LFCリサーチディレクター、イアン・グラハムインタビューの抜粋

以前ご紹介した下記記事より、リバプールFCでリサーチディレクターを務めるイアン・グラハムのインタビュー部分の一部を抜粋してご紹介。サラーやロバートソン、さかのぼってはクロップ招聘にも携わったリバプールの頭脳的存在。

Can Britain Get Its “Great” Back? (Ep. 393)

http://freakonomics.com/podcast/london-live/

司会者:
今夜の最後のゲストを紹介しましょう。
彼は偶然ながら、ロンドン市長のお気に入り選手であるモハメド・サラーをリバプールへ連れてきた責任者の一人、リバプールフットボールクラブのリサーチ・ディレクター、イアン・グラハム氏です。

ようこそイアン。チャンピオンズリーグ優勝おめでとう。ほとんどがあなたの功績だと考えてますよ。

イアン・グラハム:
そうですね。ええと、80%くらいかな。

司会者:
選手獲得というところから話をはじめようか。
君が発見したなかで、どの選手がお気に入り?

グラハム:
選手との契約は学術的な意味合いがあるというのは重要な点です。伝統的なスカウトの手段があって、ビデオを使ったスカウティングという新たなメソッドもある。コーチや監督はそれを活用して、選手について熱心でなければいけません。

私の役割はフットボールを分析する上でのデータ分析で、これは新しい方の手法と言えます。また、これは私が本当に好きなことですが、データ上は輝いているのに従来の見方では輝くことが出来ない選手を分類するものです。彼らは厄介で見栄えが悪く、様々な理由から見落とされています。

私の一番のお気に入りは左サイドバックのアンディ・ロバートソンですね。ヨーロッパでも最高の左サイドバックの一人で、もちろん欧州王者でもあります。

司会者:
彼は従来の方法ではひどく悪い選手かなにかなのかな?なにが問題だったの?

グラハム:
いいえ、そうですね…ロバートソンの問題は、彼のバックグラウンドでした。彼がプレミアリーグでプレーし始めたのが22歳のころで、ハル・シティにいました。あまりいいフットボールチームとは言えませんでした。彼らはプレミアから降格してしまいます。そのころ、彼は英国人として最高の若手フルバックだったのです。

彼の場合はとても奇妙で、攻撃的なフルバックが守備がお粗末なチームでプレーしていました。

司会者:
どんな指標でその能力を発見したのかな?

グラハム:
プレーヤーが行うすべてのボールタッチに関するデータを持っていて、ピッチ上でその次に何が起こるかを把握していました。1秒間25フレームの中で選手がどう動くかを見ることが出来ます。光学追跡の技術がそれを可能にしているのですが、もともとはミサイル追跡に使用されていたテクノロジーです。ミサイルよりも人を追跡する方が容易ですよね。人のほうが遅いですし。

司会者:
一つか二つ、具体的な指標を教えてもらうことはできる?とても重要なことだけど、フットボールファンや、もしかしたら監督やスカウトも知らないかもしれない。その指標はデータから拾うことが出来るんだよね?

グラハム:
ええ。とてもいい質問ですね。

私たちはすべての情報を一つの通貨のようなものにしようとしました。フットボールは勝利を目指すスポーツなので、ゴール数で判定されます。プレーヤーがピッチ上で行うアクション、たとえばパスやシュート、ディフェンスの場合はタックルですが、それを実行した時に「そのアクションが起こる前に得点を決めるチャンスはどのくらいだったか?」と問いを投げかけます。
そして「そのアクションが起こった後にチャンスはどうなったか?」も合わせて確認するのです。我々はそれを「ゴール確率の追加」と呼んでいます。とてもキャッチーな名前だと思いませんか?

私が本当に夢中になっているのは、パスのリスクと見返りの報酬についてです。そのため、試合中の最高のパサーは最低のパス成功率を記録することもあります。それはフットボールの試合では、リスクと報酬の関係がとても歪んでいるからです。

私たちはニューヨークではなくロンドンに常駐しています。だから統計を揉みくだいて、ゴール確率を追加しないような保守的なパスをプレーして高いパス成功率を記録しているような選手を見つけ出すことも容易なんです。私が本当に好きなのは、相手ディフェンスの背後に出すようなパスですね。4人か5人を置き去りにするようなものです。生み出すのはとても困難です。ですが、そういったパスを瞬時に出せるのがワールドクラスの攻撃的なミッドフィールダーでしょうね。

司会者:
とても素晴らしく魅力的な話だね。データからハイリスクなパスを見分けるのは難しいことかな?

