, whereas that for women is 26 log points. Taking any time out appears more harmful for men (26 log points) than for women (11 log points).30 Similar calculations for a standardized career interruption based on the column 3 specification, which does not hold hours constant, result in penalties for taking time out of 48 log points for men and 38 log points for women. For women, but less so for men, a career interruption usually goes hand in hand with a substantial reduction in weekly hours upon returning to work. The data do not indicate that MBA women lose more than MBA men for taking time out. It appears that everyone is penalized heavily for deviating from the norm .
M. Bertrand, C. Goldin & L. F. Katz, Am. Econ. J. Appl. Econ. 2, 228–255 (2010). つまり、女性だからと言って不当な扱いを受けているわけではない 、ということのようです。 そして、配偶者の収入と女性の勤務状況の具体的関係は次のようになっています。
本調査では、配偶者の収入は当年分のみを尋ねているため、調査日時点の配偶者の収入を、それ以前の年の配偶者の収入の代理として用いている。そして、配偶者の収入が「低い」(年間10万ドル未満)、「中程度」(年間10万ドル以上20万ドル未満)、「高い」(年間20万ドル以上)の配偶者を持つ女性に分けた。これらの配偶者の収入区分を、女性がその年に少なくとも1人の子供を持つかどうかの指標変数と相互作用させることで、平均的な男性を6つの異なる女性グループと比較する。女性が働いていない可能性に対する母親であることの影響は、低収入の配偶者よりも高収入の配偶者を持つ場合に2倍以上大きくなる 。これらの母親が働く確率は、平均的な男性よりも30ポイント低い(表6の1列目;0.119 + 0.185)。中収益の配偶者を持つ母親も低収益の配偶者を持つ母親よりも就労率が低いが、その差は小さく統計的に有意ではない。同様に、高収入の配偶者を持つ母親は、MBA修了後の非就業期間が6ヵ月以上長く、就労している場合でも、低収入の配偶者を持つ母親よりも週労働時間が19対数ポイント短い(第2列と第3列)。 Because our survey asked for spousal earnings only in the current year, we use spousal earnings as of the survey date as a proxy for spousal earnings in any prior year. We then separate women into those with “lower” earnings (less than $100K per year) spouses, “medium” earnings (between $100K and $200K per year) spouses, and “high” earnings (more than $200K per year) spouses. These spousal earnings categories are then interacted with an indicator variable for whether or not a woman has at least one child in a given year, thereby comparing the average man to six different groups of women The effect of motherhood on the likelihood that a woman is not working is more than twice as large if the woman has a high-earnings spouse rather than a lower earnings spouse : these mothers are 30 percentage points less likely to work than the average man (Table 6, column 1; 0.119 + 0.185). Mothers with a medium-earnings spouse also work less than those with a lower-earnings spouse, but the difference is smaller and not statistically significant. Similarly, mothers with high-earnings spouses accumulate more than six months more in nonemployment spells following MBA completion and, even when employed, have a workweek that is 19 log points shorter than mothers with low-earnings spouses (columns 2 and 3).
M. Bertrand, C. Goldin & L. F. Katz, Am. Econ. J. Appl. Econ. 2, 228–255 (2010). また、配偶者の収入が低い母親は自分が働くという傾向はありますが、その分育児の時間は少なくなってしまうようです。
配偶者の収入が15万ドル以上であるMBAの母親は、子どもの世話の52%を自分が担っているのに対し、低収入の配偶者を持つMBAの母親は32%しか担っていない 。この差は、正規の託児所サービスを利用していること(高収入の配偶者では12%、低収入の配偶者では31%)でほぼ説明できる。つまり、高収入の夫を持つMBAの母親は、他のMBAの女性に比べて、(配偶者や他の人に比べて)育児に大きな責任を負っているのである。配偶者の所得が高いほど、乳母や他の市場育児提供者の育児時間に比べて、MBA母親の価値の高い育児時間をより多く購入することができる。まとめると、親の有無が男女MBA間の労働供給の差の大部分を占めている。子どもの存在が女性の労働供給に与える影響は配偶者の所得と強く関連しており、より裕福な世帯の母親ほど労働供給が鈍化する 。MBA mothers whose spouses earn over $150K indicate, in our survey, that they are responsible for 52 percent of their children’s care as compared with only 32 percent for MBA mothers with lower-earnings spouses . The difference is almost fully explained by their reported use of formal day care center services (12 percent with high-earnings spouses versus 31 percent with lower-earnings spouses). That is, MBA mothers with better-off husbands take a larger share of the responsibility for child care (relative to their spouses and others) than do other MBA women. Greater spousal income purchases more high-valued child-care time of the MBA mother relative to the time of nannies and other market child-care providers. In summary, parental status accounts for the bulk of the difference in labor supply between male and female MBAs. The impact of children on female labor supply is strongly related to spousal income, with mothers in better-off households slowing down much more .
