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自社実施と他社実施との関係からみる特許の価値評価

特許権を維持するためには年金を支払う必要がありますが、その金額は3年ごとに3倍に増加。保有する特許権の数が増えていくとその維持費用も増大していきます。

維持費用を削減するためには、それぞれの特許権の価値を見極め、維持に見合う価値があるか否かを選別していく必要があります。

しかし、特許権の価値には様々な要因が関与してくるため簡単に算定することは困難。

ただ、特許発明の自社実施と他社実施との関係から大まかな評価を行うことは可能です。

今回のテーマはこのような特許権の価値評価です。


特許発明の分類

特許権を所有する「自社」がその特許発明Pを実施しているか否か、「他社」が特許発明Pを実施しているか否かを基準に分類すると、以下のようになります。

自社:特許発明Pの特許権者

他社:自社の競合者

図1

(1)自社実施「有」+他社実施「有」
「自社」および「他社」がともに特許発明Pを事業として実施している場合です。

特許発明Pが事業に必須な技術内容をカバーしているため、「他社」は特許発明Pを実施せざるを得ない状況です。

「他社」は「自社」からライセンスを受けない限り、特許発明Pの特許権を侵害することになり、「自社」は特許権侵害として「他社」に実施の差し止めを請求できたり、損害の賠償を請求できたりする関係にあります。


(2)自社実施「無」+他社実施「有」
「自社」は特許発明Pを事業として実施していませんが、「他社」が特許発明Pを事業として実施している場合です。

「自社」は「他社」からライセンス収入を得たり、それに相当する損害賠償を請求できたり、「他社」の実施の差し止めを請求できます。


(3)自社実施「有」+他社実施「無」+回避困難
「自社」は特許発明Pを事業として実施していますが、「他社」は特許発明Pの実施を回避するために費用の高い代替技術を実施している場合です。

特許発明Pで直接的にライセンス収入を得たり、害賠償を請求できたりするわけではありませんが、「他社」にコスト的な負担を課している点で特許発明Pが有効に機能しています。


(4)自社実施「無」+他社実施「無」+将来の需要見込み有り
量子コンピュータなどの基礎研究に関する発明であるため「自社」および「他社」がともに特許発明Pを事業として実施していませんが、将来大きな需要が見込める場合です。

特許発明Pが将来の改良発明の基礎となった場合には、ライセンス収入が見込めます。


(5)自社実施「有」+他社実施「無」+回避容易
「自社」は特許発明Pを事業として実施していますが、「他社」は特許発明Pの実施を容易に回避できるため、特許権が参入障壁として機能していない場合です。


(6)自社実施「無」+他社実施「無」+将来の需要見込み無し
「自社」および「他社」がともに特許発明Pを事業としておらず、将来の大きな需要も見込めない場合です。


特許権の価値評価

このように分類すると特許発明の相対的な価値を客観的に評価できます。

(1)(2)(3)に分類される特許発明Pは参入障壁として有効に機能しており、高い価値を持っていると判断できます。

(1)が「自社」のコア技術をカバーするような場合には、その特許発明の価値は特に高いといえます。

(4)に分類される特許発明Pも将来の競争力のために重要な意味を持っています。

一方、(5)に分類されるような特許発明Pは、特許出願から権利化までの段階で代替技術に対する思慮が足りなかったか、もともと特許性が低い技術であったかの何れかと考えられます。

このような(5)に分類されるような特許発明Pの価値は低いといえます。

(6)に分類されるような特許発明Pの特許権も財産的価値はほとんどなく、価値が低いものといえます。

(1)~(4)に分類される特許発明の価値は高く、特許権を維持していく必要があるが、(5)(6)に分類される特許発明の価値は低く、特許権の維持を見直す必要があることがわかります。


特許権は数よりもその質、どれだけ現在または未来の参入障壁として機能するかが重要です。

特許がとれてよかったで終わらないように、他社が嫌がる(または欲しがる)のはどのような特許権なのか、自社が他社の立場だったらどのように特許権を回避するのかを念頭においた権利化が必要です。

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。


弁理士 中村幸雄

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