グラハム:
データというレンズは完璧じゃありません。そのプレーヤーがどれだけプレッシャーをかけられていたのかとか、ディフェンダーがどこにいたかということはデータからはわかりません。しかしシーズンの全試合に出場するような選手はその種のパスをある一定の頻度で出し続けます。そこから選手に関する良い統計を取ることが出来ます。

司会者:
じゃあこれを聞かせてほしい。君は博士号を取得しているね。ケンブリッジの理論物理学で。別に笑う所じゃないと思うんだけど…。

グラハム:
いい大学ですよ。

司会者:
いや、そうことじゃなくて…どういったきっかけでフットボール分析の分野に行ったのかな。

グラハム:
その答えは、多く幸運とよくわからない職業決定ですかね。

博士号を取った後ポスドクをしていたんですが、広告を発見したんですよ。「生活のためにフットボール統計をやりませんか?」というね。

司会者:
ああ、とてもわかりやすいね。

グラハム:
ええ。

司会者:
じゃあ、基本的なところを質問させて欲しい。
リバプールフットボールクラブのリサーチディレクターとしての君の仕事は、つまり分析をどの方向に生かしてるかということなんだけど、フィールド上のプレーか実際の試合か、それとも選手のアスリート面向上についてなのかな?もしくは選手の売買に関するリソースとして?

グラハム:
どちらにもとても役立てることが出来ますが、特に選手のスカウトを助けるという面で本当に効果を発揮します。プレミアリーグや欧州、全世界にフットボール選手の自由市場が存在していますよね。我々はリバプールでプレーしたい選手を見つけ、所属するクラブが要求するお金を支払うことが出来ればその選手を買うことが出来ます。データ分析の真の力が発揮されるのは、データセットが巨大なときです。私たちには全世界の数十万人分のデータがあります。おそらく、そのうち5%ほどがプレミアでプレーできる能力のある選手です。しかし、それでも5,000人はいるんです。
詳細に調査しにいくには多すぎる人数ですよね。だからデータ分析でフィルタリングし、識別していくんです。

司会者:
君がユルゲン・クロップをリバプールに連れてくる役割を果たしたと私は思うんだけど、それは正しいかな?

グラハム:
ええ。小さな役割でしたけど。

司会者:
それについて簡潔に話してくれない?

グラハム:
私たちのオーナー、それに私も私の同僚も、ユルゲンとドルトムントの大ファンでした。2010年代初頭にヨーロッパで最もエキサイティングなフットボールをしていましたから。経済的に豊かと言えるわけでもありませんでした。バイエルンと比べてしまうと財政面で劣っていたにも関わらず、ブンデスリーガを2回も制したんです。いつか彼を連れてくることが出来れば、と夢のように考えていました。

しかし、ドルトムントでの最後のシーズンは悲惨でした。彼らは降格圏に沈んでいました。ドイツメディアは、ドルトムントは終わった、クロップはすべてを失ってしまった、もう修復は不可能だと騒ぎ立てました。ですが私たちの分析によると、まったく違う事実が浮かび上がってきました。彼らは苦境にありながら、ブンデスリーガで2番目に素晴らしいパフォーマンスを見せていたのです。ですがパフォーマンスが試合結果に見合っていない状況でした。ブンデスリーガ過去10シーズンのパフォーマンス分析をしたところ、そのシーズンのドルトムントは過去2番目に不運なチームでした。そのうちの1つがユルゲンの身に降りかかったのは不幸なことでした。

司会者:
リバプールとドルトムントでの成功に加え、ユルゲン・クロップはとても親切で思慮深い人のように見えるよね。なにか彼の悪い所はないのかな?

グラハム:
それについてはあなたを失望させるかもしれないと怖いです。
ユルゲンに関する私の懸念は、彼が毎週テレビの前で見せている姿は単なる仕事で、他に別の真実のユルゲンがいるんじゃないかということでしたが、全く違いました。

司会者:
それは残念。

グラハム:
とてもね。

私が言いたいのは、データ分析は新しい手法で、フットボールはとても保守的なスポーツだから伝えるのが難しいということ。他の何百の細かいことを気にしなきゃいけない監督から「君は知ってるだろ、私には興味ないね」と言われてしまうのは理解できることなんです。でもユルゲンは時間をとって私たちのアプローチについて説明する機会をくれます。彼はデータ分析を理解し、高く評価してくれている。その時点ですべての監督の中でもトップ5%に入っていると私は思います。

(おしまい)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?