M. Bertrand, C. Goldin & L. F. Katz, Am. Econ. J. Appl. Econ. 2, 228–255 (2010). そして、出産に伴う労働時間の減少は、配偶者の収入によって変化することを考慮すると、制度的なものではなく、女性自らの選択による ものであろうとも述べられています。
出産後、女性が仕事を減らすことを選択する理由は明白である。しかし、MBAの母親は、強制的に退職させられたり、少なくともファーストトラックから外されたりすることもある。しかし、労働供給と収入の減少という観察されたパターンが、多くの企業や金融セクターの仕事における家族の制約や勤務スケジュールの柔軟性のなさを考えると、実質的に女性の選択を反映している ことを示唆する証拠が存在する。配偶者の収入によって女性の労働供給に対する子供の影響が異なること(表6参照)は、そのような解釈と一致するように思われる。 表9では、配偶者の収入(20万ドル以上または20万ドル未満)別に、既婚女性の回帰分析を推定している。高収入の配偶者を持つ新 MBA 母親は、(基準期間と比較して)最初の出産の年に 17%ポイント、出産後 3~4 年で 28%ポイント、就労の可能性が低下する(第 5 列)。対照的に、低収入の配偶者を持つMBA女性は、初産前の2年間は就業率が上昇し、出産後は(出産前の基準期間との比較で)就業可能性に顕著な変化は見られない(第1列) 。週所定労働時間(雇用を条件とする)は、両群とも第1子出産の年と出産後の4年間に減少している。 Obvious reasons exist why women choose to cut back on work after giving birth. But MBA mothers may also be forced out, or at least out of the fast-track. Suggestive evidence exists, however, that the observed patterns of decreased labor supply and earnings substantially reflect women’s choices , given family constraints and the inflexibility of work schedules in many corporate and finance sector jobs. The differential impact of children on women’s labor supply by her spouse’s income (see Table 6) seems consistent with such an interpretation. The differential dynamic impacts of a first birth on women’s labor market outcomes by husband’s income are illustrated in Table 9, where we estimate separate regressions (using the Table 8 specifications) for married women by spousal earnings (more than or less than $200K).44 New MBA mothers with higher earning spouses reduce their likelihood of working by 17 percentage points in the year of first birth (relative to the base period), and by 28 percentage points three to four years after the birth (column 5). In contrast, MBA women with lower-earning spouses have an increased employment rate in the two years prior to a first birth, and experience no noticeable change in the likelihood of employment (relative to the pre-birth base period) following the birth (column 1). Weekly hours (conditional on employment) drop for both groups in the year of a first birth and in the four years following the birth (columns 3 and 7). The total annual earnings decline (including those not working) associated with motherhood is large and persistent for MBA women with higher-earning spouses. The decline is quite modest for women with lower-earning spouses, and does not persist beyond the first four years after the first birth.
M. Bertrand, C. Goldin & L. F. Katz, Am. Econ. J. Appl. Econ. 2, 228–255 (2010). MBA女性が仕事をしない理由、前の仕事を辞めた理由、新しい仕事を選んだ理由からは、ある種の選択を論証する裏付けとなる証拠が得られる。女性がキャリアに関連した理由(「解雇」や「適当な仕事がない」などを含む)で働いていない確率は、出産後も変化していない(表10の2列目)。その代わりに、表8で観察されたMBA女性の初産後の労働力参加率の低下は、表10の1欄に見られるように、家族関連の理由(「働く必要がない、または働きたくない」、「家で両親やその他の親族の世話をしている」、「家で子育てをしている」)で働いていない可能性が高まったことに起因 している。 Corroborating evidence arguing for some type of choice can be gleaned from the reasons MBA women give for not working, leaving their previous job, and for choosing a new job. The probability that a woman is not working for career-related reasons (which include “layoff” and “suitable job not available”) does not change post-birth (Table 10, column 2). Instead, all of the reduction in labor force participation for MBA women following a first birth observed in Table 8 can be attributed to an increase in the likelihood of not working for family-related reasons (which include “do not need or want to work,” “home taking care of parents or other relatives,”and “home raising children”) as seen in Table 10, column 1.
M. Bertrand, C. Goldin & L. F. Katz, Am. Econ. J. Appl. Econ. 2, 228–255 (2010). まとめ(抜粋)。
子どもの存在は、女性MBA取得者にとっては、蓄積された職務経験の減少、キャリアの中断、労働時間の短縮、そして大幅な収入の減少と関連している が、男性MBA取得者にとってはそうではない。唯一の例外は、低収入の夫を持つ女性MBAについては、雇用と収入に対する子供の悪影響が見られないことである。The presence of children is associated with less accumulated job experience, more career interruptions, shorter work hours, and substantial earnings declines for female but not for male MBAs. The one exception is that an adverse impact of children on employment and earnings is not found for female MBAs with lower-earning husbands.
M. Bertrand, C. Goldin & L. F. Katz, Am. Econ. J. Appl. Econ. 2, 228–255 (2010). いかがでしたでしょうか。 この論文で示されているのはMBA取得者という限定的なキャリアの話ではありますが、男女の賃金格差というのは「女性だから」という理由で不当な扱いを受けているわけではなく、出産後の休職や時短勤務等によるものである と分析されています。 また、子を持つ女性であっても、夫の収入が低い場合は、ペースを落とさずに勤務を続け、結果として男性とさほど遜色ない収入を得られる ことが示唆されています。
論文中では明言されていませんが、これらの結果をふまえると、やはり「男女の収入格差」を生み出している大きな要因は「女性の上昇婚」であると考察することができる でしょう。 その点で言えば、ここで得られた知見は反フェミニズム論者の意見により親和性があると考えられます。私はジェンダーロールというものを否定したいわけではありませんが、もし世の中のフェミニストや平等主義者が真の「男女平等」を望むのならば、より収入の高い男性と結婚しようとする「上昇婚志向」を解消すべく、意識を「アップデート」していくことが重要なのではないでしょうか。